『動物たちは小説家になる夢をみるか』

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『動物たちは小説家になる夢をみるか』

 今現在、我々のサークルの中でもっとも書籍化に近い位置にいるのはやはりライオンであろうか。


 カクヨム上で『転生したらライオンになっていた件』というタイトルの作品を連載しているライオンは、彼女独自の人生経験があるからこそ書ける緻密でリアルな野生描写と、圧倒的な文章力を持って年間ランキング一位の座を不動のものとしている。


 直接訊いたわけではないが、どうやらすでに複数の出版社から声をかけて貰っているようだ。


 ライオンは言う。


「キミは狩りの極意を知っているかね? 獲物の味やサバンナにただよう匂いは? 小説を書くライオンがわたし一人しかいない現状においては、それはひとつの立派な武器となるのだよ」


 次点はオウムだろうか。


 彼はぞくにいうテンプレ要素をふんだんに盛り込んだ作品を連載している。ライオンのような文章力はないが、期待を裏切らないストーリー展開と構成の巧みさが読者をきつけているようだ。


 獲得した読者が離れないようにと毎日の更新も欠かさない。


 まだ文字数は少ないが徐々に好評をはくしてきているようで、先立って行われたコンテストにおいても、オウムの作品は最終選考まで残っている。


 オウムは言う。


「結局は読者がなにを求めているかが大事なんです。他の作品から読者が喜ぶ要素や展開を見極め、自分の作品に取り入れる。そうすればおのずと人気を得ることができるんですよ」


 反面、もっとも読まれていないのはヒトである私の作品だ。


 ジャンルを問わず何作も投稿しているのだが、もっとも多いPV数でわずかに100を超える程度。現在カクヨムで行われている短編企画においても、投稿した作品の平均PV数は5.5pvというのが現状だ。


 もちろん圧倒的な才能があればいつかを見ることも可能だろう。だが、今の私には自信を持ってそれがあるとは到底言えない。


 では、いったいどうすれば良いのだろうか。どうすればもっと作品を読んでもらえるのだろうか。


 いや、本当はわかっている。内容はもちろんのこと、例えばタイトルを流行りのものに変えるなどして読者を惹きつける努力をするべきなのだ。


 だが、内容だけで勝負したいというおごりにも似たプライドが邪魔をしてそれをすることができていない。


 その点で言えば、カラスは実にかろやかなフットワークの持ち主だった。


 初めカラスは、いじめられっ子だった主人公が超常の能力を得ていじめっ子たちに復讐をするという物語を『漆黒の大罪人』というタイトルで連載していた。


 しかし結果はかんばしくなかった。評価をもらえることはあったが、pv数は上がらない。


 そこでカラスはランキング上位の作品の傾向を分析し、どういった作品が読者に好まれているのかをさぐっていった。


 その結果、彼は作品を『元いじめられっ子でカラスに変身できる能力を手に入れた俺は最強になり虐めてきた奴らにざまぁします』というタイトルに改題。


 最近では月間ランキング上位に食い込むほどの勢いを得ている。


 カラスは言う。


「俺は小説家になれるんだったらなんでもやってやるよ。たかがタイトルにこだわって埋もれていくのなんてゴメンだからな」


 良く言えば臨機応変な思考であり、悪く言えばドライな思考。それが人気を得るために必要なことだとわかってはいるが、やはり変なプライドが邪魔をして私にはできそうもない。


 とすると、やはり私が参考にすべきなのはネコなのかもしれない。


 ネコはありとあらゆるツールを通じて読者との交流、宣伝を行っている。可憐かれんな容姿でネットアイドルとしても名をせているネコが、ひとたび作品の宣伝を行えば、それは瞬く間にネットの海に拡散される。


 読んでくれたファンからより良い作品となるようにとアドバイスを貰っているほどだ。


 ネコは言う。


「まず読まれることが大事なの。たとえ中身が名作となりうる力作だったとしても、誰にも読まれなければ駄作と変わらないんだよ」


 なんとも耳が痛い言葉である。私は自分の作品が面白いと信じているが、それはやはり手前味噌でしかない。結果を伴わない自己評価などただの過信でしかないのだ。


 考えてみると、ライオンもオウムもカラスもネコも……動機がなんであれ、彼らはみな読者を第一に考えているではないか。


 作品が読まれるために、読者に歩み寄る努力をしているのだ。


 そんな肝心なことをヒトである私は放棄している。彼らのように読者に歩み寄ろうとするのではなく、読者から歩み寄ってもらえるのをいつまでも待っている。


 いったい私に彼らをうらやむ資格はあるだろうか。いや、あるはずがないのだ。


 ゆえに、さしあたって私が取り入れるべきなのは、彼らのような読者ファーストな思考なのかもしれない。


 おごりやエゴを封じ、読者の求める作品を書いていく……。


 もっとも、だからといって読者に受けるようになるとも限らない。


 結局のところ、全ては運なのだ。


 書籍化という六の目が出るまで延々と振り続けるサイコロのようなもの。


 違いがあるとすれば、振るサイコロの目。


 私のように普通のサイコロを延々と振り続けるか、彼らのように他の目も六の目に変える努力をするか。


 もちろん、どちらが早く六の目が出る確率が高いのかは決まりきっていた。



(完)

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