21回目の異世界転移
葵 悠静
本編
「貴様はまだこの世界の真実に気づいていない……」
「じゃあいつになったらわかるんだよ。教えてくれ」
この世界へ魔王と呼ばれている見麗しい女性への最後の一突き。
魔王は恨めし気に遺言を残しながらその姿を塵へと変える。
それと同時に俺の全身も発光を始める。
周りの仲間たちの悲鳴のような声で俺を呼ぶのが聞こえるが、どれだけ叫ぼうが間に合うことはない。
眩い光に眼前が覆われると同時に、俺は意識を失った。
次に目が覚めたとき、俺は公園のベンチの上で寝転がっていた。
そう、ここは俺が異世界に転移する羽目になった場所。
そしてこれから異世界転移する場所だ。
さっきとは違う白い光が俺の全身を照らす。
ベンチから身を起こすと、目の前には大きなトラックが迫ってきていた。
トラックにぶつかる瞬間、俺は悟る。
ああ、まただめだったのか。と。
二度目の目覚め。
周りには見慣れた風景が広がっていた。
まあ木が大量に立ち並んでいる森の中なんて、見慣れるも何もないのかもしれないが。
しかし俺にとっては何度も見た光景。そして何度も同じことを繰り返している。
一回目、俺は部活帰り気まぐれで公園のベンチでコンビニで買った肉まんを頬張っているときそれは起きた。
居眠り運転をしていたトラックが公園の中に突っ込んできて、俺は抗うすべもなくトラックと激突。
猛スピードで突っ込んできたトラックに跳ねられたのだから、当然即死だ。
痛みを感じる間もなく気を失った俺が、次に目覚めたのはこの森の中だった。
そう、俗にいう異世界転移というやつにあったのだ。
もちろん最初はテンションが上がった。人生イージーモードのチートスキルを手に入れて無双ができると、そう思い込んでいた。
しかし異世界はそこまで俺に甘くなかった。
最初の山賊遭遇イベントで、まんまと口車に乗せられて山賊のアジトで斬殺。
あっけなく俺は死んだ。
異世界転移チートでハーレム。そんな妄想を抱えていたわくわくの心を一気に砕かれた気分だった。
これで本当に死ぬんだと思っていたが、どうやらそうではなく俺はトラックに轢かれたあの公園に戻ってきていた。
そして、またトラックが突っ込んできた。案の定俺は轢かれて吹っ飛ぶ。
そしてまた同じ場所で異世界転移。
今思えばこの時点で疑問を覚えるべきだったんだが、なんというか俺は頭が悪かった。
単純にコンテニューできるんだと勘違いして、喜んだ。
コンテニューなんてチートスキルじゃねえかとはしゃいだりもした。
そして新しい場所に行くごとに、何かイベントが発生しては殺されそして異世界転移を繰り返した。
しかし直前でセーブしてコンテニューなんてそんな甘い話があるわけがなく、一度死んで異世界転移を繰り返した後は、リセットされて最初からだった。
そして異世界転移、8回目。
ようやく俺は異世界の悪の権化といわれていた魔王の討伐に成功した。
これでループから抜け出せる。俺はそう思った。
魔王を倒した達成感より、もうトラックに轢かれないで済むという解放感の方が大きかった。
魔王が朽ちると同時に俺は現実世界へと戻ってくる。
しかし結果は同じだった。すぐにトラックに轢かれて同じ場所で覚醒。
俺は疑問に思いながらも忠実にすべてのイベントをこなして再び魔王を倒した。
しかし現実に戻っても出迎えてくれるのはトラックだけ。
そして覚醒したらいつも目に入るのは鬱蒼と生い茂った木々のみ。
12回目までは、なにかイベント分岐を間違えているのではないかと思い、いろいろなルートを変えてみた。
それでも結果は何も変わらない。
トラックに轢かれて、魔王を殺して、またトラックに轢かれて……。
13回目からは思考を変えてみた。
魔王を倒す前に魔物を全滅させる必要があるのではないかと。
魔王を倒したところで魔物は減らない。
それで本当に世界に平和が訪れたといえるのか。
そうして魔物を殲滅していたら今度は王国のやつらがでしゃばってきた。
需要供給がどうのこうの言ってたけど、俺からしたら魔王討伐を頼んどいて何を言ってんの? って感じだった。
15回目までは王国の邪魔を回避しながら魔物を殲滅していたが、あいつらいくら殺しても数が減らない。
魔物の数が0になることはなかった。
結局そうして最早無気力でループしてさっき20回目のループを終えた。
俺はここでループが終わらなければこうしようと決めていた。
21回目でようやく気付くことができたのだ。
つくづくやっぱり俺ってバカなんだなって思う。こんだけ繰り返してようやく気付くんだから。
20回目で何か変わるんじゃないか、終わるんじゃないかって無意味な希望を抱いていた自分に反吐が出る。
希望なんてない。俺はどう頑張っても死ぬことさえできないのだ。
それならば……。もう死ぬことも普通の生活に戻ることさえもできないのならば。
「俺が世界を壊すしかない」
これが21回目のループでようやくたどり着いた真実。
現実世界でも異世界でも死んで、違う世界に飛ばされるのであればどちらかの世界を壊すしかない。
現実世界での俺にそんな力はない。でも異世界での俺ならその力が手に入る。
最適で最短のルートを通れば、俺にだってこの世界には行き過ぎた力を手に入れることが可能だ。
魔王になるなんてのは生ぬるい。すべてを破壊する神にでもなるつもりで立ち回らなければ。
「あの、大丈夫ですか?」
森のど真ん中で寝転がった俺を覗き込んでくる絶世の美女。
俺が最短で最適解で世界を壊すための第一歩。
俺がこの世界を壊すのは完全な俺のエゴだ。
でもそうさせたのはお前ら世界の方だ。
だからこれも、仕方ないよな?
「大丈夫だよ」
俺は笑顔で微笑んでから近くにあった小枝を掴み半分に折ると、俺のヒロインの胸にそれを突き刺した。
俺はこの世界のすべてをぶっ壊す。
返り血を顔に浴びながら、俺は固く胸に誓った。
21回目の異世界転移 葵 悠静 @goryu36
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます