第7話:世界の終わり

ひかるは砂時計からさらさらと流れ落ちる砂を静かに見つめていた。

天界を追放され、地上に墜ちてから10年。

何度、砂時計をひっくり返したことだろう。

ひかるはひどく退屈していた。

観察対象である人間の限界が見えてしまったからだ。

格闘家、軍人、警察官、犯罪者。

ありとあらゆるタイプの人間を連れてきたが、そのほとんどはゾンビとなり、他のプレイヤーに撃ち殺されてしまった。

ひかるは自分を満たしてくれる存在が現れることを期待していたが、この10年もの間、一度たりともB.A.Nから抜け出せた者はいなかった。


ひかるはこの世界の電源を落とし、新しいものを創ろうと考えていた。

そうなれば、この世界に取り残された人間たちは一瞬で消え去ってしまうだろう。

ひかるにとってはただの暇潰しでしかないのだから。


ひかる「そろそろ、終わりにしよう」


サブマシンガンを構えると、ひかるは立ちはだかるゾンビの群れに向かって歩き始めた。

ひかるが一体のゾンビに照準を合わせ、その引き金を引こうとしたそのときだった。

激しい銃声と共に、ひかるの目の前でゾンビの群れが次々と倒されていった。


ひかる「誰だ?」


ひかるは周囲を見渡した。

すると、ゾンビの群れの中に四人の人間が居るのが分かった。


井上「みなさん、まだやれますか?」


りさ「当たり前でしょ!誰に言ってんのよ」


土生「こんな隠しステージみたいな場所があるなんてね。ゲームやってたときは気がつかなかったよ」


井上「『ぞのれい』さんのくれた情報が役に立ちましたね」


りか「いくら倒してもゾンビが次々と湧いてくる…気持ち悪い」


井上「これがランキング1位を取り続けた理由ですね。武器もたくさん転がってますし、ここならポイントがいくらでも稼げますよ」


土生「てことは、あそこに居るのが『ひかる』かな?可愛らしい女の子にしか見えないけど」


井上「そうだと思います。相手は一人です。このままいけば1位狙えますよ」


『いのり』たちの視線は一斉にひかるに向けられた。


ひかる「面白い。ここに辿り着いた人間はあなたたちが初めてよ」


ひかるは天に向かって中指を立てると大声で何かを叫んだ。


りさ「今、何て言ってた?」


井上「ちゃんとは聞こえなかったですけど、"あなたたち"って」


すると、ひかるの周りに四人の人間が集まってきた。

集められた四人はそのまま群れの中に飛び込むと、あっという間にゾンビを一掃していった。


りさ「ちょっと…仲間いるじゃん」


井上「しかも、全員かなり上手いです。これってまずくないですか?」


土生「けど、なんか変じゃない?」


井上「変、ですか?」


土生「四人が四人とも上手すぎるというか、無駄な動きが一つもないというか。なんか、違和感があるんだよね。まるで、人間じゃないみたい」


井上「あの四人も堕天使ってことですか?」


土生「それはないと思うけど、なんか変なんだよ」


井上「人間じゃない…あ、もしかして」


土生「何か分かったの?」


井上「"Bot"ですよ」


"Bot"とは、人工知能により自動的に動くプレイヤーのことで、ゲームの中にも度々登場する存在。


土生「なるほど、"Bot"か。だとすれば、合点がいくね」


井上「私が言うのもなんですけど、ランキング1位を取り続けるなんて、随分と時間を犠牲にしているなって思ってたんですよ。けど、"Bot"ならそんなこと気にする必要ないですもんね」


りさ「そんな…動きに無駄のない"Bot"相手にどうやって勝てばいいのよ」


井上「方法はあります…あまり気分は良くないですけど。危険も伴うし」


土生「話してみて。ここまで来たなら出来ることはやってみようよ」


『いのり』たちは迫り来るゾンビを倒しながら作戦会議を始めた。


土生「よし、それでいこう。みんな、覚悟はいい?」


全員がゆっくりと頷いた。


井上「さあ、反撃開始だ」



続く。

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