第11話

「まだ終わってねぇからなァ!」


 男はマナブ君を怒鳴りつけると、怒った態度のまま席を立って、傍らの鉄パイプに括り付けてあった腰道具とヘルメットを装着し、外へと出て行った。

気が付くと、この場に残っているのは私だけで、どうしようかとキョロキョロしていると、ヘルメットが一つ、机の上に置かれているのに気が付いた。


(……誰のか分かんないけど、借りちゃえ!)


 マナブ君らがもう一度ここに戻って来るか分からない。

あの様子だと、現場でまた酷いことを言われるだろうし、目は離せない。

私は、誰が使ったか分からないヘルメットを頭にかぶせると、その場を後にした。


(オエエ…… 汗くさ……)






「いっちにー、さーん、しっ」


 朝礼会場では大勢の人らが集まり、ラジオ体操を行っていた。

私は列の最後尾につき、見よう見まねで体操を行う。

それらが終わると、今度は白い作業着の男性が前に出て、何やら現場の説明を始める。

何を言っているのかチンプンカンプンだけど、恐らく工事の工程や現場の注意箇所についてだろう。

それらの説明が終わると、今度は電気チーム、建築チームなど各班ごとに円になってミーティングが行われる。

私は何食わぬ顔してその円に一歩下がって加わった。

さっきの桑田さんと呼ばれたリーダー風の男が話を始める。


「昨日と同じペアに分かれて各階の作業を継続して欲しい。 上の階は仕上がってきてるが、山下、まだ終わってねぇ所はねぇよな?」


 山下、と呼ばれた浅黒い男が答える。


「はい、岡野と草木んとこ以外はほぼほぼいってますね」


 マナブ君を怒鳴りつけていた男は岡野と言うらしい。

名指しされた岡野は微動だにしない。

桑田さんが続ける。 


「手ェ空いてる奴はそっち応援行ってやれ。 岡野、足りねぇ材料は早めに言って発注かけろよ」


「……ッス」


 すると、そこに一人、痩せ細ったグレーの作業の男がやって来て、声をかけてきた。

何やら、しきりに頭を下げて申し訳なさそうな様子だ。 


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ヤケクソうどん @oga112

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