第7話 爆雷の天使➁

 EDO (地球防衛機構) は 21世紀の初めに突如その驚異的な超科学力によって総ての国際機関の上位に立った。

 先ず「悪魔の脳細胞」と呼ばれた天才科学者「ジョン・フォン・ノイマン」の頭脳を完璧にコピーしたAIが24時間フル稼働して全ての国家のメインコンピューターに侵入し汎ゆる科学的難問、政治課題を解決する。

 そして世界中のVIPの資産が差し押さえられプライベートが把握された。誰も逆らえなくなったのだ。

 大量殺戮兵器も吹き矢も人命を奪う機器は根刮ぎ『EDO』の管理下に置かれた。

 人類社会に真の平和が訪れたのだ。

 しかし、それは1週間だけの安息だった。

 複数の異世界から侵略が始まったのだ。

 それを待ち構えたかのようにEDOの防衛プログラムが起動し砂漠に埋もれていた巨大な軍事施設が各地でその威容を地上に現すや否や無人飛行機、無人戦車などが稼働を開始し陸空海全域で戦闘状態へと雪崩込む。

 異世界大戦の勃発である。

 それから二十年以上が経ったが戦いは終わらない。

 それがセカイの現状だ。


「姫奈局長!!トンビに唐揚げ攫われましたね!!」

 リミナが言った。

「油揚げだ!!バカチンが!」

 ヒメナが返した。

 局長としては面目丸潰れだが仕方がない事だ。

 手柄は早い物勝ち。それがルールである。

 愛宕乃宮 ハル隊員が出動して来たのだ。気配を消しての高速移動は彼女の得意技である。

 天空のスコラスティカの渾名を持つ帰国子女。

 雷を防ぐ聖人に由来する二つ名だが攻撃方法は全くの逆だ。

「猫を地下街に避難させろ〜!!!」

 天神地区の保護猫ボランティアの有志の皆さんが巨大猫の耳に大きな柔らかい耳栓をネジ込みながら叫ぶ。

 先月の市街地での戦いで多くの難聴被害が報告されているがハルは反省していない。爆雷攻撃に拘っているのだ。またヤル気だ。

 天空に金色とエメラルドグリーンの十字架が光った。

 それは回転運動を開始し徐々に其の速度を速めていく。街中に微かな甲高いギター・ソロの様な金属音が充ちる。

 更に上空から凶暴な肉食獣の吠える様な大きな音が聴こえたと同時に巨大なカササギに似た異世界獣が現れた。

 光の十字架に気付いたのか不機嫌そうに更に大きく吠えた。

「始まるぞ!アップで撮っておけよ」ヒメナが言う。

「マルチアングル拡大撮影システム起動しまぁすっ!」

 リミナが応えた。

 彼女がポチッとスマホの画面で操作完了すると同時に其れを待っていたかの様に光の十字架は回転を止めた。

 光の中心にアルカイックスマイルを浮かべる愛宕之宮隊員がいる。それは全世界生配信を意識しての微笑みだ。

「やってんな〜....」

 ヒメナとリミナは同時に呟いた。

 次の瞬間ゴロゴロと低い雷の音が聴こえ始める。

 そして天空が裂ける程の爆発音と伴に光の十字全体から真っ白い光が放たれた。

 そして巨大な猛禽類型モンスターは吼える時間も与えられず光に掻き消される様に消滅する。

 このセカイに塵ひとつ残す事は無かった。


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