第5話『みそ汁と手紙(ダメ出し)』

 ここからが『みそ汁と手紙』の個人的なダメ出しです。


 この作品はデビューする前に書きました。

 で、今から見ると非常に粗が目立ち、じゃあ、どこが粗なのかを自分なりに言語化してみようと思いました。

 要は短編小説はあくまでも枕になり(枕にしては長いですが)、今からが本番になります。


1、謎の発覚までが長い

 まずこれは問題だと思いました。

 小学生がもったいぶった会話をしていて、当時は一種のギャグとして、謎発覚までの会話を挿入していますが、どう考えても長い。

 今の自分が書き換えるとしたら、そうですね……あの項目はすべて削除して、母親との会話からにします。


「お母さん、みそ汁とシチューが並ぶこの献立に疑問はない?」


 みたいな書き出しですかね。

 適当ですが、いきなり死体を出すのはミステリのセオリーなので、最初に謎を出す必要があると感じました。


2、謎がしょうもない

 個人的にミステリは『不可能な状況を論理的に説明する美しさ』が大切だと考えています。

 必要な描写と不必要な描写の違いを言語化することが当時はまだできていませんね、これは。

 そのために必要になる演出能力が非常に低い。

 それと、どこが伏線になっているかの説明も不親切ですね。

 まぁ、そもそも、演出を効果的にするための謎が平凡すぎるのが問題です。

 いや、正確にはトリック部分は平凡でも良いのですが、もうすこし分かりやすく謎をまとめられたら印象が異なっていた気がします。

 ただ、おねショタもやってみたかったので、平凡な少年を出すならご近所レベルの謎じゃないとなーという打算もありました。

 

 で、この短編を読んだだけでは分からないのですが、これは長編小説にするつもりでした。

 そもそも、この短編を読んだだけでそれが伝わらないというのは悪手ですね……。

 まぁ、書き足す前提と考えると理解できなくもないのですが、本文外の内容は読者には伝わらない前提で考えていないのは大きなマイナスです。

 で、この作品は『ガチの超能力者が自分の超能力が発覚しないように推理する』という内容でした。

 名探偵である白原瞳はリモートビューイングの能力があり、そこで得た情報から結論を出しています。

 これ、城平京先生の『虚構推理』ですね……いや、それよりも前に考えていたのでパクリではありません。

 実のところ、筒井康隆先生の七瀬三部作(特に『家族八景』)のイメージで書いていました。


3、キャラクターが弱い

 これがイチバン致命的ですね。

 美人が男物のサングラスとかいろいろ描写していますが、そもそも、大概のフィクションの名探偵は美人なので差別化されてません。

 不細工な名探偵……確か泡坂妻夫先生の亜愛一郎も表情が不細工になるだけだし、『乱れからくり』の探偵も太っていただけで美人だったですしねぇ。パッと思いつきません。

 単発の露悪さを売りにした作品ならともかく、積極的に不細工を採用する理由がなかなかないんですよね。

 だから、外見での描写での差別化ってほぼほぼ小説では困難で、属性と性格に色をつけるしかないのに、そこら辺が今一つですね。

 どうでも良いですが、白原瞳は明らかに上遠野浩平先生の『しずるさん』の影響が見えますね。好きなんですよ。いや、ミラル・キラルのお姉ちゃんかも(同じく上遠野先生の『戦地調停士』シリーズより)。

 あと、致命的なのが大士郎少年が本当に普通の子どもというところ。

 積極的にアホか、もうすこしキャラクターの味付けが欲しいところです。

 まぁ、そもそもが普通の少年と不思議なお姉さんというコンセプトなのでなかなか難しいかもしれません。


 余談ですが、この白原瞳というキャラクターは、甥っ子を主人公に長編小説を書いている関係もあり、割と思い入れがあります。

 しかし、まぁ、そんな思い入れなど読者はどうでも良いので要注意です。

 そういえば、よく偉人をネタにした漫画や小説、ゲームなどがありますが、あれは読者に『一定の思い入れ』が生まれるために非常に便利な手法だったりします。

 織田信長が美少女! みたいなのも、今ではありきたりになっていますが、新しい価値観を提供しており、ハードルが低くなっているのです。

 そう考えると司馬遼太郎先生は『無名だった方を偉人に持ち上げる』という逆のことをしているので、心底から化け物ですね。閑話休題。



 文章面など細かな粗を探したらキリがありませんが、実のところそれほど個人的には嫌いではありません。

 というか、「超能力者がしょぼい謎を解決」というコンセプトはかなり気に入っています。


 謎がしょうもないと書きましたが、これ敢えてでして、実際は大事件に発展するのにそれを前段階で潰しているというネタがやりたかったんですよね。

 前例では西澤保彦先生の『完全無欠の名探偵』とかありますが、どちらかというと「実はこうだった」と開陳する展開は山田風太郎先生の『明治断頭台』です。


 別にダメ出しといってもそんな悪感情でやっているわけではなくて(それを言ったら最後まで書いて没にしている作品もたくさんあります)、あくまでもこのあたりをどうにかしたいなぁ、という言語化のための文章です。

 どんなこともいきなり完璧はありえないので、コツコツ改善して、同じようなコンセプトで挑戦したいなぁ、と考えています。



追記:いや、本当に概ねこの短編小説、気に入っています。

 読み返してみると白原瞳の言い回しなども良い感じですね。

 今の自分では書けないかもしれません。

 こういう言い回し、10代の頃は自然と書けたのですが、ちょっと考えないと難しくなっています。

 自衛隊辞めた割と直後くらいだったのか、当時知っていた知識を盛り込んでいたり、微笑ましい部分も多々見られるため蔵出ししました。

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短編小説 はまだ語録 @hamadagoroku

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