オタサーの姫がらみで追放されたドワーフの俺。持っている対エルフスキルが必要と判明し戻って来てくれと何度も頼まれているけど、もう遅い

kanegon

オタサーの姫がらみで追放されたドワーフの俺。持っている対エルフスキルが必要と判明し戻って来てくれと何度も頼まれているけど、もう遅い

【起】


 よく来たな。まあ座れ。

 酒をおごってくれたお礼に、エール酒よりもちょっぴりほろ苦い俺の武勇伝を聞かせてやる。え? 必要無い? そう言うなって。聞いて損するものじゃねぇぞ。

 お前、白雪姫と七人のこびと、の逸話を知っているか?

 あれな、ディ○ニーのアニメでは、七人のこびとは、なんかファンシーなかわいいこびとさん、という感じにデフォルメされて描かれているんだけど、あれって実はドワーフなんだってことを知っていたか? そう。ずんぐりむっくりしていて、髭もじゃのむさ苦しい感じのオッサンだ。

 まあ、そこまで言えば、さすがに俺が誰であるか分かったようだな。そう、俺は、その七人のドワーフの内の一人だったんだよ。だからあの逸話について、伝聞じゃなく、内側から実際に見た真実の姿を知っているんだ。

 興味が出てきたかい?

 じゃあ、話すから、じっくり聞きな。

 事の発端は、まあ、白雪姫のお城での出来事だから、俺も実際には見ていない。恐らくここに関しては伝わっている通りなんだろう。

 世界で一番美しいと自惚れていた王妃様がいた。でも、実の娘の白雪姫こそが世界で一番美しいという現実を突きつけられて、ブチギレした。白雪姫を森に連れて行って殺すように、猟師に命令した。でもその猟師は白雪姫を不憫に思い、殺さないでおいた。王妃様には殺しましたと嘘の報告をした。

 で、森で迷子になっていた白雪姫を保護したのが、俺たち七人のドワーフ、というわけだ。ここに来てようやく、主役の俺たちドワーフが登場だ。

 森で迷子になっていた白雪姫が、俺たちの家を偶然に発見して、扉をノックした。迷子になって困っていますので助けてください、と言った。俺たち七人は、白い肌に眩い金髪、翡翠色に輝く瞳、世界一と言われるのも納得の美貌の白雪姫を見て驚いた。

 白雪姫は、エルフだったんだよ。

 エルフなら、確かに容姿は美しいよな。納得納得。

 年齢を尋ねると、七歳って言っていた。まあエルフだから、実年齢と見た目年齢が俺たちの価値基準と合わないってこともあるだろう。

 事情を聞くと、お城を逐われてしまい、帰る場所が無いという。気の毒なことだ。俺たちは、家の家事をすることを条件に、家に住まわせてやることにした。

 ここまでの流れは、白雪姫の正体がエルフだったことと、七人のこびとの正体がドワーフのオッサンだったこと以外は、お前さんが知っている通りだろう。



【承】


 だが、白雪姫を迎えて、俺たちの暮らしがおかしくなり始めた。

 家は、元々七人暮らし用だ。ベッドだって七人分しか無い。白雪姫がベッドを一つ使うということは、七人のドワーフのうち、誰かがベッドを使えずに床に寝ることになる。

 いくら白雪姫が家事をやってくれるといっても、手狭で不便なことに俺たち七人の不満が募った。

 その上、むさ苦しいオッサン七人の中に、若くてきれいな姉ちゃんが加わったら、どうなると思う?

 そう。オタサーの姫状態になったんだよ。

 あの美貌だから当然というか、仕方ないというか。俺たちドワーフ七人全員が、あわよくば白雪姫との仲を深めたいと欲望を抱き、お互い牽制し始めたんだ。

 そんなある時。俺は、その場の勢いで白雪姫にキスを迫ってしまった。結局キスは未遂に終わったんだけど、他のドワーフにその場面を目撃されてしまい、俺は弾劾裁判を受けることになった。

「お前は、対エルフ用のスキルを持っていたよな。エルフ接近感知と、対エルフ攻撃力3倍と防御力2倍」

「エルフに対して強力な攻撃防御バフがあるということは、白雪ちゃんに強引に迫ったら、白雪ちゃんは抵抗できないってことだ。これは危険だ」

 俺は、家から追放されてしまうことになった。

 これで、白雪姫と六人のドワーフで、合計七人になったのだから、七人用の家には住みやすくなった。今にして思えば、俺は陰謀にハメられて追放されたのかもな。

 容姿は髭もじゃのオッサンでも、当時は俺もまだ若かったからな。追放されたのはショックだったよ。七人の友情は永遠だと信じていた。それが、オタサーの姫が加わって呆気なく崩壊した。虚しいものさ。

 で、邪魔者の俺を追放した後の、白雪姫と六人のドワーフたちなんだけど。

 白雪姫の事情を正確に理解していなかったんだ。白雪姫はお城を追放されただけじゃなく、実の母親から命を狙われているということを、遅まきながら知った。

 執念深い王妃様のことだ。いずれ、白雪姫が存命であることを知り、他人が信用できないなら自らの手で殺しに来るはずだ。

 つまり、恐ろしい殺人鬼が、森の七人の家にやって来るってことだ。

 そんな状況で最も頼りになるのって、追放された俺なんだよね。

 白雪姫の実の母ってことは、当然王妃様もエルフだ。エルフの接近を早めに感知できて、エルフ相手の場合攻撃も防御も強くなるスキルのある俺こそが対エルフ戦闘の切り札となるべき存在なんだ。



【転】


 ここに来てやっと、家に残った七人は、俺を追放したのが失敗だったと気付いた。ドワーフの一人が俺を訪ねて来て、戻って来てくれ、と俺に頭を下げて頼んだ。

 勿論、俺は断ってやったね。今更だろう。

 次の日には別のドワーフ、更に次の日にはまた別の奴が来て、ドワーフ六人の後には白雪姫も来て、俺に戻ってくれと頼み込んだ。

 白雪姫の頼みであっても、俺の答えは同じだ。今更じゃん。

 で、俺が居ないうちに、ついに王妃様がやって来てしまった。王妃様は白雪姫を紐で締め殺そうとした。六人のドワーフで意識不明の白雪姫を必死に介抱し、なんとか奇跡的に蘇生できた。しかし、この一件で王妃様の恐ろしさは身に染みて分かったらしい。

 また、ドワーフの一人が俺を訪ねて来て、戻って来てくれと頭を下げて頼んだ。

 当然お断りだ。俺を追放したのはお前らだよね。自業自得でしょ。

 次の日には別のドワーフ、更に次の日にもって感じで、また一人ずつ頼みに来た。対応するこちらの面倒くささにも配慮してほしいものだ。最後には白雪姫本人も頼みに来た。勿論俺はきっぱりと断ったけど。

 そうこうしているうちに、白雪姫がまだ存命で暗殺は失敗だったと気付いた王妃様が再びやってきた。魔法の呪いのかかった櫛を刺して白雪姫を殺そうとした。六人のドワーフの必死の介護で白雪姫は一命を取り留めた。でも、こんなことを続けていたらいずれ白雪姫は本当に殺されてしまう。エルフに強い俺が王妃様を撃退しなければ、本当の解決にはならない。

 三たび、ドワーフの一人が戻って来てくれと頼みに来た。うっせえわ。めんどくせえわ。来るなら全員一度に来たら、断るのも一度で済むのに。

 そんな俺の思いなど知らず、ドワーフは結局一人ずつ、六人が順番に来た。

 でも俺の答えは変わらない。最初の時から数えて、これで20回、俺は鄭重にお断りの言葉を述べた。もう遅いってことに気付けよ。

 お前らの勝手な都合で追放した俺に頼るんじゃなく、自分たちで王妃様と戦えばいいじゃないか。お前らだってスキル持っているだろう。対オーク攻撃力10倍とか、対ゴブリン通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃とか。まあエルフの王妃様相手には役に立たなそうだけど。

 でもよく考えたら、この状況は利用できるかも。俺と白雪姫が付き合うことをみんなに認めさせることを条件にすれば戻ってやってもいいかも。

 次は21回目。白雪姫が自ら来る番だ。丁度いいだろう。俺と付き合ってくれるなら、戻ってやってもいいぜ、とでも言ってやろう。ついでに、あの時未遂に終わったキスくらいなら迫ったってバチは当たらないだろうな。



【結】


 と、俺は白雪姫が来る21回目を、JIGを踊りだしそうな気分で待ち望んでいた。

 ところが、いつまで経っても来ない。

 何が起こっていたか、については、あんたも知っているだろう。

 白雪姫が俺のところに21回目のお願いに来る前に、王妃様が先に動いていたんだ。

 白雪姫は王妃様に毒リンゴを食べさせられて、死んでしまったんだ。

 死んでしまったら、俺のところに頼みに来るはずがないよな。アテが外れてしまったけど、その時の俺は、白雪姫がそんなことになっていたなんて、まだ情報を掴んでいなかったんだ。

 王妃様の侵入を防げない六人のドワーフもだらしないし、簡単に騙されて王妃様の攻撃を食らってしまう白雪姫も世間知らずすぎだな。まあ七歳なら仕方ないけど。

 六人のドワーフは必死に白雪姫を蘇生しようとした。だが、今度の毒リンゴは強力だった。だけど、今度ばかりは上手くいかなかった。というよりもむしろ、今までが都合よく上手く蘇生できすぎだろう。

 その時、六人のうちの誰かが伝説を思い出した。

 運命の王子さまの口づけならば、奇跡が起きて、どんな強力な毒でも解毒できる。

 六人は一人ずつ順番に、死んでもなおバラ色につやつや輝く白雪姫の唇にキスをした。でも奇跡は起きず、白雪姫は復活しなかった。

 そんな時、白馬に乗った王子様が近くを通りかかった。なんでこのタイミングで王子様登場するんだよご都合主義だよ。某所ならマイナス30点だよ。

 その後の顛末は知っているだろう。王子様のキスで、奇跡が起きて、白雪姫の毒は解毒された。白雪姫は目を覚まし、イケメンの王子様と結婚することにした。

 俺が、白雪姫が毒リンゴに倒れたことを知り、駆け付けた時には、丁度、王子様と白雪姫がセップンをして、白雪姫が目を覚ますところだった。

 結局俺は一足遅れだった。よくよく考えたら、俺以外の六人のドワーフは、眠っている白雪姫と一回ずつキスをしているけど、俺だけはキスできないまま終わってしまった。

 これで俺の話は終わりさ。

 この出来事のオチは、オタサーの姫は、オタサーのキモいオタクとはくっつかず、余所の大学のイケメンと付き合うようになるよ、っていう渋い教訓さ。

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