雷弾の桜花 KAC20218バージョン

土田一八

第1話 尊いちらり

 私はこの4月に霊導騎士少尉となって、霊鳥と呼ばれる霊導騎士用の飛行機の整備担当となった。正直、他の娘達と比べて霊導力はパッとしないが学問と機械いじりは誰にも負けないという自負がある。おばあ様譲りの才能、ここにあり。


 しかし、限界というものは誰にでも何であれ、必ず存在する。当然ながらこの私も例外ではない。


 と、言うのも私達(和ヶ原小隊のメンバーは全員同い年の同級生)が霊導騎士になったこの4月は何故か連日出撃の毎日で霊鳥達の整備が追い付かなくなってしまい、現在は『桜花』の整備で手一杯の状態となってしまった。整備士は私の他に都や莉々花の2人がいるが、作業が追い付かず、航法士兼機関士のりくや操縦士の飛鳥まで動員して整備作業に取り組んでいた。桜花や天羽も手伝ってくれるが、彼女達には別の仕事もある為あまり手伝って貰う訳にもいかなかった。みんな、文句一つも言わずに一丸となって作業に集中した。



 が、そんな状況下でも最近、私にはささやかな楽しみがあった。

「よいしょ」

 桜花は足掛けを伝って左主翼から操縦席に乗り込む。丈の短い臙脂色のプリーツスカートの裾が激しく揺れてスカートの中から白いモノがチラチラ見える。後席に乗り込む天羽も白いモノをチラチラ見せてくれる。


 よしっ、これでエナジーが補充できた。


「ねえ、千歳さん。さっきから何を一生懸命覗き込んでるのかしら?」

 りくが私に声をかける。

「うん。効率の良いエナジー補給だよ。りく君」

 そう言いながら私はりくのスカートの中を覗き見る。と言うより私の視線の先にりくのスカートの中があるのだ。しっかりチエックする。

「女の子が、女の子のスカートの中を覗くの?」

 りくは不思議そうに私に質問を続ける。

「何も、チラリズムは男だけの特権ロマンでは無いのだよ」

 私はチラリズムを肯定する。なんなら語り合っても良い。目覚めたのは最近ではあるが。

「そうですか。でも、千歳さん。しっかりモロ見えになっていますよ?」

 りくは私に意見を表明する事も無く、私のスカートが捲れて白いショーツが丸見えになっているのを単に指摘した。

「Oh。それは、ありがとう」

 私は両手で自分のスカートの裾をそっと直す。そして、何も無かったかのように振舞う。どうやらボードに乗って移動しているうちに捲れてしまったようだ。

「おーい!回すぞぉ‼」

 しびれを切らした都が大声で知らせた。


「ねえ、桜花ちゃん」

 天羽は交話器で桜花に話しかけた。

「なあに?」

「千歳のパンツ見た?」

「白でしょう」

「うん」

 桜花と天羽はコックピットでクスクス笑った。


 さて、『桜花』は飛び立ってしまったし、天羽の愛機と飛鳥の愛機の中古機体は連日の酷使によってオーバーホールが必要な状態だったが、何故か今朝突然、工廠に引き取られて、後日新品の機体が届けられる事になったのだ。急に霊導騎士としての仕事が無くなってしまったので『桜花』が戻って来るまでの間、残った私達は学生の本分に戻る事にした。チラリズムも暫くお休みだ。



 数日後。私は『桜花』の補助後席に同乗して三岩飛行機の工場がある小牧空港に向かっていた。あれから急激な動きがあって飛鳥と都、莉々花が元の部隊に急遽呼び戻されたので整備専門の人員は私一人になってしまった。まあ、燕型通信連絡機は一人でも整備点検ができるように工夫されてあるし、りくもいるので問題は無い。今日は天羽の愛機となる新品の機体が落成したので私も補助席に同乗したのだ。それにしても無線機が邪魔だなあ。

 小牧に着陸して駐機する。天羽はすくっと立ち上がると後席の足掛けに足をかけてヒョイと身体を翻して機外に出る。その時スカートが捲れて紺色がちらりと見えた。


 やった!


 私は心の中でガッツポーズをした。


「千歳、見えた?」

 天羽は機外から顔を覗かせて私に質問した。私は口では答えずにサムズアップをする。

「残念でした。ブルマーでーす!」

 天羽はいたずらっぽく笑うとポンと地面に飛び降りた。すると、オレオが作動して機体は大きく揺れた。

 ガンっ!

「痛っ!」

 私はフレームに頭をぶつけてしまった。飛行帽を被ってはいたが衝撃はかなりのものだ。まあ、私としては例えブルマーでも構わないのだが。尊い事には変わりが無いのだから。

「ちょっとぉ~!揺らさないでよぉ‼」

 桜花が天羽に文句を言った。

「あっ!ごめんごめん」

 天羽は桜花に平謝りをする。桜花は静かに足掛けを伝って静かに地面に降りる。私も後席から出て天羽と同じように身体を翻して左主翼の上に立つ。そして足掛けを伝って地面に降り立った。

「千歳ちゃん。今日はピンクだね」

 桜花はクスクス笑いながら言う。天羽はニヤニヤしている。どうやら私もちらりを彼女達に提供したようだ。

「どうだい。チラリズムは?」

 私は気取ってチラリズムの感想を彼女達に聞いてみた。

「それって、ハードボイルド調に聞く事?」

 桜花は苦笑いをする。

「千歳の変態~」

 天羽は私を変態呼ばわりにする。どうやら彼女達には理解されていないようだ。

「そんな事より早くいこ~」

 航空時計を見た桜花は私達を促した。



 週明けの学校。


 ぴゅー‼


 強い風が吹きスカートが風で捲れて私は反射的に両手でスカートを抑える。

「きゃああ‼」

 校内を歩いていた他の女子生徒の中には間に合わず思いっ切りスカートが捲れてパンツが見えてしまった娘は顔を赤らめる。

「ふむ。白だな」

 しかし、それ以上の感情は、私には起きる事は無かった。男子ならさぞかし喜ぶのだろうが私にはチラリズムの範疇にするのは違和感があった。


 階段を昇っていてもチラリズムに遭遇する。


 ぶわっ!


 アハハハ‼


 昇降口から強い風が入って来て階段を吹き抜ける。私は咄嗟にスカートの裾を両手で抑えたが、階段を降りて来た女子生徒達のスカートが捲れて私の目に白いショーツが飛び込んで来た。しかし、上級生の彼女達はスカートを手で抑えながら笑い飛ばしてそのまま階段を降りて行ってしまった。

「味気無いな」

 こういうのは何故かチラリズムが感じられない。あっけらかんというのは不必要な要素なのだ。男子からすればラッキースケベの一場面という所であろうが。


 昼休み。学食の帰り。私は桜花とりく君の3人で渡り廊下を歩いていた。途中、段差になっている所で女子生徒達が座っておしゃべりに花を咲かせていると同時に足を大きく開いてスカートの方も無防備になっている。スカートの奥から白いパンツが見えている。ま、こういうのはチラリズムの一種ではあるが、何故か私は違和感を感じる。男子はありがたいのだろうけれど。

「みっともないなぁ」

 桜花がポツリと独り言を言ったのが印象的だった。りく君は黙っている。

「教えてやらないのかい?」

 私はりく君に訊ねる。

「あの人達上級生でしょう。下級生にそこまでの義理は無いと思いますわ」

「そう来たか」

 りく君はお嬢様育ちで上品な人柄だが、わりかしドライな所がある。因みにその上級生達はその後ですれ違った風紀委員に注意されていた。


 桜花の家。

 私は桜花とお風呂に入っていた。

「ねえ千歳ちゃん」

「何だい?」

 一緒に湯舟に入っていた桜花に話しかけられる。

「千歳ちゃんはパンチラに興味があるの?」

「興味と言うより実験かな?」

「実験?」

「うん。兄貴が『チラリズムは尊い男のロマンだ』と言うんで女の私ならどうなのかなって思って」

「ふーん。で、どうだった?」

「そうだねぇ……。あんまりロマンを感じる事は無かったかな。パンチラをする状況と人間の品性に寄るんじゃないかな?」

「ふーん。尊さを感じる事はあった?」

「それはあったかな。桜花や天羽がコックピットに出入りする時とか、見えそうで見えた時にそう思ったかな」

「やっぱりあの丈の短さじゃ見えちゃうか」

 桜花の眉毛は下がる。

「割と動きがドラマチックだからね。でも、必ず見える訳では無いから、そこに尊さが生まれてチラリズムになるんじゃないかな」

「哲学的すぎて良く理解できないけど」

 桜花は苦笑いをした。

「私は同性愛の趣味は無いよ」

「うん、分かった。千歳ちゃんが向こう岸に行かなくて良かった」

 桜花は笑顔を見せた。

 

                                  完

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