ソロ〇〇な小説が読みたい2【KAC2021 お題『ソロ○○』】

石束

ソロ〇〇な小説が読みたい2

 ノってきたので、読書エッセイ2つ目(笑)


☆ソロ修行(「独行道」と書いて「ソロ修行」と読む)

『宮本武蔵』(吉川英治著)

 今回のKACでなぜか何度も読み返すことになった吉川英治の『宮本武蔵』(笑)


「一人でなければ強くなれない。」

 そう何度も繰り返すようにただ一人剣の道を歩く宮本武蔵――という、今、それこそが歴史上の武蔵であるかのように思われている武蔵の肖像は、もちろん稀代の小説家吉川英治の創り出した幻像に他ならないわけです。

 ではあの武蔵像は一体どこから生まれたのか? 

『宮本武蔵』の執筆後に書かれた『随筆 宮本武蔵』には武蔵が晩年に編んだ『独行道』という文章が繰り返し引用されています。これは宮本武蔵が自らの死の間際にこれまでを振り返って書き残した人生訓とでもいうべきもので、小説である『宮本武蔵』も書かれる時にはこの文言に照らして人物像を作り上げていった様子がうかがえます。

「我れ神仏を尊んで神仏を恃まず」とか「われ、事において後悔せず」とか。

「え。宮本武蔵の名言ってここに載ってたの!」とちょっと驚けるような文章です(笑) そしてこれを読んだ吉川英治は

「つぶさに見ると、まったく孤そのものである。孤の寂寥をいかに楽しむか、哲学するか、道徳するか、芸術するか、ほとんど生命がけでかかっている孤行独歩の生活の鞭だと僕は見るのである。」

と喝破するのです。

 まさに信念の『ソロ』。『ソロ』の達人。

『独行道』に浮かび上がる武蔵の孤影こそが吉川英治が想定した人生終焉時の武蔵であるのならば、小説『宮本武蔵』はそこへ向かう道程を刻んでいく物語だったということになります。もちろんこれだけが小説のスジを全部決めていたわけではないでしょうけれど。

 武蔵の実像は分かりませんし、作者の思い描いていた世界も同様です。ただ、何度読んでもわからないことがあります。武蔵にとって強くなるために孤独が必要だったのか。それとも彼が孤独だったからこそ強さを求めざるをえなかったのか。

 答えが出ないのではなく、読むたびに印象が変わるのです。

 宮本村の悪童から剣の道への開眼、吉岡一門との死闘、そして巌流島へ。強くなるために『ソロ』になった兵法者。漫画の『バガボンド』は勿論、それこそFGOのサーヴァントの『彼女』ですらも、常に他者との距離を測り容易に間合いに入れない姿勢は『宮本武蔵』の武蔵同様、どこかに漂っています。


 ……あとこの『独行道』には「恋慕の思ひに、寄るこころなし」という文章もありまして、どうやら吉川先生が武蔵とお通さんを絶対にくっつけようとしなかったのはこの文章の所為らしいんですね。

 くそ。この文章さえなければ、作中でお通さんが幸せになったかもしれないのに。


☆【ソロパート】

『響け! ユーフォニアム』(武田綾乃著)


 そうだ。こういう『ソロ』もあった。いやむしろソロってイタリア語で音楽用語じゃないか?

 などと本棚を見て叫びかけた午後8時(笑)


 京都府立北宇治高校・吹奏楽部を舞台に主人公のユーフォニアム奏者・黄前久美子と視線を共有しながら音楽に打ち込み、それだけではなく様々な人間模様に揺れ動く青春を追いかける青春群像劇。

 物語の劈頭たる第1巻「北宇治高校吹奏楽部へようこそ」のクライマックスがトランペットのコルネット『ソロ』をめぐるオーディションでした。

 自らが積み上げてきたもの、人の期待を背負って引けなくなった3年中世古香織は自分自身を鼓舞して舞台に上がりますが、主人公久美子の親友 高坂麗奈は全身全霊で誰のためでもなく只管自分のためにその「居場所」を奪いに行く。

「特別であるために」とそう言い切る彼女はどこか常人離れしています。

 欲しいもののために非難も痛みも承知で突き進む彼女と、ドラスティックに改革を迫る指導者・滝こそが今までの吹奏楽部からすれば異端です。

 そんな麗奈をただ一人自身の全てをかけて肯定することで、主人公久美子が麗奈と滝の側に立つ。これがすべて始まりであることを、最後まで読んだ我々は、あるいはあの素晴らしいアニメを見た我々は知っています。

『ソロ』を奪いにゆく高坂麗奈の姿は、いずれ北宇治吹奏楽部全員にとってのあたりまえになる。己の存在証明のために汗を流し涙を流し血を流す。そうしなくてはだどりつけないのであれば、その道を歩くほかない。ならば前に進め――そんな未来を暗示する象徴としての『ソロ』です。


☆【ソロ登山】

『山を生んだ男』

『呼ぶ山』

『神々の山嶺』(以上、夢枕獏著)


「――おれの山はケンカなのだ。(中略)

 ケンカであるからこそ、山へ登るのはいつも独りなのである。」


 これぞ夢枕獏の『山』っ!

『山を生んだ男』の一節です。ここに続いて「自分の体力で担げる範囲の食糧が、その分だけ山で自分を生かしてくれる」という文章にまたしびれる。もうどんなに好きか。学生時代青春18きっぷで熊野古道に行った時はナップザックのポケットに夢枕獏と新田次郎詰めていきました。

 ――ああ、だから体力の限り歩くとかいう変なトレッキングになったのか(笑)

 でも楽しかったな。重たい体を引きずって、せっかく頼んだうどん半分しか食べられなくて、それもやっと上って見に行った紀三井寺の桜。もう満開だろうなあ。


 山とは過酷であるがゆえに準備し団体でバディで登らなくてはいけない。単独であってもそのただ一人は大勢に支えられているのだと知らなくてはいけない。

 だがそうであっても、山は誘惑する。自分は歩けるのだと証明しろと、たどり着けるのだと証明しろと、誰よりも早く行けと、誰もがあきらめた場所をゆけと、より困難な道に価値があるのだと、頂に至れと誘惑する。

『神々の山嶺』はエベレスト。『呼ぶ山』はK2。「単独登頂」という魔物にとらわれたアルピニストの物語。

 読了後「なぜ人は山に登るのか」という問いかけが、きっと今までとは違って聞こえるようになります。そしてあなたがもしその『答え』を知っていたのなら、それも違う『答え』になっているかもしれません。


 やっていることは『ゆるキャン△』と同軸上にあるとのいうのに何このサツバツ感(笑)


☆【ソロごはん】

『孤独のグルメ』(原作・久住昌之、作画・谷口ジロー)


 ここに書く前に読み直して確認しましたが、ほんとに一人なんですよね。

 一緒に食べて楽しいなんてシーンはなくて、周囲を見まわす時は情報収集が主たる目的(笑)破壊力は正直ドラマの方が上ですが、漫画のこの淡々とした空気は取り換えが聞きません。

 Wikipediaに毎日新聞の記事が引用されていました。台湾でもこの作品は紹介されており、漫画の方は直訳でしたがドラマのタイトル『美食不孤單』と違っていました。これは向こうの言葉で「おいしいものがあれば孤独ではない」との意味なのだそうで、久住先生は「このほうが内容にあっている」とおっしゃったそうです。

 これがドラマの事を指すのか、漫画版『孤独のグルメ』そのものを指すのかはわかりませんが、もしも本作に込められた作者さんの想いが

「おいしいものを食べることで人は孤独の中でも頑張れるんだ」

というメッセージなら、『孤独のグルメ』というタイトルの印象は180度ひっくり返ることになります。本当にそうだったら、これはひょんなことから作者の作品とタイトルに対する秘められた思いが分かった稀有な例になります。

 元ネタの毎日新聞の記事を確認に行かねばなりません。

 そしてドラマの内容から作品の本質をつかみ取った現地台湾スタッフに拍手(笑)


 そして。松重豊さん演じる五郎さんが「これでもか!」と食べまくるドラマがまたおいしそうで(笑)このドラマの所為で幾度夜中にエビフライやらクリームコロッケを揚げたか。そして、何度近所の焼き肉屋に走ったことか。


 食事は一人で黙って食べるのが基本の現在。

 それを寂しく、孤独であると感じる人もいるでしょうが、美味しいものがあればもう少し位がんばれそうです。


 それにしても腹が減った。

 今日は、どこでなにをたべようかな?




☆【ソロちゃんばら】

『眠狂四郎孤剣五十三次』(柴田錬三郎著)


 おそらく時代劇世界最強の『ソロ』。眠狂四郎。

『孤剣五十三次』は連作短編集ですが、それだけにたくさんの人が狂四郎と出会い、別れていく。

 とにかく説明をしない心を開かない。そして、そんな彼を誰も理解できないから周囲が不安になる。  

 密書を持っているわけでも、誰かを連れているわけでもないのに、ただうろたえた敵方が疑心暗鬼で不安になって次々に襲い掛かってくる。

 女性も次々現れますが、ほんとに誰一人幸せにならない。


 宮本武蔵が信念の『ソロ』なら、眠狂四郎は宿命の『ソロ』。


 天にも地にもただ一人だからこそ、彼の物語は成立するという非常に切ないキャラクターです。

 絶対の強さは、人を孤独にするのか。すべてを切り捨てる強さを持つがゆえに、誰にも殺せない程の強さを持つがゆえに、同時にいつまでも闘い続けねばならない。

 そして登場する女性陣。なにせ深い仲になった時点でヒロインの方に死亡フラグが立つので、少しも安心して見ていられません。

 沢山眠狂四郎の物語はありますので人によってベストは違うでしょうが、私はこの『孤剣』がずっと好きです。





 よし。とりあえずかけたので満足しました。さあ。小説を書こうか(笑)

 なんか、コレを書いただけで結構まんぞくしているけど。

 


 








 




  

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