なぞなぞ運動会

来冬 邦子

親子なぞなぞ借り物競走

 星見山ほしみやま小学校はお寺の境内と隣り合わせにあって、古い木造の平屋建でした。

 通ってくる子どもは六年が三人、五年が四人、四年が五人、三年が二人、二年が七人、一年が三人でした。先生は三人。校長先生はお寺のご住職です。


 今日は運動会なので家族はもちろんのこと村中の人が見物に来ています。


 最初の種目は、亀の子かけっこです。

 三人しかいない六年生がやっぱり三人しかいない一年生をおんぶして走ります。

一年生は応援係。背中から声の限りに応援します。


  次は全員で玉入れです。二人の先生が玉入れのかごを背負って逃げ回るのを追いかけて入れます。最後にはみんなで先生たちに抱きついてくすぐったので、引き分けになりました。


 三つ目は五年生のパン食い競争です。パンは落ちても汚れないように丈夫な紙の袋に入っています。大接戦になって観客席が大いに沸きました。


 四つ目が、名物の「親子なぞなぞ借り物競走」でした。

 四年生全員が親子で参加します。親は父でも母でもおじいちゃんでもおばあちゃんでも、お隣の家のおじさんでもオッケーです。よーいドンで校庭の真ん中まで走ったら、テーブルの上に並べてある二つ折りのメモを一つ取り、そこに書いてある「なぞなぞ」の答えを観客席で借りてゴールへ走るのです。


 例えば「① 田んぼに牛のポポがいて、タンポポを食べちゃったら何が残るでしょう?」とか「② ジャンケン大会にあるものを持って行ったら引き分けになりました。何を持って行ったのでしょう?」とか、よくあるなぞなぞでした。皆さんも答えは分かりますよね?


 さて真っ先にメモをつかんだ楓太ふうたくんは、中を読むなり首を傾げました。


「なんだって?」


 楓太くんのパパがのぞき込みます。


「なにかもの」と書いてあります。


「なんだろう、尊いものって?」


 楓太くんは首を傾げたままです。


「大事なものってことだろう?」


 パパがやや自信なさそうに言いました。


「お金かな。今月のおこづかい、全部使っちゃったよ」


 楓太くんが上目遣いでパパを見ます。


「お金は、パパは違うと思うぞ」


「なんで? お金は大事だって、パパ、いつも言ってるじゃないか」


「大事だけどな、尊いっていうのは、もっと清らかなイメージだよな」


「じゃあ、お米は?」


「う~ん。米かあ」


「洗うから清らかでしょ」


「そういうのでもなくてな、心が洗われるような清らかさなんだよ」


「心を洗うの?」


 楓太君は腕組みをして考えます。心ってなんだっけ?

 他の親子は次々に「わかった」と叫んで、走っていってしまいます。


「パパ。俺たちビリになっちゃうよ」


「待て待て。もう少しで分かりそうなんだ」


「パパ、早く!」


 坐り込んで考えていたパパはいきなり立ち上がったと思うと、「わかったぞ! 楓太ついて来い!」と駆け出しました。走っていった先はママのところでした。


「どうしたの?」


 ママが目を丸くして訊きました。


「頼む。一緒に来てくれ」


 息を切らしてパパが言いました。楓大くんの妹で生後五ヶ月になる亜梨澄ありすちゃんを抱いたママは「はい、はい」と頬笑むと、急いで亜梨澄ちゃんを抱っこひもで胸にくくりつけました。


「危ないから、走らないでね」


「わかった」


「ママ、頑張って」


 楓大くんとパパは、ママと亜梨澄ちゃんを両脇から抱えるようにしてゴールしました。



 ゴールでは校長先生と他の親子が待っていました。


「みなさん、なにか尊いもの、が何かわかりましたか?」


 マイクを持って校長先生がたずねました。


「はい!」 と全員が答えました。


「今年は、全員に同じなぞなぞを出しました。一番良い答えを出した親子が一等賞です」


 お寺のご住職でもある校長先生がニコニコと笑いました。


「では順番に、尊いものを見せてください」


 一組目はお財布を出しました。「お金です」


 二組目は指輪を出しました。「結婚指輪です。世界にひとつしかありません」


 三組目は色紙を出しました。「友達の寄せ書きです」


 四組目は高さが1メートル程の仏像を出しました。「有り難い仏様です」


「その仏像はどうしたんですか?」


 眉を寄せた校長先生が訊きました。


「お寺の本堂にありました」


「返してください!」


 校長先生に怒られて、仏像は元の場所に戻されました。


 そしてとうとう最後に楓大くんの番になりました。でも手には何もありません。楓大くんは泣きそうになりました。


「尊いものはなんですか?」


 校長先生が訊きました。


「はい。家族です」


 汗びっしょりのパパが答えました。


「一番大事でかけがえがなくて、家族といると清らかで心が洗われます」


 それを聞いた校長先生は、にっこり笑って言いました。


「楓大くんとパパが一等賞です!」


 観客席から大きな拍手と歓声がわきおこりました。


                     < 了 >

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