第二話、外れる

 彼のバイト先にて……。


「あのさ、A。どうでもいい話なんだけど、一応、言っておいた方がいいかなって」


「なんだよ。なんの話?」


 仕事の合間、休憩時間を使って昨日の夢について語る男。


「なんか、夢の中で、変な女から、お前がビルの屋上から飛び降りて死ぬって言われてさ。気になって、朝から、ずっと気分悪いんだわ。てか、大丈夫だよな?」


 あまりにリアルな夢であったからこそ、念の為にだろう。


「大丈夫って、なにがだよ? 俺が死ぬとでも思ってるのか? アハハ。下らねぇ」


「だよな」


「当たり前だろ。俺は死なねぇ。馬鹿らしい」


「まあ、夢の話だしな。どうでもいいけど、なんか気になっちゃってよ」


「ちなみに、いつよ? 俺が死ぬって日は?」


 ううん?


 とスマホを使って、月齢カレンダーを開く。


「半月から12日後の夜って言ってたな。おお。半月は6日だから3月18日だな。時間は10時54分。こんなにハッキリ時間を覚えている位にリアルな夢でな」


「アハハ。その日はドライブデートよ。その時間だったら、ご想像にお任せするぜ」


 心配しすぎだろ、夢だと、Aはまた大笑い。


 男は、そうだよなと答えて夢なんかに真剣になった己が恥ずかしくなったようだ。


 そして問題の3月18日が来る。その日のAはバイトのシフトを外しており、男と会う事はなかった。なんとなく不穏な空気を感じた男は、ここで21という数字を思い出す。12日後。10時54分。どこにも21という数字は関わってこない。


 うむむ。


 と頭を悩ますが、元来、考えるのが苦手な男はほどなくてして考えるのを止める。


 まあ、夢の中で言われた事だし、大体、預言なんて信じちゃいねぇし。


 と……。


 そして、


 次の日、バイト先にて。


「おお。友よ。死んだぞ」


 死んだ。


 白い歯を魅せて笑うA。


 生きてるだろう、と男。


「昨日は朝まで4回戦よ」


「なんの話だよ? 死んだんじゃないのか?」


「おお。死んだ。死んだ。休みなしで4回戦もやってみろ、いくらタフな俺でも死ぬわ。俺ら、もう21だしな。パコパコ地獄だわ。まあ、飛び降りてないけど」


「なんだよ、そっちの死んだかよ。ちょっとだけでも心配した俺が、アホらしいぜ」


「アハハ」


 などと笑い合った。下らねぇと大笑いして。


 やっぱり世界の滅亡なんてあり得ねぇしな。


 こうなったら21なんて、どうでもいいや。


 と……。


 ともかく預言は外れた。その為、男の中に残っていた微かな不安が吹き飛んだ。夢がリアルであったからこそ心のひだに引っかかっていた杞憂も消え失せたのだ。そうして21歳である若者の日常が戻っていった。また、あの悪夢を見るまでは……。

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