第6話 爆雷の天使 ①

 御笠野 姫奈は昂ぶっていた。久々の実戦である。

 シミレーション・ルームでの戦闘訓練に飽き飽きしていたところだったので尚更である。

 今回は隣接界の生体をハッキングしたので早速使用する事にした。鹵獲品は早目に消費するのが良い。

 問題は本体の保守管理だ。部下はあまり信用できない。伊都嶋隊員は優秀だが何故かタメ口で話すし独断専行で危険を顧みない。そして今...

「綺麗な髪だわ~、ヒメナ〜」などと囁やきながら

 上司である姫奈の身体をなでまわしている。

「おい!やめんか!」

 姫奈の本体は立ったまま仮眠状態だ。

 二人は謂わば腐れ縁の関係である。同じ処から同時に転移してきたのでジャレ合い状態に時々なってしまう。本気で怒れない。

「やれやれ、おい!そろそろ戦闘態勢に入るぞ!」

 男性の身体での発声だが何時ものヒメナの声である。声帯をイジったのだ。勿論他にもイジっている。

「ウフフ、かーわいいっ!」と伊都嶋隊員は微笑みながらスマホを素早く操作し「撮影班ドローン20機、すでに準備完了でぇ〜す」と可愛く報告し敬礼した。


 地球上の全ての戦闘には映像化の義務がある。EDOの決めた厳しいルールだ。違反者には減点処分が下される。此の世は総てポイント次第だ。どこのセカイも同じであろう。戦闘の詳細と勝利の瞬間を全国民に鑑賞してもらいポイントを稼ぐのだ。だから可能な限り派手に演るべきである。

 姫奈の部隊は優秀で順調にポイントを積み上げていたがEDO軍本部に認められる為には更に相当の数の良質な戦闘場面が必要だ。

 いつか軍本部と合同演習もしたいと姫奈は目論んでいる。今回の相手は何時もの猛禽類型生物兵器と推測される。戦乙女の黒い瞳に闘志が漲った。


「抜刀隊局長、御笠野 姫奈、見参!!」と叫ぶと少し厚底の靴に仕込まれた飛行システムが起動した。微かな羽音。姫奈が乗っ取った生体がふわり浮かび上がった。

 その時、腰に差していた日本刀の柄から合成音声の連絡が聴こえた。

「緊急!緊急!爆雷警報!」

 ほぼ同時にサイレンが天神の街に鳴り響く。

「チッ!!アイツがまた来たか!」

 そう言って姫奈は唇を噛んだ。









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