第18話

 扉を開け放ち、もはや懐かしささえ覚える酒場へと足を踏み入れる。

 数少ない冒険者達も俺の姿が珍しいのか、やたらと視線を送ってきていた。

 それとも俺の隣を歩くラフィに注目しているのか。いや、その可能性が高いか。

 ともあれ久しぶりの再会となるレーナは、相も変わらずぎこちない笑みで俺達を迎えてくれた。


「ハルートさん! 体の調子はもういいんですか!?」


「まぁ、どうにか。ノキアの医者が優秀だったのが幸いしたみたいだ。後遺症も無くて助かったよ」


「それと私が看病してあげたからだよねぇ、きっと」


「俺の目の前で果物を食ってただけだろ、お前」


 あの後もラフィが足しげく俺の所へ通ってくれたが、結局果物を見舞いの品としてくれることは無かった。

 流石にこの能力を貰っているため、これ以上なにかを寄越せとは言えないが、病人の前でわざわざ果物を食べるとのは一体どういう心境なのか聞きたくはあった。

 ただラフィに問いかけるより先に、レーナは興奮気味に食って掛かった。


「今の協会ではハルートさんの話で持ち切りですよ。あのセンチネルをラフィさんと二人で撃退したんですから、当然ですが」


「センチネルってなんだ?」


「冒険者協会の研究者がアーシェスに付けた学術名称だよ。さすがに名無しのままだと格好が付かないからね」


 小声で問いかけた俺に、ラフィも小声で答えてくれた。

 まぁ、今さら感はあるが、確かにアーシェスという名前を知らなければ呼びにくい事に変わりはない。

 その点には同感だが、レーナが語った話の内容には多少の齟齬が生じていた。


「センチネルを撃退できたのは運が良かっただけだ。それに殆ど、ラフィの力のお陰だったしな」


「ご謙遜を。ラフィさんからお話を聞いていますよ。あの怪我もセンチネルとの戦いで負った物だと」


 どういう事かと視線を下へ向けると、ラフィが小さく手招きをしていた。

 少しかがんで視線を合わせ、どうにかラフィの声が聞こえるよう耳を貸す。

 距離感に思わず心臓が跳ねるが、どうにか平然を装う。


「今後の事を考えると、そっちの方が都合がよかったんだよ。だから適当に話を合わせておいて」


「まぁ、お前がそう言うなら」


 魔剣士が急に実力を伸ばして成果を上げる方が不自然だと思うが、ラフィにも考えがあるのだろう。

 これから能力を使って活動していくことを考えれば、一々否定する理由もないということだろうか。

 十分に理解はできていないが、一応は無理やり納得させる。

 

「それでですね、お二人の活躍を聞いた支部長がぜひともお話をしたいと言っているのですが。また後日、時間のある時に窓口へお越しください」


 冒険者協会の支部長からの使命と聞き、顔が引きつる。

 以前、クランを率いていた時の俺なら飛び上がるほどに喜んでいただろう。

 協会から指名される事は、それだけ評価を得ているという事に他ならないからだ。

 そのため、必死に冒険者協会の評価を上げるよう努力を続け、数年を要した。


 しかし今は、この街に来てたった数日間で評価を得られるところまで来ている。

 ラフィからもらった能力のお陰か。それとも冒険者が少ない弊害か。

 喜ばしい判明、多少の不安を抱きながらも、承諾するのだった。

 


 ◆


 人の少ない酒場の一角。

 簡単な食べ物と飲み物を頼み、腰を据える。

 そこでようやく、俺は抱えていた疑問を問いかける。


「それで、詳しく聞かせて貰えるんだよな。お前の事と、この能力の事を」


 じっと蒼い瞳を見つめて問いかければ、ラフィは小さく首をひねって唸りを上げた。

 話す気が無いわけではなさそうだが、話す内容を慎重に選んでいるようには見える。

 そして短くない時間を要し、食事が終わったころにようやくラフィは口を開いた。 


「どこから話したものかな。色々と話すとなると長くなっちゃうんだよね。だからまぁ、端的に言うと――」


 当初と変わらない、間延びした口調でラフィは告げる。


「その力を使って、この大陸を救ってほしいんだよね」


 そんな事を、軽くのたまうのだった。

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追放された下級冒険者は、最上級を上回る超越級のスキルを会得し、新たな仲間と共に最強の道を駆け上がる! 夕影草 一葉 @goriragunsou

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