第6話 真実の愛とは幽霊のようなもの

真実の愛は幽霊のようなものだ。

誰もがそれについて話をするが、それを見た人はほとんどいない。

             ラ・ロシュフコーより


「ねえ、祐一君!」

思わず、祐一君に声をかけてしまった。

とにもかくにもこの二人を遠ざけたいという一心で。


「なんだよ、ハル。」

「あ…あぅ、なんでも…ないけど…」


ハルが思わず呼び止めてしまったことで、祐一との間に気まずい空気が流れてしまった。だが、祐一はそんなハルの気持ちを介さないかのようにふるまう。

「なんだよ!何にもないならいいな!行きましょう!夏海さん!」

再び、祐一と夏海はハルの先を先導して歩いていく。


肝試しツアーは夏海の登場で、一旦中止となったのだった。

夏海は「落とし物」をしたらしく、わざわざ校舎に戻ってきたということだった。

祐一は事情を下で待っている2人に話すと、とりあえず全員集合しようということになった。


冬彦と秋子からすれば、祐一とハルを進展させようとしているのに第三者がうろうろしているのでは邪魔が入って仕方がないからである。

そんなことを分かっているのか、祐一は夏海にべったりである。

「夏海さん、結局落とし物って何なんですか?」

「大切なもの。でも、どんな形だったのか、思い出せないの。」

「?とにかく、みんなで手分けしたらすぐ見つかりますよ!」

祐一は、夏海に手を取り、鼻息を荒くする。

「ん、うん。ありがとうね。」

夏海が返事をするのが早いか否か、ハルが祐一の手を取る。

「祐一くん!ズルいよぉ~!ハルも手をつなぐっ!」


夏海さんは上級生らしい。

とても清楚で美しく、大和撫子というのはこのようなことをいうのかと思う。

歩くたびに香る蜜のかほり。

白く透き通った透明感のある肌。

そして、夏海さんの声を聞くと不思議な気持ちになる。

これは恋!?

今までにあったことのないタイプの女性で、男性ならみんなが引き寄せられることだろう。


夏海さんは「落とし物」をしてしまったそうなので、全員で探していこうということに冬彦との話で落ち着いた。

当直も今日はいるらしいから、全員で集まったら事情を話してもいいかもしれない。

いや、ダメか。

夜中の教室に忍び込んでるなんて、どう説明すんだよ、って話だよな。

ともかくはまずは冬彦たちと合流して、これからのことを話そう。


家庭科教室の前で、2人を待つ。

懐中電灯の光が廊下の奥から近づいて来る。

「おぉ~い、冬彦さ~ん。こっちだよ~。」

ハルが声をかけると、冬彦はこちらに気が付いたようで勢いがよくなった。

「こっち、こっち!」

俺が声をかけると、さらに足早にこちらに近づいてくる。


近づいてくるにつれ、そのフォルムはどんどんと大きくなってくる。

あれ。冬彦、こんな大きかったか?

光の主が俺たちに、懐中電灯を照らす。

「お前ら、こんな時間に何してる?」


「げ…。吉田…」




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