ケンランゴウカニ描かれる、愉快で壮大な言葉の物語

とにかく踊り出すような軽快な文章が気持ちよい短編ファンタジーです。

言葉達が独自の進化を遂げて住んでいる世界、主役となるのはそこで生きる蟹達。

え、言葉? 蟹? どういうこと?

タシカニちょっと取っ付きにくい設定かもしれませんが、読んでみればスミヤカニ理解できるでしょう。
おっと、ここにも蟹がヒソカニ隠れていました。
……と、まあ言葉の蟹とはこういうことで、作中では次から次へとそんな蟹達が出てきます。

初めは三匹の旅の蟹。ヤ国という国を目指していた彼らはヤ国出身だという蟹に出会い、ヤ国が滅ぼされたと聞かされます。訳を聞くと、つらつらとヤ国滅亡までの物語が語られる――というのが話の筋です。

カロヤカニかつユウガニ語られる文章は見事としか言いようがありません。新しい蟹が出てくる度に描写のユーモラスさに唸らされました。蟹以外に挟まれるネタもバッチリ決まってて作者様の言語感覚の鋭さに驚くばかりです。

本作の巧みなところはこの素晴らしい文章と物語自体が連動してアザヤカニ作中世界を構築しているところです。愉快げに記述されている中にも、生きるものの悲哀や残酷さがシメヤカニ伝わってくる。その懸命さがあって、言葉遊びでポンポン産み出されるからこそ、キャラクター達、その生き死ににも重層的な味わいが与えられ、短いながらもビリリとくる感覚で読み終えることができました。


さてここで問題です、この文章には今まで何匹の蟹が出てきたでしょう?
正解がわかったら第二問、今度は本編に出てくる蟹の数。
こっちは手強いですよ、多様で芳醇な言葉の世界の広大さに舌を巻くこと請け合いです。
いやきっと、お話が面白くて手が付かなくなると思いますが……何はともあれぜひご一読を!