自信が持てない小説を応援してくれる、たくさんの読者と仲間たちへ

無月弟(無月蒼)

自信が持てない小説を応援してくれる、たくさんの読者と仲間たちへ

 四時間目授業の終わりを告げるチャイムが鳴って、昼休み。

 だけど昼食をとる前に、私はスマホを確認をし始める。


 席についたままスマホを手にして、授業中に更新された情報を、次々と確認していく。

 メールをチェックして、Twitterに目を通して。次に画面を開いたのが、愛用している小説投稿サイト、カクヨム。

 そこで運営からのお知らせを見た瞬間、目を見開いた。


『コンテスト 中間選考結果発表』


 発表来たー!


 それは数カ月前に行われた、長編小説コンテスト。

 私は小説仲間達と一緒に、これに参加していた。


 まだ中間発表。これに残っていたからと言って、受賞はまだまだ先の話。だけどそうと分かっていても、興奮は抑えきれない。

 ドキドキを押さえながら震える指で画面をタップしていくと、受賞者の名前がズラリ。上から目を通していくと、知っている名前がちらほら並んでいた。


 あ、あの人の恋愛小説、通過してる。そうだよね、読んでいて何度も、キュンキュンさせられたもの。これで通過していなかったら、審査員の神経を疑うよ。

 おお、あの人のSFも、ちゃんと通ってる。おめでとうございまーす!


 夢中になって読んでいた、素敵な小説たち。続きが気になって更新を心待ちにして、コメント欄に何度も応援の言葉を残していたっけ。

 そうした推し作品達が通過していると、まるで自分の事みたいに嬉しい。皆さん本当におめでとう!


 だけどほくほくとした笑顔が焦りに変わるまで、そう時間は掛からなかった。

 画面をスライドしていっても、なかなか出てこないのだ。私の作品が。


 落ちちゃったのかな? いや、でも星やコメントを見ても、反応は上々だったはず。きっと大丈夫……だよね?


 自分にそう言い聞かせるも、同時にそれらが何の気休めにもならない事も、ちゃんと分ってしまっている。

 カクヨムのコンテストの中には、読者人気が高いと中間選考を突破できるものもあるけれど。今回のコンテストは、その限りではない。

 審査員が全ての作品に目を通して、内容を見て評価するもの。どれだけ星やPVを稼いでいようと、関係無いのだ。


 通過していてほしい。通過してなきゃ嫌だ。そんな思いを抱いて、食い入るように画面をスライドさせていったけど。

 ページの一番下までいっても、私の作品は見つからなかった。


 そっか。落ちちゃったんだ……。


 急に胸の中が、凍り付いたように冷たくなっていく。

 ヤバ、なんか涙が出そう。ここ学校なのに、泣くなんてみっともないのに。


「美香ー。お弁当食べよー」


 不意に後ろから、声をかけてきたのは、クラスメイトのリカ。私は慌ててスマホをスカートのポケットにしまうと、勢い良く立ち上がった。


「ごめん、ちょっとお腹の調子が悪くて。トイレ行ってくるね」


 返事も聞かずに、一目散に教室を飛び出して行く。

 恥ずかしい言い訳だったけど、今の泣きそうな顔を見られるよりはマシだった。

 

 自信があったわけじゃない。記念受験みたいなつもりで参加したはずのコンテストだったけど、やっぱり心のどこかで少しは期待していたみたいで。

 なのに中間選考にも残らなかったのは、自分でも驚くくらい、ショックだったみたい。


 結局私は昼休みの間中、気持ちを落ち着かせるためにトイレに籠りっきり。

 もちろんお昼なんて食べ損ねてしまったけど、それよりもショックの方が大きくて。午後の授業を受けている間も、お腹は全く空かなかった。



 ◇◆◇◆



『中間選考に残った皆さん、おめでとうございます! 私は残念な結果に終わってしまいましたけど、推し作品が受賞できるよう、応援しています!』


 カクヨムの近況ノートに書いた、お祝いの言葉。

 この言葉に偽りは無い。好きな作品が残ってくれたのは嬉しいし、私の分まで頑張ってほしいって思う。だけど同時に思うのは。


「ああーっ、もう! いったい何がいけなかったかなー!」


 学校から帰っ来てた私は、自分の部屋で声を上げながらベッドにダイブして、枕に顔を埋める。

 文章か? キャラクターか? ストーリーか⁉ 何がダメだったって言うんだー!


 手足をバタつかせながら、自分の作品の悪い所をふり返ってみる。

 だけど本当は何となく、理由は想像ついていた。


 中間選考を突破した小説にあって、私の小説に無いもの。そんなの結果を見た時から……ううん、もっとずっと前。募集期間中に色んな作品を読んでいた時から、答は分かっていた。

 私の作品には、『魅力』が無いのだ。


 カクヨムを読んでいると、続きが気になる、この話大好きって思える小説が、山のようにある。

 書いている人のほとんどはプロではないアマチュア作家。だけどどの小説も、唯一無二の魅力を持っている。


 それに比べて、私の小説はどうだろうか。

 面白く書いたつもりではある。頂くコメントを見ると、つまらないってことは無いのだと思う。

 だけどさあ、他の作者の素敵な小説たちを読んでいると、どうしても痛感しちゃうの。私の小説には、他者を惹きつけてやまない魅力なんてものは、皆無だって言うことを。


 カクヨムに来てから、たくさんの小説仲間ができたけど。その人達の読んでいると、実力の差を見せつけられているような気がして、毎日打ちのめされている。

 どうして私にはこんな素敵な話が書けないのだろうと落ち込んだ回数は、数えきれない。


 もちろん小説を読むのは楽しいんだけどね。それはそれとして、私は皆さんみたいに、魅力のある話が書けてないなってだけの話よ。


「もういっそのこと、書くの止めちゃおうかなあ」


 書くのを止めたら変に悩むことも無くなるから、今よりも読むを楽しむことができるんじゃないの?

 長編コンテストという大きなイベントは終わった事だし、これを機に書くのは卒業して、読み専になっちゃえば。そんな思いが広がっていく……。


Reeeeee! Reeeeee!

[ひゃう⁉」


 手にしていたスマホが、突然鳴り出した。

 いや、スマホは得てして、前触れなく突然鳴り出すものなんだけどね。


 画面を見ると通話着信がきていて。リカの名前が表示されていた。

 私は寝そべったまま、通話をタップする。


「もしもし、リカー。どうしたのー?」

『ちょっとね。美香、昼から調子が悪そうだったから、ちょっと気になって。もしかして中間選考のこと、気にしてる?』


 げ、バレてる!

 実はリカもカクヨムユーザー。中間選考の発表があって私が落ちていることも、もう分かっているみたい。

 違うって言おうかとも思ったけど、きっとそんな嘘はすぐにバレてしまうから。平気だってアピールすべく、わざと明るい声で答える。


「うん、ちょっとね。でも気にしないで。落ちるのには慣れてるから」

『そんな事を明るい声で言われてもねえ。結果は残念だったけどさ、あたしは美香が書く小説、好きだよ』

「ありがとう。でも、本当に気をつかわなくてもいいから。私の書く小説には魅力がないって、自分でも分かってるし」

『は? どういうことよ』


 リカの声が険しくなる。

 私は自分の小説には、仲間たちの小説にあるような惹きつける力がないこと。もう止めてしまおうかって考えていることを、リカに告げた。

 リカは黙っていたけど、全てを聞き終えた後に一言。


『バカじゃないの!』


 鼓膜を攻撃するかのような大きな声に、思わず耳を押さえる。

 だけどリカは怒ったような口調で、さらに続けてきた。


『落ち込む気持ちは分かるけどさあ、言っていい事と悪い事があるよ。魅力がない? アンタの小説をフォローして、更新する度に読んでくれた読者が何人いると思ってるの? その人達みんな、魅力の無い小説を読むのに時間を割いていたって言いたいわけ? そんな暇じゃないわボケー!』

「ううっ。で、でも私の書くものなんて、他の人の小説に比べたらぜんぜん大したこと無いし」

『アンタが推している作家の中にも、同じ事を思ってる人はいるんじゃないの。自分の作品を客観的に見るのなんて、難しいしね。面白い作品を書いてるのに自分ではダメダメだって思っている人もいれば、信じられないくらいつまらない小説しか書かないくせに、自分の書くものは面白くて他の人のはつまらないなんて言うアホもいる。アンタがいるのは、そう言う世界でしょ』


 ずいぶんな言い方だなあ。


『落ち込むのは仕方がない。読み専になるって言うもの、別に止めはしないよ。けどね、自分の書いたものを卑下しすぎるのは、読んでくれた人達に失礼だから。その辺ちゃんと、理解しなさいよね』


 ガツンと頭を殴られたような気がした。

 通話をそのままに、カクヨムのコメント欄のページを開くと、そこにはたくさんのメッセージが並んでいる。


 このキャラクターが好き。この展開は面白い。

 貰った時に思わず、「ありがとうございます」って声を漏らした、素敵なコメントの数々。

 この温かい言葉たちは、単なる社交辞令? ううん、さっきリカが言っていたように、読んでくれた人達だって、駄作に時間を割くほど暇じゃないんだ。

 なのに私が小説を否定しちゃったら、応援してくれた人達に失礼だよね。


「ごめんリカ。ちょっと言いすぎちゃってた」

『分かればよろしい。誰かに読まれた小説はもう、アンタだけのものじゃないんだから、簡単に魅力がないとか、つまらないとか言っちゃダメだよ』


 うん……うん。リカの言う通りだ。

 もしも私が大好きな小説の作者さんが同じことを言ったら、きっと凄くショックな気持ちになるだろう。


 小説を読んでくれる読者の皆さん、支えてくれる仲間たちの気持ちを踏みにじるような事を、しちゃいけないよね。


「ありがとね。私、やっぱりもうちょっと書くのを続けてみる。自信が持てる話が書けるかどうかは、分からないけど」

『了解。完成したら、読ませてもらうからね』


 スマホ越しに聞こえてくる明るい声を聞いて、私はようやく少しだけ、笑うことができた。



 応援してくれる読者がいる。支えてくれる小説仲間達がいる。だから私はまた、小説を書き続けられる。

 みんな本当に、ありがとう!

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