憎悪と龍

 その一撃は、星をも砕く。

 仮想空間で行った、加速砲のデータを見て、研究員は言いました。

 その研究員は、今回のテストに参加しています。敵対してしまいましたけど、こちらに対して備えが無いはずがありません。

「リフレクト!」

 こちらの攻撃を、反射する魔法を唱えたみたいです。

「無駄です・・・」

 悲しそうな、なつ様の声。反射の魔法、全ての攻撃を無条件で全て反射できるものではありません。

 威力が強い場合は、押し切れます。

「絶対防御!」

 戦闘強化装甲から、防御魔法が発動されました。

 発動された魔法は、加速砲を受け止めます。

「な、なんのぉぉぉおおおっ!」

 しかし、受け止めきれず、魔法陣が削られていきます。

 覚悟を決めて、放った一撃。受け止めた余波に、周囲の人が巻き込まれて砕け散りました。

 リフレクトで抵抗した分、苦しむ結果になりました。

 彼等の死ぬ間際は、痛みと苦しみと憎しみの顔をしていた。

「絶対防御が、こんなはずでは・・・。ぐぎゃあぁぁあ!」

 加速砲を受け止めていた機体は、受け止めれずに、爆発しました。加速砲、これも特殊な弾丸を使用しているので、目標を破壊したらそこで攻撃は終わります。

 この短時間でなつ様は、的になった存在の情報を集めてくれました。

 彼らは、プレイヤーの親兄弟です。そして、その家族はみな死んでいます。

 最初の、護衛候補だった子の親もいました。ヤマノ重工の関係者で、将来を期待されていた子供たち。

 それが、死んでしまい、その原因が山野家の一族にあると聞かされていたみたいです。

 プレイヤーは、世間的には英雄です。様々な戦果を挙げ、子供の将来に夢見を見ます。夢破れて、行き場の無くなった諸々の矛先を、こちらに向けたのです。

 色々と、言いたい事はあったでしょう。

 こちらも、色々と言いたかったです。

 殺されるつもりはありません。殺すつもりは無かったです。

 でも、結局こうなりました。これで僕も、殺人者。

 この世界の法律的には、罰せられる事は無いでしょう。でも、色々と考えてしまいます。

「仁君は、色々と考えすぎです」

「そう言われてもね・・・」

「前世は前世と、割り切るのです。生き残る為に、必要な事ですよ」

「割り切っているつもりですけど?」

「だったら、私に手を出しても良いですよ?」

「それは、まだ早い・・・事も無いのですか?」

「お互いが、好きならもう少し進展しても良いですよ?」

「・・・」

「私の事、嫌いですか?」

「そんな事無い。好きですよ」

「なら、もう少し行動で示すです。手遅れになる前に・・・」

「もしかして、危険な状況?」

「残念です、龍が出現します」

 目の前に空間が、歪みました。

 何かを、吸い込んでいます。

 それは、怨念。

 死者の魂。

 これを、僕は知っている。

「星喰い・・・」

「はい、その尖兵です」

「また、これが僕を殺すのか・・・」

 這い拠ってくる絶望。これは、記憶にあります。

 前世だけでなく、その前も、その前も、これに殺された気がします。

 その後、集合無意識の中で、ゆらゆらと彷徨っていた記憶が蘇ります。

 あの場所は、穏やかで素敵な場所でした。

 今、生きている時に感じるものとはちがう、別次元の安らぎがありました。

 今の人生、捨てたものではないですが、これにまた殺されるのはごめんです。

 集合無意識の中も、捨てがたいですが、捨てられない存在が、すぐ側にいます。

 足掻く必要があります。

「なつ様、加速砲使える?」

「可能ですが、効果は望めません」

「理由は?」

「龍は、特殊な攻撃しか受け付けません。加速砲は、威力が不足しています」

「それは、山野家の見解?」

「はる兄上様は、特殊な火炎魔法の使い手です。最低でも、あの火力が必要です」

「試しても良い?」

「・・・」

 なつ様は何も言わないけど、加速砲を発射する。通常よりも、加速魔法を重ねがけして威力を上げる。

 光速に限りなく近いのでは?とおもう速さになりましたが、弾かれました。

 龍は、少し怯みましたが、大きなダメージは無いみたいです。

「さて、どうしたものか・・・」

 追いついめられています。打つ手が無いならどうするべきか?

 勝てない相手を目の前にして、出来る事は一つあります。

「あれから、逃げ切れるとおもう?」

「迷宮を脱出するのは、難しいと思います」

「あれを残して、迷宮を消滅させれば、一緒に消えるかな?」

「龍が出現した時点で、迷宮の崩壊は始まっています。迷宮が消えれば、龍が外の世界の解き放たれるだけです」

「そう、都合よくはいかないか・・・」

「外に出れば、はる兄上様がいます」

「救援の為?」

「私達諸共、焼きはらう為です」

「・・・」

「そう言う、計画です。ここで龍を倒せないと、私達に明日はありません」

「何か、手段があるの?」

「龍は、憎悪の化身です。精神生命体ともいえます」

「魔力吸収で、吸収できるの?」

「わからない・・・。でも、やるしかない」

「魔力は足りる?」

「補充しても良い?」

「直接なら、良いよ」

 そう言うと、なつ様がチャウスから出てきます。龍は、こちらを見て動きません。

 もしかしたら、加速砲の影響で動けないのかも知れません。

「仁君」

 なつ様は、ヘルメットを取ります。僕も同じ行動でした。お互い、直接確認します。

 もしかしたら、という気持ちがあります。

 これで、お別れになるかも。

 過去、繰り返された蹂躙劇。

 そのほとんどが、何も出来ないまま、死にました。

「んっ!」

 どちらが先か、同じタイミングだったのか、唇が重なります。

 そして、なつ様の魔法が発動。

 それと同時に、僕の魔法が発動。何度も、吸収されていたので、魔法吸収の原理は理解できています。

 もしものために、研究していました。それが今、役に立ちました。

 自分に発動しても、練習になるみたいで、一度に吸収できる量は自分の最大魔力までです。

 なつ様は、仮想空間に保管できるみたいですが、僕は出来ません。それでも、なつ様の魔力を0にする事は出来ます。

 お互い、魔力が尽きて気絶します。ただ、僕の方が回復早いので、すぐに意識を取り戻します。

 気絶して倒れたなつ様を、ぎゅっと抱きしめます。

「魔力吸収!」

 抱きしめながら、龍を吸い込みます。ここからが、大事な場面です。

 みてもらえないのが残念ですが、ここからが正念場。もう一度、なつ様の笑顔を見るために、頑張ります。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る