第9話(最終回):誰もいない戦いの記録

目が覚めると私は自分の部屋にいた。

時計の針はB.A.Nの世界に飛ばされたときから進んでいないように見えたが、日付が1日進んでいることに気がついた。

どうやらちょうど丸一日、あの世界に居たようだ。

私は昨日作ったまま放置されていたカップ麺を捨てると、新しく用意したカップ麺にお湯を注いだ。

そうか、私は勝ったんだ。

『べりさ』と『べりか』も無事に戻ることができただろうか。

結局、最後までチームには加わらなかった『ぞのれい』は今も誰かを助けているのだろうか。

そして、『土生名人』は…

私の中に達成感と同時に急激に寂しさが込み上げてきた。

私は洗面所に行き、涙でぐしゃぐしゃになっていた顔を洗って気持ちを落ち着かせることにした。


これは神様が私に与えた試練だったのだろうか。

私がもう二度と時間を無駄にはしないために。

そうか、違う自分に生まれ変わるために神様がくれたチャンスだったんだ。


神様、分かりました。

改めます。


なんてね。

神様、何かいけないんですか?

変わらないっていけないことなの?

今更、違う自分になれるわけないじゃない?

反省なんかしないわよ。


私は再びゲームの電源を入れた。

ランキングから『ひかる』の名前は無くなり、私が1位になっていた。

しばらくランキング画面を眺めていた私は、あることに気がつき再び涙を流した。

ランキング2位の『土生名人』のポイントが加算されたのだ。

私は急いでプレイボタンを押した。

建物を探索し、武器を整える。

いつゾンビが襲ってきても負ける気がしない。

すると、一人のプレイヤーが私に近づいてきた。


土生名人『やあ』


いのり『戻ってこれたんですね』


土生名人『どうやらそうみたい。なんせ、ひかるに止めを刺した人間だからね』


いのり『ほとんどゾンビでしたけどね』


土生名人『さっき、べりさとべりかも居たんだ。そういえば、ニュースで言ってた。行方不明だった人たちが次々と発見されているって』


いのり『ぞのれいさんもどこかに居ますかね』


土生名人『きっと居るよ。いきなり10年後の世界に戻ってきたから変化に驚いてるだろうね』


いのり『そうだ!今度、みんなで会いませんか?』


土生名人『それ、いいね!5人で集まってカップ麺食べようよ』


井上「あ…」


カップ麺はすっかり伸びきっていた。



完。

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