第26話 女勇者とは
「本来、勇者は男しか就けない職だからです」
「どういうことだ?」
では何故女のゆうなが勇者なのか、俺が考える間もなくゆうなは続ける。
「言葉のとおりです。私は勇者適性がなく、???適性から発生した【呪われた勇者】なんです。だから唯一の女勇者なんです。そして呪われた職業は転職できないのともう一つ……、最大の欠点があります」
また人間界の知らない仕組みが出てきた。
最大の欠点とか、そんなものがあるとは知らず俺は???適性のしょうかんしを選んだんだ。
ゆうなが呪われた勇者であること以上に気になった。
「欠点ってなんだ?」
俺の声色も変わり、それに反応したのかゆうなはある程度間を置いた。
「……それは、特別職はレベルの上限が30なんです。なのでレベル30よりも上の方々と肩を並べることがそもそもできないのです。女勇者が弱いというか、呪われた勇者が弱いんです」
いやいや、君が呪われた勇者で、レベルの上限が30なのは分かった。
つまり話を整理すると、男しか勇者になれないけど、女のゆうなが勇者になってる時点で呪われた勇者確定ってことだろう。
ていうか俺のレベルの上限も30じゃねぇかー!
「ちょ待て待て。俺もレベルの上限30ということか!?」
俺はレベル99が最大だとして、
しかしゆうなの情報が真であれば、それは叶わない。
「……はい」
「先に言えよー」
マジか。
気持ちが萎えてしまった事は事実だが、俺の今の目的はレベル99でもそれに見合った強さでもない。
全ては魔王グレンヴァに復讐をすることだ。
レベル30が上限でも俺は元から相当強いし、別にいいや。
俺は、事実は事実だと気持ちを切り替えた。
「もっと怒らないんですか?」
「えっ?なんで?」
「私がちゃんと言わなかったせいで出野さんがレベル30で止まってしまうんですよ?」
「そうだけど俺は大丈夫だ。強いからな」
ゆうなはきょとんとした顔で俺を見ていた。
しかし、それも一瞬の事であった。
ゆうなは表情を険しくし、なにか思い詰めるように切り出す。
「これを聞いた上で出野さんと剣児君はまだ私の仲間で……、いてくれるんですか?」
何だそんなことか。
人間の悩みとは程度の低いこと。
「いやいや、お前は特別職の勇者だろ?かっこいいじゃんか!なぁ剣児?」
「ゆうな特別感でてるしなぁ」
俺は剣児に意見を求めると、剣児も俺と同じように気にはしていない様子だ。
「えっ?でも、その特別は呪われた特別なの。こんな私じゃみんなを守れる勇者になんてなれないよ。こんな呪われた勇者の私がいるパーティじゃ魔王になんて勝てっこないですよ!」
拳を握り、俺と剣児に己の価値観を強く訴えてきた。
なぜだろう、俺はその発言に嫌悪感を抱いた。
俺をも否定されているようで黙ってはいられなかった。
「お前なんか勘違いしてないか?自分が弱いから、強くなれない運命だからって、周りの奴らよりお前が一番否定してんじゃねぇか。仲間ってのは強い弱いで決めるもんなのか?前も話したけど、俺が見た女勇者は魔王に一人で立ち向かっていったぞ!」
俺は思うがままに口にした。
ゆうなは目に涙を溜め、俺の心を聞いていた。
「弱いから守れない?弱いから立ち向かえない?じゃあ強かったら守れるのか?強かったら立ち向かえるのか?そんなことはない!強くても守れないもんだってあるし、立ち向かうことさえ出来ないことがあるんだよ!」
俺達魔物は人間と違う。
レベルなんてものも知らないし、当然能力値なんてものも知らない。
己が一番強いと誰もが思っている。
故に争いも起こるかもしれないが、人間のように数値に縛られていないのでほとんどの魔物は死ぬまで自分の弱さを知ることはない。
生きているうちは皆最強なのだ。
でもな、最強の俺は配下を守れなかった。
魔王に立ち向かうことさえできなかった。
俺だって弱いんだ。
でも、今はお前らを守るし、魔王に立ち向かおうと努力してるんだ。
そう、俺は人間を復讐の材料に利用しようと思ってたけど本当は違うのかもしれない。
ただ、誰かと笑ってたいんだ。
「……ごめんなさい。私間違ってました」
ゆうなの頬に伝う一本の線は、決心がついた表れとなる。
「『仲間でいてくれるの』じゃなかったです。もう一度言わせてほしい。出野さん、剣児君、これからも
「「もちろんだ」」
俺はそういえばと思い出し、朝に買った柿ピーを出しボリボリ食べる。
「私にも下さい」
俺もそうだが、剣児はゆうなのあまりの切り替えの早さに一驚した様子だった。
剣児も混ざって柿ピーを食べていると、一人の女が焦った様子で辺りを見ていた。
「あの人、誰か探してるのかな?」
ある種の不安とも受け取れるような表情をしたその女の様子を伺っていると、俺達に近付き声をかけてくる。
「すみません、この辺で派手な着物を着た白塗りの男の人を見ませんでしたか?」
焦った様子からは待ち合わせとかそういった類いではないと感じた。
よく分からないがだいぶ目立ちそうな男を探しているようだ。
「私達は見てません。どうかされましたか?」
ゆうなも俺と同じものを感じたのか、心配そうに尋ねた。
「その人に私の大事な物を盗まれたので探してるんです。お答えいただきありがとうございます。では私は」
そのままこの場から立ち去ろうとする女をゆうなは止める。
「あのー、私達も探すの手伝いますよ」
「いや、あなた方には関係がない話ですし、相手が相手なので身を危険に晒す可能性があるので結構です。お気遣いありがとうございます」
礼をし、やはりそのまま立ち去ろうとしたので、俺も声をかける。
「俺達冒険者だし、いいよ。盗られたもんを取り返すだけだろ?大丈夫だ」
「いえ、相手は特徴からすると【
「へー。知ってるか?」
俺はゆうなに聞いた。
「おら知らねぇな」
もちろんそうだと思って、敢えて俺はゆうなに聞いたんだ。
いや、しかし本当は全員見たことはあったんだ。
相手が盗賊だとは知らなかったが。
「聞いたことありませんね。でも大丈夫ですよ。私達弱いかもしれませんが、ここは強いんで!」
ゆうなが胸を叩きニコッと笑った。
それでいい。
ゆうなは勇者としての第一歩を踏み出したばかりだ。
そんなゆうなの姿を見た女は、反応を変える。
「そうですか。ではお言葉に甘えます。ありがとうございます」
「で、どこでその大事な物を盗られたんだー?」
「今日の午前中、冒険者ギルドの近くで盗られたんです。最初盗られた時は気付かなくて、派手な着物を着た人とぶつかったなぁとだけ思ってたんです。そしてその後、私の巾着が無いと慌て、その時の事を思い出したんです。それ以外に紛失するような要因がなかったものですから」
冒険者ギルド?派手な着物?ぶつかる?
んー、何か知ってるような。
女は続ける。
「私はパーティを組んでいるので仲間にその事を言ったら、派手な着物という特徴からそれは盗人の刷野銀次じゃないかって。結構有名な盗人だったみたいで、私もそこでその存在を知りました」
「あー!分かった!あー!あー!」
突然ゆうながいつにも増して騒ぎ出した。
「剣児君、何か無くなってるものはない!?」
「えー?おら?」
剣児がパンパンと自分の体を叩きながら確認する。
そして顔面蒼白となり、徐々に口が開いていく。
「おらの剣がねぇーっ!!!」
いや、いつも腰に付けてるんだからすぐ気付けよ。
剣児は四つん這いになり、全身で無念の様を表現していた。
縄張り争いに負けた元魔王ですが、リベンジのため勇者パーティに仲間入りします! ~え?勇者側って【レベル】が上がると強くなるの?そんなんチートじゃん~ 馬野郎 @umayaro-
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