第五話、21の正体

 男はベッドの上で半身をガバッと起こす。手や額、背中にも、そこらかしこに汗がにじみ出ていてべたつく。喉も渇いており、暗い部屋の中で飲み物を探す。幸い、ペットボトルの水を飲んでいたがゆえにベッドサイドに在った水を見つける。


 ごくりと喉を鳴らしてから一気にかき込む。


 ハァハァと息を荒げて、きつく目を閉じる。


 世界の滅亡って、何だ?


 と……。


 真っ暗な部屋に目もくらむ灯りが差し込む。


 慌ててカーテンを開き、男は外の景色に絶望を覚えて絶句してしまう。


 生き残った人間によって、のちに惑星Xと名付けられる巨大な星が、地球へと衝突せんと迫っていたのだ。無論、このジャイアントインパクトをしのぎ生き残ったとしても、待ち受けるのは環境激変による死。すなわち最終的には人類の滅亡。


 あ、当たった。当たっちゃったよ。マジで。


 なんとか絞り出した言葉は、そんな空虚なものであった。


 半月(はんげつ)から12日後の22日の今日、遅くなった父親は家族の安否が気になり、車を飛ばして帰る。その途中で事故を起こしてしまう。慌ててたがゆえ。時計は10時54分を指す。ビルの屋上では全てに絶望したA。アハハと笑う。


 もう終わりだ。なにもかも。なにもかもな。


 そうとだけ言い残して泣きながらも笑いつつ飛び降りる。


 その数分後、災が降る。


 地球に突っ込む惑星X。


 男は目を大きく見開く。


 真っ白にも染まる世界。


 崩れ去る街。燃え上がる辺り一面。もちろん男の家も例外ではなく潰れる。男の部屋は、なんとか無事であったが、隣の部屋にいた妹は下敷きになる。木曜日の雨が降りしきる今日という日に圧死。男の涙が、あとからあとから止めどなく溢れる。


 今、この瞬間、この世は、まさに生き地獄。


 繰り返しにもなるが、もしここを無事に生き残ったとしても待ち受けるのは死だ。


 男は思う。21って、なんなんだよ、一体。


 21って、だから、なんなんだ。なんだよ。


 クソが!


 うわぁぁぁぁぁぁっ!!


 と……。


 そんな男に惑星Xの欠片が、運悪くというべきか、あるいは運よくと表現すべきか、激突する。トマトが強い衝撃を加えられて弾け飛ぶよう男の頭半分が一瞬で消え失せる。上半分を失った頭に残された口から漏れる、あ゛あ゛あ゛という言葉。


 世界は滅亡します。……数えて21の月に。


 そして、


 薄れゆく意識の中、微かに残った思考で男はこう思った。


 そうか。


 そうだったのか。……ようやく分かった、21の意味が。


 2022年の宝くじ発売期間から逆算すべきだったんだ。


 そうだ。


 俺の21歳の誕生日、2021年3月22日から数えて21回、月が巡れば今日になる。あの日から21ヶ月後こそ今日だったんだ。ようやく分かったよ。ようやく気づいた。ああ、でも、もうなにもかも全てが遅いけど。遅いけどな。アハハ。


 と意識を全て手放した。

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21 星埜銀杏 @iyo_hoshino

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