月に嘆く者
それから、数年が過ぎた。
いまや彼女は、一年に一度、十五夜のこの日に体が大きくなって能力を発揮するように力が変質していた。
大きくなった彼女は、人の町を見下ろす。美しい満月に照らされる醜い生き物の町が、たまらなく恨めしい。
「人間なんて、全員殺したい。でも、お姉さんと同じ人間は殺したくない」
殺したい。けど、殺したくない。相反する二つの感情に挟まれた彼女にとって、今の能力は非常にありがたかった。
「なら、自分から死ねばいい。私は殺さない。お前たちから死ね」
ふと、満月を見上げる。自分の名前であり、それをつけてくれたかけがえのない人を失ったあの日を思い出すようで、自然と泣き声が漏れる。腕に抱いた彼女が、優しい熱で存在を確認させてくれる。
声は日本中に伝播し、また多くの犠牲者を生み出す。十五夜の惨劇の始まりだ。
もう、ライトなんて美しい名前は必要ない。その名前を名乗ることは、咲への侮辱だと自分で理解している。
だから、名乗る時は人間たちに呼ばれている名前を使う。十五夜の惨劇を引き起こす、夜の世界の災厄――
――『月に嘆く者』。それが、パグロームである彼女の名前だ。
満月の輝き 黒百合咲夜 @mk1016
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます