第四話「疲れたわぁ……(ストレス溜まったわぁ)」
三番目、卓球室。
グラウンドから校舎を抜けて次のところに向かって行く。なんでわざわざ校舎を、と思うが多分第二体育館に向かうんだろう。
昨日のパンフレットが今役に立っている。
「ちょっと…………次の、場所遠くないか⁉︎」
「次は卓球室で、三十回リフティングだな」
「オレそろそろ、限界、……なんだけど⁉︎
なんで、紫調は息が、切れてないんだ……!」
「弥代も言うほど切れてないだろ」
お前ほど涼しい顔はしてないぞ、と言うほど余裕はない。こっちは陸上部と全力で走ったんだぞ。というか喋る余裕があるならまだいけるだろ。
ちらりと後ろを走る君島を見ると、ついて来るので精一杯と言った感じだ。まだ体育館の部活が残っているだろうから、この調子だと辛そうだ。
だが、まだ話す元気はあるようで話しかけてくる。正直こんなに大きな声で喋りながら走ってるの僕たちだけだが。
すぐ前を走っている設定部は小さな声で話してるようでこっちには聞こえてこないが、きっとこっちの会話は丸聞こえだろう。
「リフティングって、サッカーかっ」
「これから行くのは卓球室だぞ、当然卓球だ」
「リフ、ティング……」
「ラケットで、ポンポンする奴だろ」
「俺と弥代でやるから、君島はその間休んでろ」
「え、僕も休みたい」
「お前はダメだ。貴重な戦力だろ」
悲しい。理不尽。酷くないか。でも後ろの君島を見たら文句が言えない。でも卓球なんて中学の休み時間にピンポン球で卓球もどきをしたくらいだぞ。
そんな事を思いながら走っていくと体育館についた。一階がそのまま体育館のようだからわかりやすい。ここからさらに裏に回って、階段を登っていくらしい。
目に見えてわかるほどに君島が絶望した。僕も絶望したい。
「君島、生きてるか」
「ミッション、一人でいいなら、オレ要らなくないか……」
「いやまぁ、念のためついて来てくれ」
「こいつを、連れてってくれ……」
そう言って君島は眼鏡を外してこちらに渡してきた。眼鏡が本体だとでも言いたいのか、渡されても困る。
「いや、眼鏡渡されても……」
「わかった。責任を持って連れて行こう」
「ダメに決まってるだろ。急にIQ下げてくるな」
ついていけないだろうが、ツッコミが。
結局茶番は辻倉が眼鏡を受け取って頭にかけて終わった。最初は普通にかけたが、度がかなりきつかったのかしてすぐに頭の上にずらしていた。
そうして君島がとぼとぼと手すりを掴みながら登っていくのを確認してから、その脇をすり抜けて辻倉と卓球室へと向かう。
二階の卓球室は案外広いもので、体育館の半分くらいはありそうだ。部活の邪魔にならないように端の方に避けながら設定部のいるところに行く。手前に置いてある籠にラケットとピンポン玉が入っているから、これを使うのだろう。
手近なものをとって始めようとすると、
「ん? 弥代とラケットが違うな」
「え?」
見ると確かに形状が少し違う。自分のを見てみると、グリップが握り辛そうな感じがする。
籠をもう一回確認すると、辻倉と同じタイプのラケットが入っていたから迷わずそれに変えた。卓球はラケットに種類があるらしい。
――まさかピンポン玉にも種類が……?
どれも軽くてよく分からない。色が違うだけで多分同じ。
「君島には悪いけどすぐに終わらせよう」
「そうだな。…………あ」
「辻倉君?」
「見間違いだ」
「いや、初手から落としてたのバッチリ見たから」
そんなキリッとした顔で言われても騙されないぞ。あのテニスの時の切れ味はどうした。
…………あ。
「弥代も落としてるじゃないか」
「………………」
軽く上に投げたつもりなのに、玉は頭上を超え放物線を描いて手前側に落ちてきた。当然それをラケットに当てることなどできず、虚しくも地面を跳ねる。
辻倉と変わらない結果に口を噤む事しかできない。
後からやってきた君島が地面にへたり込みながらずるずると這いつくばって近くまで来たのを後目に、黙々とラケットでピンポン玉を弾き続ける。
コン、コンと単調なリズムでの繰り返しが、確実に精神を削っていくのがわかる。少しでも気が逸れたらおかしな方向に弾ける玉が恨めしい。
こうも如実に精神状態が現れてくると、気がおかしくなりそうだ。
正直集中力が持たない。
さらに言うならば、抜けていく設定部を視界に入れると集中力より焦りの方が勝ってしまい手元が狂う。
最悪な負の連鎖だ。
――…………そして三十回地味に多いな!
そろそろ焦りに加えて苛立ちも混ざってきた頃に、設定部も残り一人となっていた。これはまずい。負の連鎖とか言ってる場合ではない。
どちらかがクリアすれば次に行けるこちらが有利なはずなのに、何故か追い込まれている。
相変わらず辻倉はラケットと仲良くなれていないみたいだし。
――というかおかしくないか? テニスもラケット競技だろ? 下手すぎないか? お前はサーブだけがプロなのか? そうなのか?
――君島は君島で手伝ってくれ。これはどう考えても座っててもできるぞ。
やばいな、終わる気がしない。
ていうか何でこんなことしてるんだっけ。
考えてはいけないところまで思考が飛んでしまうほどにはだいぶ疲れてきた。
もう思考が働かなくなり、無心になったところでようやく三十回を超えたようだ。……もっとも、何も考えなさ過ぎて三十回超えたことに気づかなかったが。
「弥代、それ何回目だ?」
「佑輔そろそろ終わったんじゃないか?」
「おい。おーい、聞いてるか?」
「佑輔ー?」
「あ、すみません。三十回終わりました」
二人が何か話しかけたり、目の前で手をヒラヒラさせたりしているが、それが上手く頭に浸透しない。
何度目かでようやく頭に浸透して手を止めた。
「……終わったのか」
「おつかれ弥代、次は休んでくれ」
「オレも頑張るから!」
「たのんだ辻倉」
「オレは!?」
「……頑張れ!」
正直頼りにはしてない。
というか次は何なんだ。
随分時間がかかってしまったようで、もう既に設定部の人達もいなくなっている。
キョロキョロと辺りを見回すと、体育館の方面に扉がある。中の様子が見られないかと覗くと、靴の摩擦音とボールの跳ねる音、歓声が聞こえる。あいにく生徒の判別がつかず、設定部がいるかは見られなかったが。
「弥代、そこから体育館行けそうか?」
「ん? ……ああ、梯子から行けそうだな」
「よし、じゃあその梯子で体育館行くぞ。次はバスケでシュートを決める、だ」
頭が考えるよりも先に体が動いた。
高校生活において重要な部活が『任意』どころか強制的に『設定』されている件について 紅の烈火 @crimson_rekka
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