ブラック企業に身を置いていた筆者ですが、一冊の本と出逢ったのがきっかけで人生を変える決意ができるようになりました。
無月弟(無月蒼)
第1話
『人生を変えた一冊』なんて言葉がありますけど、自分にもあります。
この本と出会ったおかげで人生を変えることができたと言える、尊い一冊が。
本の話をする前に、まずは当時の自分の置かれていた状況を説明しましょう。
今から数年前、自分は地元を離れ、他県の工場で働いていました。
ただ言っちゃ悪いですけどこの工場。不良校のようなノリの所と言うか、ブラックな職場と言うか。
今思えば、あれっておかしくないかなって思う事が多々ありました。
いくつか挙げてみますと。
先輩が後輩に対して「どけ!」「鬱陶しい!」など罵詈雑言を言って怒鳴り散らす。
未成年がタバコを吸っても黙認。
トラックの免許を持っていなくても、運転しろと指示される(もちろん断りました)
車で移動する際、5人乗りの車に悪ノリして10人くらい乗っていく。
同僚間で財布の窃盗事件が起きて警察沙汰になる。
薬をやっている人が結構いる。
夜勤時、上司の目が無いのをいいことに仕事を部下に押し付けて、5時間くらいサボる中間管理職がいる。
月の残業が百数十時間ある。
有休を使ってはいけない。
どうしても外せない用事があって欠勤者が出たら、誰かがその穴埋めとして36時間働かされる。
取っ組み合いのケンカがたまにある。
ドクターストップくらいでは休んではいけない。
…………こうして改めて挙げてみると、本当にヤバい場所でした。
よくこんな所で数年働いていたな。
きっと知らない間に疲れも溜まっていたのでしょう。自覚症状こそなかったものの、健康診断を受けた際は検査結果を見た医者から、「こんな状態で平気でいられるはずがない。必ず体に悪影響が出ているはずだ。今すぐ仕事環境を変えないとダメだ!」って言われました。
ただ上司の相談しても、自覚症状が無いなら大丈夫だろうと言われて、何の改善もされませんでしたけど。
しかし当時は、これをおかしいこととは思っていませんでした。これが当たり前、きついと思うのは自分に根性が無いからだって。
しかしいくらそう思っても、疲労は溜まっていきます。その上人間関係も上手くいっていなかったので、毎日が辛かったです。
そんなある日のこと、何か楽しいこと、面白い事は無いかと思い、自宅でネットサーフィンをしていました。
そんな中、たまたまある一冊の漫画を見つけたのです。今にして思えば、その出逢いがその後の人生を変えるきっかけだったと言えます。
漫画のタイトルは、『ラストゲーム』。当時月刊LaLaに連載していた、天乃忍先生のラブコメ漫画です。
絵とストーリーが大変好みだったので早速1巻を買って読んでみたのですが、これがもうう大ハマり。
それまで少女漫画はほとんど読んだことがなかったのですが、滅茶苦茶キュンキュンさせられました。
で、すぐさま2巻以降も購入。けどそれだけでは満足いかずに、月刊LaLaも毎月買うようになりました。
するとどうでしょう。それまでは毎日辛いのを我慢して仕事をしていたのが、一カ月頑張れば漫画の続きが読めるんだって考えるようになって。
生活の中に、楽しみが生まれました。
人間というのは不思議なもので、たった一つの楽しいがあるだけで、今までよりもずっと頑張ることができるのですよね。
しかし、大事なことを忘れてはいけません。
いくら気持ちが前向きになったからと言って、体にかかる負担は軽減されていないのです。
ある日仕事をしていると急に頭が痛くなり、まともに立っていられなくなりました。
で、上司に無理を言って早退し、病院に行ったところ、医者からこう言われました。
「今の仕事を続けていたら早死にする」と。
いや、いくらなんでもオーバーな。心配しなくても、人間そう簡単に死にませんって……と、最初はそう思ったのですが。
ふと思いました。
もしも本当に早死にしたら、『ラストゲーム』の続きが読めなくなる、と。
こんな時に考えるのが、漫画の続きか! そう思う人もいるでしょう。自分でもツッコみたくなりますよ。
けど当時、本当に一番気になったのはそれだったのです。
大好きな漫画の続きが読めなくなる。そう考えたら途端に、このままで良いのかって気がしてきました。
よくよく考えたら今の職場は人間関係も上手くいっていませんでしたし、実家の親からは「人間扱いしてくれない会社なんて辞めてしまえ」と、再三言われていたのです。
けど今まではそれでも、一度入った会社なんだから、辞めるなんて申し訳ないって思っていました。
しかしこの時は違いました。大して好きでもない会社のために、好きな物を犠牲にしてまで尽くす必要はあるのかって。
そしてこの当時、漫画を読む以外にやってみたい事というのがありました。
それは小説を書くこと。『ラストゲーム』を読んだのをきっかけに、月刊LaLaの漫画もたくさん読むようになっていたのですが、そうしているうちに自分でも物語を作ってみたくなったのです。
生憎絵は苦手でしたけど、小説は小さい頃から読んでいましたし、下手な文章でも書けるかもしれない。書いてみたいって、思うようになっていたのですよ。
しかし月の残業が百数十時間ある会社にいたままでは、とても書く暇なんてありません。
だから自分は決意したのです。今の会社を辞めて、好きな事をやろうと!
まあその後もすんなりとは辞めさせてもらえずに、その後何カ月も働かされたわけですけど、最後はどうにか辞めることができました。
そのおかげで今はこうしてカクヨムで小説を書いていますし、好きな漫画や小説を読む時間も増やすことができました。
ただ時々思うのです。
もしもあの時『ラストゲーム』と出逢っていなかったら、もしかしたら今でも自分は、あのブラック企業で働いていたのではと。
たかが漫画を読んだだけで、大げさな事を言っていると思う人もいるでしょう。
しかし自分にしてみればあの一冊と出逢い、もっと続きを読んでいきたいと思った事が自分を変えるきっかけ。ひいては人生を変えるきっかけでした。
『ラストゲーム』はもう完結しましたけど、今でも尊い存在です。何せ生を変えてくれた本なのですから。
あの時出逢うことができて、本当に良かったです。
もしも今の仕事が合っていない、辛いと感じている人がいたら、本当に続けるだけの価値があるかどうか、よく考えてみてください。
転職することを考えると、どうしても躊躇してしまいますけど。本当に大事なもの、大切にしたいものは何かを、よく考えてみる事をお勧めします。
ブラック企業に身を置いていた筆者ですが、一冊の本と出逢ったのがきっかけで人生を変える決意ができるようになりました。 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
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