まおう
むくろぼーん
第1話強きを求め、ぶちのめす男の話。
ただ強く、ただただ強く、ただ戦い、ただただ戦い、続けた。
ふりむけば、たたかい、ふりかえれば、たたかい、それだけだった。
どこもまでも見渡せる大地を駆け出し、飛び越え、旅をした。うわさの強者に歓喜し、失望し、それでもさがし、大陸を駆けまわり続けた。
欲し続けた。強く、高く、どこまでも、厚い、壁を。
三日三晩、なぐりあう、今生最高の時。
闘いにやぶれ、悔いなく、散っていく姿に見惚れた。うらやましくもあり、はらだたしくもある。
闘いのすえに、すわった玉座。
???
正気に戻ったときには、大陸の王となっていた。世間的な称号で言えば「魔王」だ。うん、魔王だ。魔の王と書いて、魔王だ。
なるつもりは、微塵もなかった。強者がいると知れば、旅をした。出会ってすぐに、目と目で分かりあい、殴り合ったこともあった。
不敬だと襲い掛かる護衛をなぎ倒し、ぶちのめしたこともあった。龍種がいるときけば、飛ぶように走り、屈服させたこともあった。
なぜか呼ばれたから、魔王城に行けば、魔王と一騎打ちとなったこともあった。あれは楽しかった。歴代最強と名高い魔王。
壮絶を極めた闘いに溺れ、魔王城は半壊。最後は、旅を続け、ただ戦い、ただただ戦い、培われた圧倒的なタフネスで押し切った。
結果魔王は倒れたが、な。散ったといったが死んだわけではない。満足気な顔で、意識を失い、半死状態に陥り、政務どころではなくなっただけだ。
終わったから帰ろうとしたら、執事然とした男と、メイド調な鬼のような顔をした女に、肩を捕まれ気づいたら玉座に座らされていた。
柄じゃないからとんずらしようとしたら、
「どこへ行かれるのですかな?陛下」 ふりむけばやつがいた。
なにあれ魔王よりこわかったんですけど……。
どうやら、噂をきけばぶちのめしにいく、というストロングスタイルせいで、旧魔王さんの重臣を悉くぶちのめしてしまっていたらしく
「こいつは玉座に据えておかないとまずい」となったらしい。
自覚はなかったが、さすがに申し訳もないとあきらめた。座してしまったのはもうどうしようもない。と開き直ることにした。
弱肉強食な魔族世界だ。きっと俺と同じような強者が現れる。
どんなやつがくるのか、今から楽しみで仕方がない。
「クックック」あぁ たのしみだ。どんな強者が現れてくれるのか。
「はッはッは ハーッハーッハー」
気づけば100年が過ぎてた。
誰も来なかったでござる。
最初の5年はただ鍛錬し、ただただ鍛錬し、待った。10年がたつ頃には、ただ飯を食らうのも申し訳なくなり、政務にかかわるようにした。
政務を教わるうちに、ふざけたことをしている領主、貴族がいることがいると聴けばぶん殴った。
「強大な変異した魔物が暴れています」
と報告を受ければ、嬉々としてぶちのめしにいった。
地に伏せた魔物が付いてくるというので、魔王城で飼うことにした。幾年かの時間を、ときにじゃれあい(闘い)ながら過ごしたが
「子孫が残したい」と番(つがい)をさがすために、旅立っていきやがった。
「帰ってきたらとりあえず、殴ろう」 と決意した。
そんなことはあったが、時は流れていった。
20年、30年、その頃には政務にも慣れ、むしろ、存外にハマり、凝った。
40年、50年、と統治は安定していった。
60年から先は魔王国はじまって以来の豊かな時代に突入した。
30年頃から植え始めた新たな改革が、目に見えて成果にのぼりはじめたのだ。
凝ったかいあった。
凝りに凝ったものが、実を結び、豊かさにあふれた魔王国を、王城から眺めているときに、我に返った。
「???あれ……」
当初の目的どこにいった。と。
そこからは、はやかった。
「来ないなら行くまでよ!!」
意気揚々と退位する旨を執事に伝えにいくと、客間に移動させられた上に、ソファに座らされた。
「少しここで座ってお待ちください。いいですね? 陛下」
おん?と怪訝の思いながらも、了承すると、
「いつかは言い出される事とは承知しておりましたが、いまはまだ御身にいてもらわなくてはなりません、手前の引き出しに前魔王さまより手紙を預かっておりますので、お読みください。お疲れさまでした」
深く一礼をしてあげた顔には感慨深さがあった。スッと扉を閉めて執事は部屋を出ていった。
引き出しにあるという手紙を取り出し、封を開けた 「っ!?」
空間が歪む気配した。急いでドアに向かうが遅かった。扉を開けた先は、なにもない草原だ。
「どういうことだっ!?」
つい叫んでしまったが、時間の経過とともに、頭が回り始める。
「そうだっ 手紙になにか……」
内容としてはこうだった。
もっと早く飛び出していくだろうとおもってたけど、政務をやりだしたり、それが上策だったりして魔王国が繁栄していってしまったがゆえに、おれという神輿が突然の出奔(魔大陸をかけまわる)のはおおきな混乱を招くことは想像に難くない。
そして言い出したら飛び出すのは目に見えていた。
そこで、魔大陸ではない、俺が求める強者がいるかもしれない未知の大陸へ飛ばす準備をしていたという話だった。
発動はこの手紙の封をトリガーとした空間を移動する大規模魔術で、未知の別大陸になる。
ごめんね、ありがとう。
というものだった。
読み終えた。
「クックック」 未知の大陸だと、なんて心躍るフレーズだ。
「はーッハーッハー」 強者が俺を呼んでいる。
ひゃああはーーーーーーーーーっ
全力で駆け出した。
未知の大陸のパワーバランスを悉くぶち壊した男の物語が、いま、始まる。
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