21

星埜銀杏

第一話、聞く力

 …――21という数字をよく考えて下さい。


 よく考えるのです。そして、21の真の意味を知らねば、この世界は滅亡します。


 今日は、


 2021年3月22日、貴方の21歳の誕生日ですよね?


 そうだ。だからなんだ?


 と答えた彼の目の前には、スペードのエースとジャック。


 明晰夢とでも言い出しそうなほどにリアル。


 つまり、


 ブラックジャックだとでも言いたいわけか。


 でも、世界の滅亡とは大きく出たもんだな。


 下らねぇ、アホらしい。


 男は混乱気味に眉尻を下げて現況を省みる。


 昨夜、いつものようにバイトを終え、家に帰った。帰って風呂に入って温まった。そののち作り置きされていた夕食を口にしてベッドに入る。そして電気を消したところまでは覚えていた。無論、眠りに入ったあと起きたという事はない。


 つまり、ここは夢の中?


 男は、21歳の誕生日を迎えた今日、良くできた夢を見せられている。


 言うまでもないが、21という数字をよく考えろというのは自分の歳ではないかと思いを巡らせる。そんな思惑を知ってか知らずか、視界の全てを奪っていた2枚のカードが、ゆっくりと降りる。眼前から消え失せる。裏から現れる美しい女性。


 フフフ。


 翡翠色をした瞳を細め真っ直ぐに見つめる。


 今日、この日から貴方にいくらかの預言を授けましょう。


 預言だと、何だそれは?


 預言とは神の言葉。すなわち神託。それを5つだけ聞く事が出来る力を授けます。


 へっ? ……21じゃなかったのかよ、5つだけだって?


 フフフ。


 21は、また別の意味を持つ大切なる数字。


 預言が成就する為、必要な数字ですから今は、まだ、その正体を明かせませんが。


 てか、これ、夢だよな?


 はいそうですが、何か?


 黄金色した美しい髪を風になびかせた女性を尻目に男は乱暴に後ろ頭をかく。黙ってしまう。預言について肯定も否定もしない。多分に、彼の中で、これは夢だから、どうでもいいやといった投げやりな気持ちが、湧いてきたのだろう。


 そんな気持ちを、くみ取ったのか、一つ笑んで、髪の長い艶やかな女性は続ける。


 では一つ目の預言です。


 てか、いきなりかよ。どうでもいいけどさ。


 時は、半月(はんげつ)から12日後の夜。


 10時54分に貴方の友人であるAさんがビルの屋上から飛び降りて死亡します。


 おいおい、いきなりなんだ。マジか。Aの死亡宣告だと?


 というか、もはや21って全然関係ないし。


 フフフ。


 では、また、折を見て。


 というが早いか、男の目がかすむ。男が在る空間そのものが歪み揺れる。彼は、頭が痛むのか、うずくまって体を震わせる。徐々に、ゆっくりと意識は薄れていった。そうして気づくとベッドの上で朝を迎えていた。当たり前の日常に戻ったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る