私とプレイヤーとNPCたち

渡貫とゐち

私の世界

 少し前に流行ったVRゲーム。

 ヘルメット型のヘッドセットを被り、自分の意識をゲームの中へ飛ばすことができる技術は、みんなの興味を引き、あっという間に社会現象になった。


 寝食を忘れてログインする人も増え、一時期、社会問題になったりもしたけど……、今ではゲームプレイ中はプレイヤーのバイタルもチェックされるようになっていて、問題があれば、ゲームの電源が自動で切れるようになっている。


(中断セーブがされるので、オートセーブが適応されていない部分のデータが消えた、ということはない。フレンドとクエスト中だったりすると、さすがに復帰するまでの空白を埋めることではできないけど)


 VRゲームの人気は急激に上がったものの、最近ではさすがに天井を打った、と言われていた。VRゲームは基本的に全世界の人が同時接続できるから、アクションRPGが多かったりする……、もちろんスポーツゲームもあったりするけど、やっぱり王道と言えるほどの人気はなかった。


 企業も、できれば当たるゲームを出したいだろうし、人気どころの真似をするところが多い。事実、それで人気を獲得して売り上げに繋がっているのだから、余裕がなければ、マニアックな層をターゲットにはできない……、そういったしがらみがあるのだろうね。


 小さな会社だと冒険はできるだろうけど、小さいからこそ資金もそう多くない。マニアックな層を刺しても、そこから次へ進展しない。もの珍しい設定やギミックを駆使したVRゲームは最初こそ話題にはなるものの、そこから失速してしまう。

 だからみんながみんな、こぞって二番煎じを狙っていく。


 似たようなゲームが増えるのも当然。

 でもそれは、企業だったら、の話。


 私たちみたいな素人なら、売り上げなんて関係なく、ただ面白いと思ったこと手当たり次第に投げ入れて、闇鍋のようなVRゲームを作ることも可能――、

 それを推奨したのが、VR世界を簡単に作れるキットを提供した、異世界投稿サイト。


 素人が作ったVRゲームを、みんなが同時ログ接続インできるサービスが今、若者に限らず大人気なのだった。


 で、そんな私も製作者クリエイターをやっている。


 作り出したVR世界の中、七つの国の内、一つを担当していた。

 そう、私以外にも六人の製作者仲間がいて、一つの世界を共同制作しているのだ。


 これって、意外と誰もやっていない手法。実はやっているのかもしれないけど、私たちみたいに堂々と紹介しているチームもいないだろうね。


 七つの国、つまり七人の思考が入り混じった一つのVR世界。

 世界観こそ滅茶苦茶になりやすいけど、だけど辻褄なんて合わなくてもいいから、とにかく面白いと思ったら次々と新要素を突っ込んでいく闇鍋感が、素人作品の良いところなんじゃないかなって、私は思うわけなのだ。


 私たちの世界は既に多くのプレイヤーがログインしている。これで完成っ、ではないものの、バグが見つかればその都度、修正していくし、つまらない部分は削除して、面白いアイデアを追加していく――、みんなの反応を見て修正していくやり方だ。


 だから完成、と言えることなんて、ないのかもしれない。



 学校から帰り、一目散にヘッドセットを被って私たちの世界へ。


 宿屋で目を覚ました私は、はずしていた武器と防具を装備し直し、町へ出る。

 製作者だからと言って、自分のキャラを強くはしないのだ。だってそれではつまらない……私が作った国だけど、他の六人も手を入れることができるのだから。


 仲間の中には大学生やフリーターもいるし、私が学校にいっている間に変更点でもあったのかな、と違いを確かめるのも、私にとってはVR世界を数倍面白く遊ぶ楽しみ方だ。


 ギルドへ向かい、クエストボードを見ると――、


 見たクエスト内容が、次々と書き換わっていった……、え? 

 まさに今、他の誰かがゲーム内容を変えている……?


 ――ズシンッッ! と地響きが外から聞こえてくる。

 窓の外に見えるのは、巨大なドラゴン――、

 

 ちょっと待って! 町の中にモンスターは入れない設定のはずだけど!?



「うわ、本当に町の中に竜がいるよ……本当だったんだなあ、あの噂」


 ギルドにいた、ログインしているプレイヤーの会話内容が聞こえてくる。


「製作者権限が使い放題ってマジなのかよ! 変なウイルスを踏みたくないから無視したのが失敗だったかっ!?」


「今の内に壊れ武器を作っておけば、この世界で無双できるだろうぜ」


「でも、誰でも手を入れられるんだろ? じゃあ結局、壊れ武器だらけになって、それでも勝てない敵やダンジョンを作り出したら、ゲームバランスが元に戻ると思うが……」


「かもな。ってことは、NPCだけがそのままで取り残されるかもな。

 まあ、どうせクエストを発生させるためだけの存在だし、いなくても問題はないだろ。代用のなにかが用意されるだろうし」



「ねえ」



 会話をする筋肉質な男たち(もしかしたら中身は女の子かも?)の輪の間を突き進み、私はリーダー格のプレイヤーの胸倉を掴んで、


「NPCはこの世界で生きてるの。いなくなってもいいとか言わないで」


「……なんだよお前……はあ? 製作者の設定した通りに喋って動く人形に感情移入でもしたか? 感受性が豊かな女だ……いや、ネカマか? まあいい、とにかくこの手をどかせ。

 でないと町の外でぶっ殺してやってもいいんだぞ?」


「やってみなさいよ――、私に勝てるとでも思ってるの?」


「お前も制作者権限を利用して優位に立ったと思ってるかもしれねえが、こっちには相手のハードディスクをぶっ壊す【NPC】が仲間にいるんだ……、大事なデータや個人情報を流出されたくなければ、素直に謝るんだな――」


「なに、そのキャラ……?」


「さあな? 誰が作ったのか、バグが変異してウイルスになったのか知らねえが。確かに生きているのかもなあ……、びびったぜ、ただのNPCがオレらを脅してきたんだからな」


「脅す……?」

「ああ」


「この世界に存在する、たった一人の【ウイルスバスター】としての役目を持つNPCを殺せってな。ったく、やられたぜ。本当のトラブルなのか、こういうシナリオで興味を引く製作者のやり方なのか知らないが……、面白いじゃねえか」


 ……知らない、私はこんなギミックっ、会議でも聞いたことがない!!


「製作者、プレイヤー、NPC……、誰が勝つんだろうなあ――」


 製作者権限は、今ではもう、誰もが使えるフリー素材。

 私もログインした不特定多数の人たちの立場は変わらない。


 そしてNPCは、プレイヤーたちのハードディスクを壊す力を持っている……、


 その変異したNPCに対抗できるのは、

 世界に一人だけいる、ウイルスバスターの役目を持つNPC……、



「一番先にそいつを見つけ出すのは、誰だろうなあ?」



 私の製作者というアドバンテージは、気づけばまったくなくなっていた。

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私とプレイヤーとNPCたち 渡貫とゐち @josho

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