私の素晴らしき同居者達

矮凹七五

第1話 私の素晴らしき同居者達

 パソコンやスマホ等を用いれば、簡単に文章を作成し、編集する事が出来る。

 小説投稿サイトに自分が書いた小説を発表すれば、国中の人達がそれを読む事が出来る。

 いい時代になったものだ。

 昔はペンで原稿用紙に文章を書いては線を引いたりして修正し、挙句の果てに原稿用紙を破棄して最初から書き直したりと面倒臭い事極まりない作業をしていたらしい。

 さらにインターネットも無いから、紙に書いたものを仲間内で見せ合ったり、同人誌を作って即売会をする等して、自分以外の人に見てもらっていたらしい。

 情報化社会を生きる私にとっては、信じられない話だ。

 私はアマチュア作家。小説投稿サイトにて二つの小説を連載中だ。

 先日、『勇者パーティを追放されたコスプレイヤーは敵を誘惑しまくって無双する』の最新話を投稿した。読者の反応を見てみると、相変わらず好評だ。

『美男美女に変身して敵を誘惑するのが面白いです』

『早く性悪勇者がざまぁされる所を見てみたい』

『エロ描写が上手い。しかもR18にならないよう巧みにやってる。俺も誘惑されたい……』

 これらの好意的な感想に「いいね」を付ける事は忘れない。

 もう一つの連載作品である『乙女ゲームのアラサー悪役令嬢に転生したOLは熟女好きの王子に溺愛される』――こちらも好評だ。

『わたしもああいう風に溺愛されてみたい』

『ニヤニヤが止まりません』

 とちらもテンプレと呼ばれる王道パターンに従って書いているものなのだが、ここまで人気が出るとは。IT企業の闇――偽装請負に多重派遣、ITドナドナ等――を描いた作品や、連続猟奇殺人を描いたミステリーも連載していたが、これらの作品は見向きもされなかった。何だこの違いは。


 読者からの反応は、小説投稿サイトだけではない。SNS上でも見られる。

『次回も楽しみにしてます』

『書籍化希望』

 書籍化……それは私、いやアマチュア作家全てにとってのロマンだ。自分のWeb連載作品が書籍化される事を望んでいるアマチュア作家は、この世にどれだけいるのだろうか。星の数だけいるだろう。私の作品も書籍化して欲しい。出版社よ、早く声を掛けてくれないか。いや、声を掛けて下さい。お願いします。

『絶対にエタらないでください』

 エタる――それは、連載作品が未完成のまま終わってしまう事を示す言葉。エターナルを由来とする造語だ。『勇者パーティを~』も『乙女ゲームの~』も、大好評だから引き延ばせるだけ引き延ばしたいというのが本音だが、いずれ完結させる事も考えなければならない。未完成のまま終わらせてしまう作家は、嫌われるだろうし。

 小説投稿サイトと比べるとSNSの方は正直だ。私の作品に対する批判も時々見られる。

『ワンパターンでつまんね』

『最近この手のゲームみたいな作品が増えすぎて鬱陶しい』

『勇者が全然勇者じゃないし、賢者は賢くない者だし、主人公の言動も気持ち悪い』

『乙女ゲームやったことねーだろ。この作者』

 こういう批判を見るたびに胸をえぐられる気分になる。ガクッとくる。けれども、一流作家でも批判される事はしばしばある。応援してくれる読者もいる事だし、頑張ろう。

 SNSの書き込みを見ていると、好意的な読者からこんなコメントがあった。

『どんな人か見てみたい』

 世界中の人に見られ得るインターネット。そこに顔を晒すなんて、私はしたくない。けれども、私の顔を見てみたいという人は、少なからずいる。

『友達とか恋人いるの?』――こういうコメントも見かけた。

 友達とか恋人か……いるとも。素晴らしき仲間、私と同居している者達が。

 そうだ、特定されないよう隠すところは隠して、SNSに私の顔をアップロードしよう。ついでに、私の同居者達も紹介しよう。もちろん、プライバシーについては配慮する。


 私の同居者である一義かずよしとハートマン。どちらも誠実な働き者だ。部屋をろくに片付けない私とはえらい違いだ。

 全員同時に写るのは厳しそうだから、それぞれとのツーショット画像を撮ろう。

 片手にスマホを持つ。その腕を伸ばして私と一義が画面内に収まるようにして撮影する。パシャッ!

 同様にして私とハートマンのツーショットも撮影する。パシャッ!

 撮影した二つの画像を確認する。上出来だ。

 目の辺りや個人情報を特定されそうな箇所は黒塗りにする。そして、SNSに紹介文と共に画像をアップロード。

『同居者の一義とハートマン』

 文章の下に私と一義、私とハートマンという組み合わせのツーショット画像が添えられている。

 しかし、これを見た人達からの評価は、散々なものだった。


『ぎゃー!』

『キモイ』

『閲覧注意』

『精神ブラクラ』

 何という酷い言い方。ただ、それらの暴言は私ではなく、同居者達に向けられているようだ。

 一義とハートマンは人間ではない。一義はヤモリで、ハートマンはアシダカグモだ。けれども、いくら人間ではないからといって、あの暴言はない。酷すぎる。

 一義の猫のような目、ぴくぴくするお腹、吸盤付きの手は可愛くて魅力的。ハートマンの長い足、くびれた腰、褐色の渋いカラーリング、こちらも魅力的だ。

 悲しいかな、他の人には一義とハートマンの魅力がわからないようだ。


 一義とハートマンの職業はハンターだ。獲物を狩るプロフェッショナルだ。

 職業こそハンターだが、実質、戦士でもあり勇者でもある。現に彼らは黒い悪魔や魔王ベールゼブブの尖兵相手に戦っているではないか。

「カサカサ……」という音と「ブーン」という音が私の耳に入った。

 噂をすれば影! 床の上には黒い悪魔、空中にはベールゼブブの尖兵がいるではないか!

 ハートマンが黒い悪魔目掛けてダッシュする。

 ベールゼブブの尖兵が壁に止まった。相手に気付かれないようにするためか、一義は少しずつ歩み寄る。

 行けーっ! ハートマン! 頑張れ! 一義!

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