第四話、当たる
では四つ目の預言です。
もういいよ。聞きたくもない。帰ってくれ。
2022年の冬、母親が宝くじを手に入れるでしょう。そして一等が当たります。
えっ!?
今までとは打って変わって、いい知らせだ。
でも、なんでいきなり?
フフフ。
これは、大きなヒントなのですよ。21の謎を解く為の。
まだ分かりませんか。21の秘密について。
余計に分かんなくなったっての。
だからなんだよ、21ってさッ!
てか、ヒントの意味も分からん。
ちゃんと意味が在るのかさえも疑わしいぜ。
とも思ったが、男はじっと黙っていた。宝くじが当たるならば当たるでいい。例によって外れても、それならば、それでもいい。どちらにしろ不幸は訪れない。だったら、と考えたのだ。そうして朝を迎えた。その日は……、暑い8月7日だった。
「あのさ、母さん、宝くじを買う予定ある?」
一応、聞いてみる。嬉しい知らせがゆえに。
フフフ。
と母親は穏やかに笑む。
「宝くじなんて買うと思う? 今まで生きてきて一回も買った事がないのよ。それに宝くじは愚者の税金なんて言われててね。お金をドブに捨てるようなもの」
とキッパリと返される。
だろうね。いきなりいい知らせになって浮かれちゃたわ。アホらしい。
と男はまた頭をかいた。
……この世界の滅亡か。
ハハハ。
買わない宝くじが当たるくらいに、あり得ねぇっつうの。
無論、母親は宣言通り、宝くじを買う素振りを見せなかった。9月、10月、11月と時は過ぎてゆく。そうして11月終盤、年末ジャンボ宝くじが発売される。それから、また時を経て、いつの間にか12月も終盤の22日となっていた。
朝から雨がそぼ降る日。
その日の男は、ペットボトルの水を飲みながら傘をさして帰ってきた。
そして、
とても信じられない言葉を耳にしてしまう。
「宝くじを拾っちゃった。まあ、当たらないと思うけどね」
そう、母親が、預言通りに宝くじを手に入れていたのだ。
うおっ。
これで当たったら、いや、当たるわけない。
男は自然と湧き上がる高揚感に後押しされるよう胸が高鳴る。当たるわけない。そんなはずはないと高ぶる気持ちを否定してもみるが、頬が緩んでしまう。もしかして死ぬと言う預言の全てが外れたのは事前に知って危機回避をしていたから?
などと都合の良い解釈までしてしまう始末。
しかもドキドキと心臓が脈打ち落ち着かないがゆえ早めに床についた。
ただ、この時、男は大事な事を忘れていた。
21が、あの女の預言が当たる事が、この世界の滅亡を知らせているという事を。
そうして、最後である五つ目を授けられた。
最悪の。
そうだ。
時は2022年12月22日となっている。
では五つ目の預言です。
世界は滅亡します。……数えて21の月に。
それは今日なのですよ。
はいぃ?
驚きのあまり間抜けな言葉が口から漏れる。
これを伝える為に、貴方に預言を聞く力を与えたのです。
これを以て全ての預言は成就するでしょう。
友のもの。父親にもの。妹のもの。そして、母親のものの全てがです。
時間はあったはずです。充分に猶予が、あったはずです。
貴方が、21の深い意味に気づいていれば。
件の宝くじが発売される期間を事前に調べていれば分かったはずです。
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