自給自足スノウホワイト

人生

 素敵な王子さま、募集中




 雪のように白い肌スノウホワイト・スキン! 血のように赤い頬に唇ブラッドレッドチーク&リップ! 黒檀の木のように黒い髪ブラックブラックロングヘアー



 その美しい容姿ゆえに、彼女は白雪姫スノウホワイトと呼ばれていました。


 健やかに美しく育ったスノウは何不自由ない生活を享受していましたが、ある日、彼女の母親――お妃さまを不幸が襲います。


 そう、お妃は死んでしまったのです!


 それを嘆いた王さまに、言葉巧みに言い寄るヘビのごとき女が一人。

 それがのちにスノウの継母となる、新しいお妃さまです。


 継母おくさまは、魔女でした。


 その魔女は自分を世界一美しいと思い込んでいる自惚れものでしたが、ある日、鏡の中に映る自分の言葉に我に返ります。


「世界で一番美しいのは――」


「スノウよ」


 それは魔女の無意識が放った言葉でした。そう、魔女は自覚していたのです。自分よりも、義理の娘であるスノウの方が美しいことを――


 王さまは魔女を妻として愛しながらも、何より一人娘であるスノウに格別の愛を注いでいます。

 これでは王様の死後、その遺産は全てスノウに奪われてしまうでしょう。

 そう危惧した魔女、一計を企みます。


 スノウをお城から追いやるべく、あの手この手と悪辣な手腕を発揮し、ついにはスノウをその手にかけようとまで考えました。


 継母の陰謀を知ったスノウもまた、一計を企てます。

 自らの死亡を偽装したのです。


 そうしてまんまと継母の裏をかき、お城を脱したスノウでしたが、行くあてがありません。

 逃げ隠れさまよい歩いた先で偶然、スノウは小さなお家を見つけます。

 森の中につくられたそれには、の童女たちが住んでいました。

 スノウは童女たちと散々言い合った末、家事手伝いを請け負うことを条件に、童女たちとのルームシェアを勝ち取ります。


 かくして童女たちと同棲を始めたスノウでしたが、面白おかしく暮らしていたせいか、やがてその生存が魔女に伝わってしまいます。


 王さまの死後に遺産の相続権を主張してきてはたまらないと、魔女は念には念を入れ、スノウの暗殺を企てます。

 スノウは公の上では既に死んだ身。今一度殺そうが、なんの罪にも問われません。

 しかし、万が一のことがある。魔女は自らの手を汚したくはありませんでした。

 そのため、暗殺者を雇います。


 一人目は自殺偽装の名手、紐を自在に操り首吊り自殺を装う天才です。

 都合のいいことにスノウの住居は森の中のボロ小屋です。自殺者が出てもなんら不思議でないとほくそ笑む一人目でしたが、しかし残念、スノウは一枚上手でした。


 後日、森の入り口にて首吊り遺体が発見されます。


 二人目は式神・使い魔なんでもござれの呪術遣い。丑の刻参りで呪い殺そうという算段です。これならさすがのスノウも反応できません。

 継母から授かったスノウの美しい髪の毛を用いて行われた儀式でしたが、しかし無念なり、なぜかスノウには効きません。

 呪いによる遠隔攻撃を察したスノウ、当然反撃を企みます。一方の呪術遣い、己が身を案じて逃走、この件からきれいさっぱり身を引きました。


 三度目の正直と行きましょう、魔女は自ら手を下す覚悟を決めます。

 老婆に化け、愛人に自らのアリバイ証明を任せた上、魔女はスノウの前に姿をさらしました。


「お嬢さん、このリンゴをお食べなさい」


「ありがとうお婆さん――」


 紅いリンゴを一口かじり、呑み込みます。

 するとたちまちリンゴの毒がスノウの全身に行き渡り、なんたる無慈悲、スノウはついに斃れてしまいました。


 死体になっても美しいスノウホワイト――埋葬することが躊躇われ、の童女たちはスノウをガラスケースに納めて森の奥に隠しました――




                   ■




 それから数日、あるいは数年――


 一人の若者が森の中のボロ小屋を訪ねてきます。


「私は白雪家にご亭主に依頼され、白雪家の家出したお嬢さんを捜しているものなのですが」


 若者――見目麗しい王子さま系のその方を見て、六人の童女は話し合います。


「これぞ予言に示された、スノウを目覚めさせる運命の人ではないか?」


「そうかもしれない。だってこの人カッコいい」


「きっとスノウも気に入るはずさ」


「スノウも、いつまでも一人でいるのは可哀想」


「この人ならスノウに寄り添ってくれるはず」


「それともぉ――殺っちゃう~?」


 かくして童女たちはその若者を王子さまだと六段階認証、その方に森の奥へ行くように告げます。


「お嬢さんを見かけたのかい? 出来れば案内してもらえないだろうか。……ところで君、私とどこかで会ったことが……?」


 案内を口実にナンパしようというのでしょうか、王子さまの性格に難ありでは? やっぱり殺っちゃう? と童女たちの意見が割れます。


 しかし最終的には童女たち、若者にスノウの居場所を教えるのでした。

 それから、もう一つ。童女たちは若者に魔法の言葉を授けます。


「きっとスノウを目覚めさせるには、王子さまの甘いキッスが必要なのよ。キッスをすると健康になれるのだわ。そう、スノウに必要なのは愛、人の愛情なのよ」


 そうして送り出された若者、ついにスノウと対面します。


「ついに見つけた、彼女こそが白雪家のご令嬢。眠っているようだが――愛、愛か。きっと継母との関係がこじれてしまい、孤独を抱えていたんだろう。それで精神を病んでしまった……。妄想、虚言癖、多重人格……可哀想に」


 眠るスノウには不思議な魅力がありました。

 若者はついついその寝顔に見惚れてしまい、まるで催眠術にでもかかったかのように、その赤い唇に吸い寄せられていきました。



「私は女なのだけど――私のキスでいいのなら、」



「……え? 女性?」


 驚きたちまち目覚めるスノウ。そう、スノウは眠ったふりをしていたのです。


 見れば若者、王子さま系のルックスこそしていますが、顔が近づくとそれが女性のものだと分かります。慌ててスノウ、若者の催眠を解こうとしますが、時既に遅し。



 接吻が交わされ――スノウが長年、一人ソロで取り組んできた自作自演の演劇魔法『白雪姫の婚約いつまでも末永く幸せに』が成就してしまいました、とさ。



 めでたし、めでたし。



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