エピローグ
お義父さん(国王)からレイナとの結婚の許しが出て、早一週間。
王立新聞や掲示板などを利用して、俺とレイナが結婚し披露宴を上げることは王都だけでなく王国中に伝わっている。
何でも吟遊詩人が俺とレイナの恋愛譚を大袈裟に書いて広めているらしい。
――曰く、デュークハルト侯爵の長男として生を受けた男は麒麟の化身だった。
彼は齢5歳で女神の『職業』に加護された数多の騎士を倒し、近衛騎士と渡り合った。その強さを見せられ気に入った彼を気に入った国王は第一王女であるレイナとの婚約を許した。
幼い頃からずっと仲睦まじく、とてもお似合いの二人だった。
しかし女神様はそんな彼らに試練を与える。
麒麟の化身に与えられたのは、最弱の『農民』
いつか英雄となると期待を受けた彼は失望され、彼もまた期待に応えられぬ自身の弱さを克服するために武者修行の旅に出た。
『職業』を授かる前から騎士に渡り合った麒麟の化身。
『農民』は弱くとも、彼の強さを弱体化させるものではない。
家を出てたった一か月で竜を倒したのを皮切りに、毎日のように竜を倒してはその成果を引いて王都を駆け回った。
彼が竜を倒し続けたのは、愛しのレイナ様との婚約を再び認めて貰うため。全ては愛の為に、麒麟の化身は限界を超えた力を発揮した。
やがて麒麟の化身は、真龍であるファフニールにその強さと勇気と真なる愛を認められ『職業』の加護なしに、その人柄と純粋な腕っぷしだけで彼を従えるに至る。
また『龍騎姫』の加護を得たレイナ様も、最強の龍である雷龍を従えるに至るが、ハイトは学友としてそれを大きく助けた。
また、麒麟の化身は愛情深いだけでなく、勇敢で義理深い。
彼は悪魔に憑りつかれ憔悴していた妹を救うため、王国最強の魔導士と共に魔界に赴き、悪魔を払う薬を取ってきた。
数多の竜を屠り、龍を従え、悪魔をも斃す真なる実力。
彼は麒麟の化身であるが故に女神の加護を必要としなかった。
否――彼もまた女神と同じく、神の域にあるが故にかの女神も最小限の加護しか与えることが出来なかったのである。
そんな彼の強さ、勇気、愛情を認めた国王は『農民』である彼と、レイナ様の結婚をお認めになった。
深く愛し合う二人は、ようやく結ばれる。
全ては麒麟の化身の勇気と強さ、それから二人の想い合う真なる愛情によって今回の奇跡を実現できたのである――
と言う感じで、なんか俺『麒麟の化身』になってた。
まぁハーメニアって基本的に職業至上主義だし、一介の『農民』でしかない俺が穏便にレイナと結婚するためには俺自身が特別だと触れ回るのが最も効果的だろう。
多神教国家だと王が神の化身やそのものとされるのはよくあることだし、ちょっと小っ恥ずかしいことを考えなければ何も問題はない。
そ・れ・よ・り・も――俺は、レイナを見ることで精一杯だった。
「は、ハイト。変じゃないですよね?」
「あ、ああ。うん。すっごく綺麗だよ、レイナ」
純白のベールと白いウエディングドレスに身を包んだレイナ。
色白で金髪碧眼。全体的に白く清楚な印象があったレイナがウエディングドレスを着ると、それはもう正に天使の化身と言えた。
「ハイトこそ凄く格好良いですよ」
レイナがそっと体重を預けるように俺に抱き着いてきた。
柔らかい感触。それでいてレイナが羽のように軽く、細く感じられた。俺もレイナを抱き返した。
俺の格好は白いタキシード。正直あんまり似合ってないという自覚はあるけど、レイナが綺麗過ぎてどうせみんなそっちしか見ないだろうしあんまり気にならない。
「仲睦まじいのは喜ばしいが、二人とも早くしてくれ。集まった民たちがお前たちの晴れ姿を早く見たいと待ちくたびれている」
国王は俺とレイナの肩に手を乗せ、上機嫌そうに舞台まで行く。
舞台は王城。よく国王が国民に向けて言葉を上げるときに使われる、よく目立つ高い台の上だ。
そこに到着すると、王城前の広場にはびっしりと人がいて歓声を上げていた。
「レイナ様ー!!」
「ハイト様ー! !」
「おめでとうございます!!」
「幸せならOKです!!」
しかし国王が前に出て、少し圧を放つと国民たちは静かになった。
……JROで丸っこい優しい雰囲気があった国王はまだ若く、猛々しかった。
「これより! 我が国の大英雄ハイト・デュークハルトと、我が娘レイナの婚姻の儀を執り行う。仲人は朕がするものとする!!!」
それは俺の知る結婚式と随分形式が違った。
……JROではウエディングドレスを着た女性キャラと指輪を交換してキスをする一枚絵が見られるだけのイベントだったし、この世界――少なくともハーメニア王国での結婚式は基本的に披露宴の方がメインで、誓いの言葉は省略されることもある。
結婚式の目的はあくまで二人が結婚したことを周知の事実にするためだしね。
そもそもこの国は『職業』信仰だけど、結婚を決定づける『職業』がないからね。
神父とかはいるけど回復魔法を使うだけだし。
「ではハイト。貴様は健やかなるときも病める時もレイナを愛し、レイナと助けることを誓うか?」
「誓います」
「レイナよ。いついかなる時もハイトを愛し、ハイトを助け、レイナの身が滅ぶその日まで貞淑にハイトの妻であり続けられると誓うか?」
「誓います」
レイナが頷き誓うと、国王はブワッと涙を溢れさせた。
「そうか。レイナ。お前はハイトの妻となるのか」
「はい。お父様。今まで本当にありがとうございました」
レイナは国王に頭を下げてから、俺の方に向き直る。それから俺の左手薬指に婚姻指輪を嵌める。俺も少しもたつきながらもレイナの左手薬指に嵌めた。
それからレイナは俺の首に手を回し、飛び込むようにキスをした。
俺は飛び込んできたレイナを抱きしめて、その桜色の唇に唇を重ねる。するとレイナは瞑ってた碧い目を開いて悪戯っぽく笑ってから口の中に舌をねじ込んで来た。
――え?! ……結婚式の、誓いのキスでディープはしないでしょ、普通。
驚きと衆目の元と言う事実に恥ずかしさを感じるけど。レイナの舌で口の中をかき回され、俺の舌を吸われるとだんだん何も考えられなくなってくる。
レイナの口の中はさっきお菓子を食べてたとかそう言うわけでもないはずなのに、何故かとっても甘い味がした。
そんな幸せな時間が数十秒とも数分とも続く。
やがてレイナはトロンとした顔で、口を離した。俺とレイナの唇を唾液が光る色のように繋げていた。
「「「「うぉぉおおおおおお!!!!」」」」
国民たちから歓声が上がる。
「二人は結ばれた!! これにて婚姻の儀を終了とする!!」
国王が宣言すると国民たちが沸き上がる。
これから披露宴――宴が始まる故に、みんなテンションを上げてるのだ。
◇
王城の内外には多くの豪勢な食事が並び、王都は祭りのように活気だっていた。
この世界に娯楽は少ない――と言うか殆どない。故に王族の結婚だとか重罪人の死刑だとか、一般市民にとっての娯楽はそれくらいのものである。
活気立つ市民たちや王城に集まる王侯貴族たちに、俺とレイナは挨拶回りをした。基本的に祝福の言葉を述べられるだけで、舌戦が繰り広げられるわけでもないけど、爵位に合わせて順番を考えたり、あと純粋に数が多かったりしたのでとても疲れた。
結婚式ってもっと幸せなものをイメージしてたけど、普通に重労働だった。
でも――
「ハイト……」
「レイナ……」
夜。レイナはシーツのような真っ白い一枚のなめらかな布に身を包んで、俺の目の前に現れる。ここは王城内。今日、俺とレイナが泊まる部屋として用意された場所。
レイナがシーツを開けさせると中には何も着ていない。
初夜だ。……この世界――少なくともこの国で、結婚したその日の夜に性行為をするのには大きな意味もある。
だがそんなことはどうでも良い。
俺はレイナと結婚して――ようやくレイナと繋がれるのだ。
レイナは日に日にどんどん綺麗に成長していく。そんな魅力的なレイナに何度も誘惑され、それでも俺は耐え抜いてきた。
だが、今日はもう我慢しなくて良い。レイナと思う存分愛し合って良いのだ。
「レイナ。大好きだ」
「わ、私もです」
裸になったレイナを抱きしめると、レイナの鼓動が聞こえる。物凄く速くてドキドキしているのが伝わってくる。だけど俺もドキドキしている。
レイナの肌は柔らかくて体は細くて、そして美しかった。
レイナが俺の唇に唇を重ねて来た。
そして俺はレイナを押し倒した――
――――――――――――――――――――――――――
作者の破滅です。
これにて廃人転生第二章は完結となります。ここまでお付き合いくださった読者の皆様方、本当にありがとうございました。
後日譚としてレイナとのいちゃいちゃ新婚生活や、ラグナやリズ先生の結婚式、三人の嫁のプチ修羅場があるかもしれませんが、とりあえずハイトとレイナが結婚したので一旦完結です。
『面白かった!』『結婚おめでとう!!』『後日譚気になる!』と少しでも思ってくださった方は★★★とフォローで労ってくれると嬉しいです。
またこの作品以外にも面白い作品をいくつか書いているので、作者フォローもしていただけるととても喜びます。
最後に、ここまで読んで下さり本当にありがとうございました。
また後日譚なり他の作品なりでお会いしましょう。ではまた!!
廃人転生~『農民』は最弱だからと実家を勘当されたけど、ゲームの知識で最強へ成り上がって見返す~ 破滅 @rito0112
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