第2話時は流れ
「こんなものか」
かつてまおうだった男は佇む。
「なかなかに、やりがいのある仕事であったわ」
まおうだった男はにやりと口角を上げて笑った。
「クックック。あとは俺好みにじっくりと仕込むのみよ」
まおうはゆっくりと器をのせた皿を窯に据えた。
そう。強大な魔族や超危険な魔物たちが跋扈する魔大陸を力のみでねじ伏せた魔大陸の王こと、魔王は逃避行(?)の末に陶芸に勤しんでいた。
「獣大陸広しと言えど、この繊細なる業を成せるのは、俺しかいないであろう」
獣大陸とは、魔王が大規模魔術『空間転移』によって部屋ごと飛ばされた大陸の名であった。魔大陸が魔族や魔物が跋扈する大陸であるとするならば、獣大陸は、二足歩行する獣で強靱な精神を宿す獣人とおおよそすべてが巨大である野生動物がひしめく大陸であった。
当然、魔王は歓喜した。
己の数十倍にもおよぶ象なる動物に挑んでは吹き飛ばされることなど朝飯前である。デカい上に硬い皮膚。硬い皮膚に護られたおよそ30トンの塊の突進であった。
死んで然り、潰れて然り。
そのような生物が魔大陸の数倍はある大陸中に存在していた。
魔王は未知の大陸であった獣大陸で大いにはしゃいだ。はっちゃけた。政務に凝っているうちに緩んでいた闘争心が燃えあげり、爆炎をあげた瞬間でもあった。
魔王は疾駆した。
この広大な未知の大陸を。
そして魔大陸のすべてを見渡し征した魔王は、いつしか獣王と呼ばれる存在にまで至っていた。
「……」 前回とは違って自覚はあった。
獣人は部族ごとで集落を築いたのだが、殺っただの殺られただのと血で血を洗う抗争を繰り返していた。その凄惨な光景は、長く、長く続いていた。もやは、終わることはない。
これは、生存競争なのだと自然に受け入れるには十分過ぎるほどに時間は流れていた。
が。
「そんなことは、どうでもいい。強き者がいるときいた。俺と戦え」
この男、おかまいなしである。
部族が誇る最強の戦士をぶん殴った。なんなら集落すべてのものを殴り倒しもした。
向かってくる者に貴賎なし。
男女平等、雌雄平等の精神の持ち主である魔王は向かってくる者すべてに平等であった。
人族の集落では村一番の剛力の持ち主という男を死なぬ程度に殴り倒した際には「悪鬼の如し強さだ」と称された。
ちなみに人族の集落は獣が忌避する匂いを発する木々が生えそろう森でひっそりと暮らしていたぞ。
「まて、悪鬼とはなんだ。聞いたことがない。俺に教えろ」
そして存在をしられた鬼族は犠牲になった。
別に殺したわけではないぞ。向かったら向かって来るから向かって来るぶんだけ悉くぶちのめしただけだ。
その結果、鬼族の王に祀り上げられることになったがな。
剛力こそすべて。それが鬼の世界だったらしい。
この流れ……、前にも見たぞ。とすばやく身をひるがえそうとした。けれど。
「何処へ行かれるのですか。我が夫。大陸の王よ」とグラマラスな鬼嫁に見つかってすぐに捕縛された。
「ふふ。かわいいかわいい我が夫。この身果てるまで添い遂げようぞ」
なんと鬼族は獣大陸においてその名を呼ぶことすら憚られるほどに恐れられ、ついには、その存在すらを忘れさられた種族であったのだ。
ところで、なぜ人族が覚えているのかといえば、この獣大陸で人族の力があまりにも弱く、貧弱であったからこそ、後世にすこしでも恐怖を伝え残すことで子孫を守ろうと考えた先人の知恵によるものであった。
剛靱剛力において右に出るものなし。
その鬼族においてもっとも強く美しい戦士が俺の嫁になった瞬間である。
「鬼の嫁。略して鬼嫁……。こわいでござる。おもに性格が……」
まおう むくろぼーん @mukurobone
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。まおうの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
生きることに迷うあなたに贈る言葉/むくろぼーん
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます