第8話:flag

制限時間は残り20分を切っていた。

しかし、焦りは禁物。

タイミングを見謝れば私たちはゲームオーバーだ。

大丈夫。必ず逆転の瞬間は訪れる。


井上「『土生名人』、ありがとうございます」


土生「どうした急に。まだ勝ったわけじゃないぞ」


井上「分かってます。でも、どうしても伝えておきたくて。私、この戦いが終わったら、家に帰ってカップ麺が食べたいです」


土生「ははは。それって、なんだか死亡フラグみたいだね」


井上「確かに。あははは」


りさ「あんたたち、なに馬鹿なこと言ってんのよ」


りか「ふふふ」


こわな状況でも笑い合うことが出来るなんて。

この人たちと出会えて良かったな。


井上「じゃあ、そろそろ行きますか」


全員が目と目を合わせて頷いた。

そして、私の「せーの!」を合図に、皆一斉に『ひかる』が引き連れている"Bot"に向かって走り出した。


ひかる(なんだ?一体、何を企んでいる?)


『ひかる』がその答えに気づいたときにはもう手遅れだった。

私たちは"Bot"の体にしがみつき、身動きがとれない状態にすることに成功した。

一括りに"Bot"と言ってもゲームによってプログラムされている内容は全く違う。

けれど、少なくとも私たちはB.A.Nにおける"Bot"の役割を知っている。

"Bot"の役割、それは『目の前のゾンビを倒すこと』である。

効率よくポイントを稼ぐにはこの上ない役割ではあるが、言ってしまえばそれしか出来ないのだ。

つまり、私たち他のプレイヤーの動きには対応が出来ない。

それこそが、"Bot"の弱点であり、私たちが『ひかる』に逆転出来る唯一の突破口だった。

私たちは"Bot"から武器を奪い取ると、ゾンビの群れの中に丸腰の"Bot"を突き飛ばした。

"Bot"たちは直ぐ様ゾンビたちに噛みつかれ、自らも生ける屍へと化していった。

あとはゾンビになった"Bot"を仕留めることで、"Bot"がこれまでに獲得してきたポイントが全て私たちのチームに付与されることになる。

制限時間は残り10分。

ついに、私たちはランキング1位に躍り出たのだった。


ひかる「驚いた。まさか、人間がここまでやるなんて」


井上「ゲーマーなめんなよ!どう?あんたが無駄だと感じた時間にも意味はあったでしょ」


ひかる「ふっ。果たしてどうだろう。現実世界にはゾンビなんていない。私に勝って戻れたとして、また時間を無駄にするだけではないのか?あなたたちは必要ないからBANされたんですよ」


土生「それは君だって同じだろ?」


ひかる「なんですって?」


土生「『ひかる』も天界から必要とされなくなったから、BANされてここに居るんじゃない。私たちと何が違うって言うのよ」


ひかる「うるさい!」


『土生名人』の言葉が『ひかる』の逆鱗に触れた。


ひかる「全員、この世界からもBANしてあげる」


『ひかる』がなにやら合図を送ると、これまでの何倍もの数のゾンビたちが次から次へと地面から現れた。

いくら私たちでもこの数は対処しきれない。


ひかる「最後まで生き残れるかしら?もし、あなたたちがゾンビに噛まれたら、すぐに頭を撃ち抜いてあげる。勝つのは私よ」


いくらチートだと騒いだところで無意味だ。

ここは『ひかる』が創った世界。

彼女がルールなんだから。

私たちは決められたルールの上で戦うしかないんだ。


土生「『いのり』、ありがとう」


井上「え?」


土生「さっきのお返し。私もさ、家に帰ることができたらカップ麺を食べることにするよ」


井上「『土生名人』?」


土生「私がゾンビになったら迷わず撃ってね」


そう言うと、『土生名人』はゾンビの群れに向かって一直線に走り出した。

突然の行動に私はただ叫ぶことしか出来なかった。

その後、『土生名人』は何体かのゾンビを倒したが、襲い来る無数のゾンビに成す術はなく、その中の一体に腕を噛まれてしまった。

その瞬間を『ひかる』は逃さなかった。

『ひかる』のサブマシンガンの照準が『土生名人』の頭を捕らえる。

私は完全に出遅れてしまった。

いや、私に『土生名人』を撃つことなんてそもそも出来やしなかった。

目の前に迫る敗北に私たちは呆然と立ち尽くした。

そんな私たちを嘲笑うかのように『ひかる』は引き金に手を掛ける。


ひかる「私の勝ちね」


『ひかる』が勝利を確信したその時だった。

一発の銃声が鳴り響き、『ひかる』のサブマシンガンを撃ち抜いた。


ひかる「だ、誰!?」


『ひかる』のサブマシンガンを撃ち抜いたのは別行動を取っていたはずの『ぞのれい』だった。


れい「分かりやすいフラグが立ちましたね。あなたの負けです」


『ひかる』の背後から呻き声が聞こえる。

それは、まだ辛うじて人間としての意識が残っている『土生名人』だった。

その体の約8割はゾンビと化していたが、『土生名人』はニヤリとほくそ笑むと、『ひかる』の肩をがっしりと掴み、大きな口で一気に首もとに喰らいついた。


れい「『いのり』さん!今です!」


『ぞのれい』の一声で私の体は瞬時に反応し、照準は『ひかる』の頭を捕らえた。


ひかる「や、やめろおおおおおおお」


私は首を横に振った。


井上「あなたはBANされました」


制限時間終了。

私の目の前には屍となり動かなくなった『ひかる』が横たわっていた。

その表情はどこか満足げだったが、時間と共にゆっくりと消えていった。


~ランキング1位~

『いのり』、『べりさ』、『べりか』チーム


やはり、そこに『土生名人』の名前はなかった。

おそらく、無数にいたゾンビと一緒に消えてしまったのだろう。

今度は標的としてこの世界でさ迷い続けるのか。

『ひかる』が敗北した以上、次のゲームが始まる保証もないけれど。

喜ぶにはあまりにも大きな犠牲を払うことになってしまったが、とにかく私たちは勝ったのだ。



続く。

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