憎悪は彼方へ

「魔力吸収!」

 目の前の龍に向かい、魔法を発動する。

 右腕に、何か悪い物が入ってくるのが理解できる。右手がうずくなんて、中二病最中な感覚。

「このまま、吸収できるか?」

 感覚では、眼前の龍の情報量なら、吸収できるはず。

「仁君は、ずるいです」

「半日は、目覚めないと思ったけど?」

「魔力のストックです。仁君の魔力、もしものために予備にしてあるのです」

 なつ様の魔力は、予想より速く回復してしまった。

「ん?」

 じっと見つめると、なつ様ははにかむ。

「どこまでが、お兄さんの作戦?」

「はる兄上の考えている事は解らない」

「そうなんだ」

「龍を倒す為なら、何でもするから・・・」

「憎悪?」

「多分そう、半分龍に取り込まれてる」

「怖いね」

「怖い」

 怖いから、何とかしないといけない。右腕に、龍の憎悪を感じる、それ以上広がらないように、一まとめに圧縮する。

「大丈夫?」

「そう見える?」

「見えない・・・」

 右上は、真っ黒に変色しています。龍の気配は、薄くなり消えそうですが、右腕は真っ黒になり何か染み出ています。

「この後、どうするの?」

「一応、考えはある」

 とりあえず、この場を凌げれば良い。

「自爆とか、自己犠牲は駄目だよ、許さないから」

「それは無い。まだ死ねない」

「生きて帰ったら、えっちする?」

「それも良いけど、すぐは無理だね」

「むーーー」

「色々と、作ってから出ないと」

「何を?」

「監視されない場所とか、盗聴されていない場所とか、安心して二人っきりに慣れる場所」

「今更?」

「気になるんだけど?}

 常に、僕達は監視されていた。てっきりシスコンだと思っていた人は、平気で妹を使い捨てる人物だった。

「監視しているのは、お父様。あの人に隠し事なんて無理なんです・・・」

「溺愛されているの?」

「はる兄上様、下手したら明日の朝日が拝めないほどに・・・」

 勝手に動いた結果、なつ様を危険にさらした。外で待ち受けているのは、証拠隠滅のためか、信頼されているのか、判断に悩みます。

「はる兄上の計画だと、龍も小型で加速砲で充分倒せるはずだったんです」

「なつ様が、無理だとおもうほど、龍が大きかったの?」

「計算外は、仁君です。転生者だけど、何度も死んでいるの?」

「解る?」

「解った。さっき、記憶が少し繋がった。仁君の過去に引き寄せられた憎悪がいた」

「記憶は少ないけど、色々やらかしたみたいだし。それもあるのか」

 色々な人格が混ざっている。統一しないと、危険かもしれない。

「僕の名前は?」

「仙石仁君」

「ありがとう」

 なつ様に、そう呼んでもらえて、自分が仁という存在だと強く認識できる。

「今は、まだ倒せない、滅ぼせない」

 右腕に、龍は吸い込まれた。それを、圧縮する。

「チャウス、もう一台作るのに時間かかる?」

「予備の部品があるけど、一月は必要」

「魔力供給するから、前倒しに出来る?」

「頑張れば2週間」

「なら、その後まで我慢しよう」

「むーーー」

「つらい事、頼んで良い?」

「仁君の頼みなら」

「なら、お願い」

 それを言うと、なつ様は嫌な顔をする。

「恨みます」

「その恨みも、いつか晴らす方法を考える事にする」

「一緒にいれば、晴れますよ」

「・・・」

「仁君?」

 なつ様の一言。それは、何か大切な事に思えた。

「わかった、一緒に」

 色々と考えよう。

「これで良いですか?」

「ありがとう・・・」

 右腕が痛みます。

「無理をし過ぎです」

「この世界、義手の技術が進んでいて良かった」

「私が、責任を持って作ります」

「ありが・・とぅ」

「無理しない」

 なつ様に頼んで、右腕を切断しました。チャウスの整備のために、色々な道具は積んであります。それを使って、閉じ込めた龍ごと、切り離しました。

「医療キッド、積んでなかったのは失敗です」

「次は、準備しないとっね」

「はい」

 身体強化魔法で、止血して痛みを和らげます。

「出来そう?」

「準備は出来ました」

「迷宮を解除」

「らじゃー」

 迷宮が消えます。外に戻ると、多くの兵士に囲まれています。

「方角は?」

「ばっちりです」

「お願い」

「今までありがとう、メモリーは回収したから、次の体ができるまで、我慢してね」

 外部操作で、チャウスは加速する。ホバー機能で、上昇。加速魔法の重ねがけで、あっという間に大気圏を突破。核攻撃を耐え切る装甲は、問題なく大気圏を突破して宇宙の彼方へと消えていく。

 宇宙の果てまで行くのか、どこかに星の消えるのか、誰も知らない。

 運が悪いと、生命体のいる惑星に衝突する可能性もあるけど、そこまで責任は正直取れない。

 今を生延びられれば、それで良い。

「無事でよかった」

「無事では在りません。義手の製作費用は、はる兄上様に請求します」

「それくらいは、支払おう」

 僕の腕を見ながら、そういいます。この後、請求された金額を見て、この人は後悔します。

 無尽蔵に吸収できる、僕の魔力を使ったなつ様は、それを経費に計上しました。

 EQに換算して、金額を計算したので、億超えています。

 結果、家に借金という形になり、色々と肩身の狭い思いをしているみたいです。

 ただ、自業自得と反省し、色々と協力してくれます。

 監視が減ったのも、ありがたいです。裏で、お兄さんが色々と手を回してくれたみたいです。

 義手ができ、チャウス2号機が完成しました。義手の技術は進んでいて、ちゃんと感触も確認できます。

 強弱の加減が、色々と難しい時もあるので、訓練は必要です。

「訓練?」

「訓練です」

「にへへ」

 何処でどんな訓練をしたのかは、ご想像にお任せします。


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ブーストサマー 水室二人 @za4kiwalasi

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