幻の鳥を撮影せよ!(KAC20217)
つとむュー
幻の鳥を撮影せよ!
アマゾンの奥地に幻の鳥が生息しているという。
えっ? 幻の鳥だなんて大げさって?
いやいや、そうでもないんだよ。だって、その姿を撮影した人は誰もいないのだから。
分かっているのは鳴き声とその習性だけ。
ギーギーという低い声を発し、クチバシを正確に二十一回、樹木に打ちつけるという。
このようなドラミングの習性から、この鳥は鳥類二十一回目(にじゅういちかいもく)と呼ばれている。
大学生の頃、この鳥の存在を知った僕はすっかり二十一回目の虜となった。
――なんでその姿を誰も撮影したことがないんだろう?
この映像の時代に。
多くの人がスマホを持ち、衛星通信を使えば世界中のどこからでも生配信をすることが可能だというのに。
――だったら僕が世界初の男になってやる。
だから大学院でも生物学を学び、僕は鳥類学者になった。
そして長年の夢を叶えるためアマゾンの奥地に立つ。
現地に来て初めて分かったことがある。
二十一回目のドラミングは、現地の人々にとって宗教的な意味を持っているということだ。
僕たち外部の人間が思っているよりも強く、そして深く。
それは僕が初めて二十一回目のドラミングを耳にした時のこと。
コツ、コツと二秒に一回くらいのゆっくりとしたペースで、クチバシを樹木に打ちつける音が森に響き始めた。
もしかしてこれが
最初、僕たちはその様子をぽかんと眺めていた。
「@&*$#¥@&!!!」
すると彼らは両手を上げながら、激しい剣幕で僕たちに何かを訴え始める。
「イッショニ、カゾエテ、クダサイ!」
通訳も険しい形相だ。案内人と一緒に両手を上げ、ドラミングに合わせて指を折っていた。
どうやら僕たちも同じ行動をとらなくてはならないらしい。
郷に入れば郷に従え。
彼らの表情があまりにも殺気に満ちていたので、僕たちはしかたなく機材を地面に置き、両手を挙げて指を折り始めた。
しかし、事態はこれだけでは終わらなかった。
数が十回に達すると案内人たちは地面に仰向けに寝転び、今度は足の指を折り始めたのだ。もちろん両手は、十本の指を折り曲げたグーの手のバンザイ状態のままだ。
「@&*$#¥@&!!!」
またもや僕たちは、案内人に叱られる。
バンザイ状態のまま立ち尽くしていたからだ。
「イッショニ、カゾエテ、クダサイ!」
やはり僕たちも同じ行動をとらないといけないらしい。
仕方なく僕たちは地面に仰向けに寝転んだ。が、案内人の怒りは収まることはない。
「&%&#@&*#!!!」
「クツモ、クツシタモ、ヌイデ!」
ちなみに案内人たちは、もともと靴も靴下も履いていなかった。暖かいアマゾンではそちらの方が普通の格好だった。
足の指を一本ずつ折って数えるのは難しい。
そもそも僕たち現代人にとっては不可能な行為だ。
靴と靴下を脱いで両足を上げてみたものの、足の指全体に力を入れて内側に丸めることしかできなかった。
また案内人に叱られるんじゃないかとビクビクしていると、そんなことはなかった。僕たちの行為は、誠意ある態度と受け取ってもらえたのだろう。
やがてすべての指を折る時がやって来る。二十回目だ。
そして名前の由来となった二十一回目のドラミングが森に響いた瞬間、オーという雄たけびが湧き起こった。
案内人たちは一斉に、すべての指を開くのだ。喜びに満ちた叫びと供に。
と同時に、二十一回目は森の奥に飛び去って行った。
人間が手足を使って数えられる最大数は二十。
それを超える二十一回目の音は、神のお告げとして宗教的な意味を持っていた。
人間よりも一つだけ多いから神様――それはなんて謙虚で、慎ましい宗教なのだろう。
それもこれも、二十一回目が数を間違えることなく正確にドラミングを行うからこそ、現地に根付いた神聖な儀式だった。
何回か現地に行っていると、恐ろしい噂を耳にする。
なんでも、案内人と同じ行動をとらずに撮影を続ける外国人は、その場に置き去りにされるか時には殺されるという。
だから僕たちは、二十一回目のドラミングを耳にするたびに地面に寝転がらざるを得なかった。機材もすべて地面に置いて。
今日も僕は、地面に寝転んで案内人たちと一緒に手足の指を折っている。
森の木々の間に見える青空を仰ぎながら、せめて頭上を飛んで姿を見せてほしいと祈りを込める。
誰も二十一回目の撮影に成功したことのない理由が、なんだか分かったような気がした。
了
幻の鳥を撮影せよ!(KAC20217) つとむュー @tsutomyu
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