第8話 爆雷の天使③
爆雷攻撃とは本来は空軍機が潜水艦を狙って爆弾を投下するものだ。
ハル隊員の「爆雷」を正確に言うと「対巨大生物素粒子爆雷」となる。
彼女の念動力によって空気中の素粒子を高速移動させ発生した電雷とニュートリノが対象を完全消滅させるコスパの良い攻撃だ。
異世界の生命体が未知のウイルスなどを持っている場合もあり感染症予防の観点から彼女の出番は多い。
天空から優雅に微笑みながら手を振りカメラを充分に意識しながら撮れ高を配慮しつつ降りてくる。
フワリと着地してバレリーナの様にポーズを決めて警固公園の観衆の拍手にこたえた。
モスグリーンのスリムなジャンプスーツが妖艶、そしてレモンイエローのマントが爽やかである。
THUNDERBOLT ATTACK PRINCESSの帰還だ。
「どげんやった?今日の爆雷は?」とハルは強い訛りで言う。
ヒメナは「音が少し控え目だったな」と未だ鹵獲生体に入ったままで発声した。
ハルは少し意味有りげな笑みを浮かべて「ありがと。におうとるやん、そのカラダ...」と返した。
ヒメナはイラッとして本体に戻る準備にかかる。
戦闘せずに今の状態でいると鹵獲体の脳内記憶が流れこんで来てイヤなのだ。男性体の記憶など吐き気を催す邪悪なものばかりだと偏見を持っていた。
新天町の老舗喫茶からコーヒーのデリバリーサービスが届く。
「愛宕乃宮様に市長から差し入れで御座います」
蝶ネクタイのボーイが恭しく御辞儀をして微笑んだ。
「あらっ早かねー、ほんなこつ嬉しか〜」とキリマンジャロの薫りに目を細めシルクの様な長い髪を素速くポニーテールにして珈琲を嗜む体制のハル隊員。
その様子に「チッ!」と舌打ちして「おい!伊都嶋!!隠すな!!私の本体出せ!!」と怒鳴るヒメナ。
少し離れて二人を視ていたリミナ隊員はニヤニヤしながらポケットから緊急避難シェルターボールを取り出して投げて寄越した。
ポンッと音がして半透明のカプセルに入ったヒメナ局長の本体が現れゴロンと公園の芝生に転がる。
「おいいッ!!!」
流石に怒って大声がでる。
リミナはニヤニヤしながらフワリと飛翔してハルの背後に隠れる。
「こわ~い!ハル先輩助けて〜!」と甘えた声で擦り寄る。
「怖いねー!オトコの身体に入ってるから尚更だねーハハハ...」
とハル。
絶対に我がチームの綱紀粛正をしてやると堅い決意をしながらヒメナは自分自身の身体に還る準備に入った。
警固公園に人が戻り始めたが気にはしない。すぐ済むからだ。
柔らかいカプセルの上から頭部に右手を載せる。
「さんのーがーはいっ!」
と軽く叫ぶ。
リセット完了である。
異世界ビギナーズの契約そして転生管理委員会の陰謀。 棚架のぶ @nob-san
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