第三話、またも外れる
目の前には、件の女性。
小首を傾げ、鼻筋が通って整った顔で笑む。
まずは聞きましょうか。
21の意味は分かりましたか。この世界の滅亡に関わる話なのですよ。
知らねぇし。下らねぇ。
フフフ。そうですか。……とても残念です。
では二つ目の預言です。
12月22日、貴方の父が車で事故を起こします。その事故で父は死ぬでしょう。
なんだと、今度は父親が死ぬと言い出した。
もちろん、Aが死ぬと言う預言が外れたからこそ余計に信じられない。
男としても、これは夢なのだと断じて、笑い飛ばしたい。
それでもリアルすぎる悪夢で親しき人が死ぬと2回も言われた事で気持ちが逸っていた。しかも目の前にいる女性の不可思議な魅力には無言の圧力があったがゆえに余計に急いてしまった。思う。12月22日……、21とは関係ねぇな、と。
それでも、こんなにリアルな夢を2回もみるなんて……、
やっぱ、なにか意味があるんじゃないのか?
21に。
でも、世界の滅亡なんて、いまだに信じられねぇけどさ。
また21について考えてみるが答えは出ない。いくら考えても徒労がゆえ諦める。
そうして翌朝、父親に、この事実を告げる。
また念の為にだろうか。
無論、友のAと同じく、父親も笑って取り合わない。夢だろう? と。
そうだなんだけども。そうなんだけどさ。でも、と男は、うなだれる。
そして、
迎えた2021年12月22日は、案の定というべきか、危機は回避されたというべきか、父親は普通に仕事先から帰ってきてビール片手にバラエティ番組を観ていた。赤ら顔の父親を見た男は、また乱暴に後ろ頭をかいて苦笑いした。
そして、
……また悪夢が訪れる。
では三つ目の預言です。
もう勘弁してくれ。お腹いっぱい。どうせ当たらねぇし。
などといった男の気持ちなどお構いなしに女性は続ける。
雨が降りしきる木曜日の夜、貴方の妹は家の下敷きになり命の幕を引くでしょう。
今度は妹かよ。どんだけ俺の周りの人間を殺したいんだ。
などとも考えてみるが、夢のリアルさだけは否定ができない。否定ができないからこそ、友の時も、父親の時も一喜一憂したのだ。無論、今回ばかりは気持ちを落ち着けて事にあたろうと考えていた。どうせ当たりはしない預言なのだから、と。
「おはよ」
歯ブラシを口に突っ込んで眠そうな妹がもごもごと言う。
「おうっ」
男は、自分の歯ブラシを手にとって答える。
「にぃ。昨日、なんかうなされてた? うるさいんだけど」
「ああ、変な夢を見ててな。それが、すごいリアルなんだよ。しかもお前が木曜日に死ぬなんて言われてな。まあ、でも夢だから気にするな。下らねぇ、夢だ」
「あたしが、死ぬわけないじゃん。まだ彼氏ができた事もないのにさ。アホらしい」
じろりと睨んでくる妹。
「だよな。だから下らねぇ夢の話だって言ったんだよ。まあ、うなされはしたがな」
ばつが悪いのか視線を合わさず苦笑いの男。
「うん。まあ、夢でうなされたんだったら仕方ないか。でも気を付けてよね。ウチらの部屋をへだてる壁薄いんだからさ。それに、あたし、今年、受験生だし」
と歯磨きを終えた妹が、がらがらと音を立てうがいする。
「了解。気を付けるわ。悪かったな。すまん」
と、その日は終わった。
もはや言うまでもないが、妹が死ぬと言われた木曜日は無事に過ぎる。雨さえ降らなかった。男は、すでに悟っていて当然かと一つ苦笑いをしたくらいで終わった。しかし、それでも悪夢は、四度、彼の元へと吹き込み、舞い込んでくる。
その間に、いつの間にか、半年という時間が流れていた。
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