ソロ活するつもりはなかったけど、彼氏にフラレたのでソロ焼き肉行ってきました。
天雪桃那花(あまゆきもなか)
ソロ焼き肉パーティーだぞ!
くぅぉおらぁぁ――!
なに、浮気しとんじゃいっ!
私は同棲中の彼氏にブチ切れていた。
般若の如く目を吊り上げ、烈火の怒りを彼に向けた。
しかも、なんで今日なんっ?
今日、私の誕生日じゃないですかー!
恋愛の神様は意地悪だ。
✧✦✧
明くる朝、ご機嫌な私が彼にベッドの上で甘えて抱きついたら、彼は寝言で「マリカ〜♡」と言ったのだ。
ゔうんっ? マリカ?
「はぁ――っ? マリカって誰? 私の名前は
私は彼の荷物をガサ入れした。
いくら同棲しているとはいえ、今までプライバシーだと思って、彼の物を許可なく触らないようにしていた。
が、しかし、女の勘が異常事態を感知している。
恋人関係に危険信号が点滅する。
私は彼女としての浮気察知能力を開放した。
そうだ、これは特例だ。
何も出なければそれで良いのだ、気が済むのだ。
まぁ、……出てくる、出てくる。
あんのヤロー。
マリカとツーショットのプリクラ(裏にマリカラブって書いてある。アホか)、マリカからのラブレター、マリカからのプレゼントのアクセサリー(アクセなんて彼がつけたとこ見たことないわっ)、マリカが選んだらしきマリカ好みだろうメンズの香水(あいつ、香水なんかつけたことないじゃんか)……。
プリクラや写真の中の彼の顔がマリカにデレデレで、哀しくなってきた。
涙が勝手にこぼれる。
泣くつもりなかったのに、五年も付き合った彼氏に裏切られていたかと思うと、哀しいのとなんか情けないのとでぐっちゃぐちゃな気持ちになった。
情けない気持ち、それは浮気なんかする彼氏に対してと、気づかなかった自分に対してだ。
私は彼が好きだった。
誰よりも。
彼のことが大好きだった。
彼も私が好きだと思ってた。
誰よりも。
私のことが一番好きだって言ってくれたのに。
問い詰めたら、彼は言い訳しなかった。
「いや〜、バレちゃったか。別れようか? 俺、お前に飽きちゃったんだよな。ははは」
なにが『ははは』だ。
ニヤついた顔の彼に、ぶっちゃけずっと二股だったって言われた。
なんでそんな顔?
こいつ悪いと思ってないんだ、絶対。
ガビーン……って音しそうなぐらいショックだった。
✧✦✧
ちょっとお高い焼き肉屋さんで、誕生日のランチ(高いからディナーは予算が無理だった)パーティーしてくれるって言ってたのに。
「……あ〜あ、焼き肉ランチコース払い済みなんだけど。金もったいないから、お前一人で食いに行ったら?」
これ、別れ際の彼氏の言葉。
なんなのよ!
こうなったら、一人で焼き肉行ったろうやないかい!
「私が焼き肉行ってる間に荷物をまとめて出て行ってよね!」
「きゅ、急すぎでしょ? いくらなんでも無理だよ」
「シャラーップ! 問答無用! 浮気したアンタが悪い。実家なりマリカのとこなりにでもアンタなんかどこでも行くが良いさっ」
私は手早くお気に入りのデニムワンピースに着替え、焼き肉店へと向かう。
向かうには早すぎたが、お店は都内にあるのでそこそこ遠いし、暇を潰せる大型書店や喫茶店があるだろう。
ちょうどファーストフード店が焼き肉屋さんの横にあって、紅茶や朝メニューのサラダを食べ予約時間までいた。浮気発覚と別れ話のドタバタで、そういや、朝御飯食べてなかったなと思い出した。
私はスマホに彼から謝りの連絡が来ないかチラチラチェックしたが、メールも電話も音沙汰なかった。
腹立つー。
こうなったらやけ食い、やけ食いだ。
私はショックを怒りに変えた。
気持ちを切り替え、さぁて焼き肉屋さんへゴー!
かなりいいお値段がする焼肉屋さんは、外観もお洒落〜。
白を基調とした建物はフレンチレストランや洋風のお屋敷の様で、中に入れば店内はがらりと雰囲気が変わり、赤が挿し色に使われたモダンかつスタイリッシュなお店だった。
ふっ、失恋やけ食い誕生日
案内された席は予約席で、半個室だった。
完全な個室部屋ではないものの、プライバシーは多少守られるだろう。
まもなくやって来たベストの制服で決めたウェイターさんが、
清潔感を感じエレガントな仕草、眼差しは穏やかに、にっこりとした営業スマイルが輝いている。
「お連れ様がいらっしゃるまで料理はお待ちになりますか? 先にお飲み物だけ何かお持ちしますか?」
「連れは今日は来ません。一人です。一人になっちゃいました」
店員さんの応対に私はヤケクソで答える。
私の言葉で、若干の狼狽が見てとれた。
そりゃあそうだろう。
アイツのことだ。予約の時に彼女の誕生日でさぁとか言ったに違いない。
「お一人なんですね」
「一人です」
「確認させて頂きます。一名様にご変更ですね。申し訳ございませんが、お二人のコースでの承りでしたので、ご用意してしまいました。お一人分はキャンセルなさいますか?」
「一人で食べます二人分。食べれますから」
初対面の人に何をヤケになって言ってるんだか。
急に恥ずかしくなってきた。
「かしこまりました。食前酒からお持ちいたします」
「はい」
テーブルにずらりとならんだ和牛や極撰のA5ランクのお肉たち。こだわりの野菜も並ぶ。
高級焼肉店だからか、二人分のコースでも一皿一皿の量はあまり多くは載っていない。
これならイケる、と私は確信した。
私の一人焼き肉パーティー開催だ。
焼こう、焼こう。
ジュー、ジューッ。
じつにいい音だ。
備長炭の炭火で焼き、肉の余分な脂は落ちる。
私はよく焼く方だ。
玉ねぎと焼いた上質のロースをサンチュで巻いて食べる。
つけダレの甘辛のヤンニョムソースがよく合う。
岩塩や柚子塩、レモンや店のオリジナルフルーツソースだれなどがお肉の旨さをさらにひきたてる。
音を立てて香ばしい匂いをさせ、最高の食材たちは食べごろを迎える。
私は次々と口に入れ、咀嚼した。
「うーん、美味しい」
程よくサシの入ったロースにタンにカルビにハラミ……、良質な肉の脂はほんのり甘く、口に含むとさっととろけた。歯がいらないぐらい柔らかいお肉たちは、次々と食べても胃が重たくならない。
椎茸やエリンギに、数種類の海鮮も運ばれてきた。海老にホタテやねぎバターホイル焼きの香りは鼻を突き抜けていく。
栄養満点の焼き肉コース。
山や海や陸の食材の美味しさと匂いや食感は脳内や体内中を駆け回り、さらには気持ちも満たしていく。
炭火の上の網の舞台に並ぶ主役たちが、私に微笑むようだった。
まだまだ食欲をそそる煙を立ててる。
――気づけばあっと言う間の饗宴だった。
すっかりお腹がいっぱいになって、私はビビンバと杏仁豆腐はお持ち帰りにしてもらった。
私の誕生日ソロ焼き肉パーティーは終わりを告げた。
大満足だ。
一人でも。
だってすっごく美味しかったもん。
お腹いっぱい、はちきれそう。
これはあまりにもお腹がいっぱいすぎて、しばらくはもうなにも食べられない。
さぁ、帰ろうかな。
……ちょっとセンチメンタルな気分になりそう。
「お客様お誕生日おめでとうございます。ささやかですが……どうぞ」
最初のウェイターさんがやって来ると、可愛らしい花束と小箱に入ったケーキをプレゼントしてくれた。
「素敵なお誕生日をお過ごしください」
私は胸がじんわりと温かくなった。
ソロ活、楽しもう。
彼氏と別れたからって、人生終わりじゃないし。
今度はお互いをちゃんと大切にできる相手と出会えるかもしれない。
まぁ、この先そんな人に出会えなくともソロでも、楽しんだもの勝ちではなかろうか。
私が輝ける人生のために、ソロ活しながら面白いなにかを探していこうかなって思った。
ハッピーバースデイ、私♪
おしまい
ソロ活するつもりはなかったけど、彼氏にフラレたのでソロ焼き肉行ってきました。 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE
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