三年生零学期
朝田さやか
三年生零学期
肌寒い風が私の頬を撫でて、耳にかけていた髪が静かに落ちた。座っていた椅子の背もたれに掛けていたブレザーを手に取って立ち上がった。
日光が差し込まなくなると、勉強机の照明の存在感が強くなる。机上の時計が小さな音を立てて、短針が六の文字盤に重なった。右手に力を込めて小窓のハンドルを回すと耳障りな音とともに風の吹き込む隙間が無くなった。
再び椅子に腰を下ろすと、欄内が真っ白な用紙が視界に侵入してきた。「志望校」「志望学部・学科」「将来就きたい職業」。外の闇が深さを増すにつれて、白いはずの紙も暗く染まっていた。
帰宅してすぐにこの忌々しい紙と対面してからボールペンを握る右手が重かった。まるで地球にかかる全ての重力が一点に集まっているかのようだった。
「はぁ」
最初は数えていたため息の回数も、いつの間にか何回目になるのか分からなくなっていた。本来の役割をなさないボールペンが指に操られてくるくると回る。
ただ紙を眺めるだけの虚無な時間はいつまで続くのだろう。凝視するだけで文字が埋まっていってくれたらいいのに。眉間に寄る皺が段々と深くなっていく。私の目力によって紙にはもうすぐ穴を空けられそうだった。
どれくらいの時間にらめっこをしていただろう。暴走したボールペンが机上に落ちた音が嫌に響いて、反射的に口元が歪んだ。にらめっこは私の負けだ。勝機の見えない不毛な戦いが馬鹿馬鹿しくなって椅子から立ち上がった。
「痛っ」
その拍子にスタンドライトに頭をぶつけ、鈍い音がした。足先まで伝わる電流のような痛みを受けて、機能停止寸前だった頭が動き出した。さっきよりも世界がクリアに見え始めた。
左手で頭を押さえながらキッチンのある階下へ向かう。階段を踏みしめる音が以前よりも重く辺りを包んだ。お腹付近に手を添えると確かに弾力を感じた。
絶望するが、これからも自分の欲望には打ち勝てそうもない。洗面所に置かれている体重計が寂しそうに埃をかぶっている風景がありありと目に浮かんだ。
観念してプリーツスカートのホックを一つ緩める。日頃の堕落の結果に気を取られていると、いつの間にか頭の痛みは消えていた。
一階は電気もついておらず、暗くて静まり返っていた。ノールックでキッチンの電気のスイッチを押すと、仕切りのされていないリビングまで光が届いて明るい。
食卓に放置されたお皿の上に残ったパンくず。そばにあるマグカップの中は牛乳が膜を張っていて、くるくると傾けると破れて中央に集まった。
それらの食器たちをシンクに持っていく。洗おうとして出した水の飛沫が手にかかるだけで冷たかった。手が凍って紅く染まる未来が目に見えて躊躇った。かといってお湯が出てくるまで待つのは面倒くさい。
結局、食器棚から新しいマグカップを取り出すことにした。お湯を入れようとして、ケトルのスイッチを押し忘れていたことに気づく。
スイッチを入れた瞬間からじわじわと温度が上がり、ケトルの中の水分子が踊り出した。旧式のケトルがお湯を沸かすまで、また虚無の時間が訪れた。
マグカップに描かれた下手な絵は、幼稚園のときに描いたものだ。家族で花畑にいる様子を描きたかったのだろうけれど、人よりも花の方がサイズが大きいし顔のパーツもバラバラだ。
今も絵の才能はないままだけれど、こう見ると自分も成長できているらしい。少しホッとしつつも、迷いのないクレヨンの通った跡からは、自分が成長とともに失ってしまった何かを感じた。
床暖房の低い音が静まり返った部屋に満ちる。稼働中のそれは家中を暖かくしてくれるはずなのに、私の体はやけに冷たかった。
「いいか、お前ら。二年の三学期はな、三年の零学期だ。冬休みが明けたら共通テストまで一年しかないんだぞ。だから今から準備するべきなんだ」
三年生零学期。進路講演会、ホームルーム、難関大学説明会などで耳にタコができるほど聞いた言葉。
「三年零学期ってなんだよ。どう考えても二年の三学期だろ」
その度にみんなが心の中に苛立ちを溜めて、口には出さずにしまっておくのだ。教室の温度が一度下がって明度が落ちて、空気が澱んで息苦しくなる。
そこに追い打ちをかけるように今日渡された進路希望調査。自分が何をしたいのか、何に興味があるのかまだよく分からない。これから先の人生が決まるから慎重にしろと脅されるのに、志望校はできるだけ早く決めて勉強しろと急かされる矛盾。
一寸先は闇。私の歩む道は暗くて何も見えなくて、永遠に続きそうでも数歩先に崖が現れそうでもあった。複雑に入り組んだ迷路の中を彷徨い歩くまま、出口の光の筋すら見つけ出せずにのたれ死んでしまうのではないか。行き当たりばったりに毎日を生きる私に太陽が作る陰は人よりも濃く、そのくせ目立たなかった。
「ピーッ」
無機質な機械音が耳に届いて意識が浮上した。忙しなかった水の沸騰音が凪いで部屋が静まる。棚を開く音、ティーパックを取り出す音、机とカップがぶつかる音が強調される。
ティーパックとお湯をマグカップに入れると、ほのかに立つ湯気。手の平から伝わる暖かさが心地良い。透明なお湯がキャラメル色に染まりゆくように、私も何かに染まりたくなった。
芳しい茶葉の香りが咽せそうなほど鼻いっぱいに広がり出した頃、ティーパックを取り出したマグカップにミルクと砂糖をたっぷり入れる。ミルクと砂糖が混ざり合っただけで優しさが感じられる気がするのは何故だろうか。
友達の前では背伸びしてストレートティーを飲む自分が嫌いだ。味がしなくて匂いもキツいだけなのに、なんでもないことのように表情を取り繕って。
隣で甘ったるいキャラメルラテを味わう友達が羨ましい。鼻腔を抜ける甘い香りを頼りに、もっと味のしない紅茶を一気に飲み干す。百五十円を払った私が得るのはいつも、自己嫌悪だけだった。
私好みに出来上がったミルクティーを一口すする。口の中に入れるまでにも何度も何度も息を吹きかけて、やっと飲めたのはほんの少量だけ。刹那、口元から体中に広がっていく温かさと口いっぱいに広がる甘さ。
私自身が砂糖の塊になってしまいそうだ。小さなひとときの幸せが私の心を軽くして、物体に差す陰よりも物体が受ける光に目が留まるようになった。少しずつ少しずつ心の渇きが満たされていく。
その時、外から微かなスニーカーの足音が聞こえた。すぐさまカップを置いてキッチンの隣にある玄関へ向かう。足音が段々と大きくなる。そこから感じられる力強さに姉だと確信して玄関のドアの鍵を開けた。
ドアのすりガラス越しに見える薄らとした影が次第に濃くなっていく。姉の身体のラインがはっきり見えたとき、寒風を招き入れるように扉が開いた。
「ただいま。ありがとう、理央」
姉が玄関に入ってくるだけで花瓶の菊も水を得た魚のように生き生きと華やいだ。
「おかえりー」
姉の微々たる動作から放たれるシトラスの香水の匂いが鼻腔をくすぐる。いつもと変わらない姉の匂いに安心した。
「今日も疲れたー」
姉はクリーム色のスニーカーを脱いで、うぅーん、と大きく伸びをすると私と一緒にキッチンへ向かった。
「理央ミルクティー飲んでた?」
「うん」
「私もいれよっかなー」
姉は食卓に置かれた、まだ湯気の立つカップを見つけると鼻歌まじりに紅茶を作り始めた。
「牛乳買ってこなきゃじゃん」
「あっ、砂糖入れすぎた。まいっか」
「指先冷えてたの解凍中だー」
姉が家で言葉を発するとき、その大抵は独り言だ。外面の姉とは裏腹に素の姉は一人の世界に入ることが多い。だから、たまに独り言なのか話しかけられているのか分からないときがある。
疲れた疲れたと言いながら、音符でも飛び跳ねていそうな様子の姉。大学生になって緩く巻き始めたブラウンの髪の毛が部屋の照明に照らされて天使の輪を描いている。
私は自分の椅子に座りながら、そんな姉の様子を飽きることなく眺めている。口に運んだミルクティーはやっぱり甘くて、口に優しい温度に変わっていた。
スプーンがカップに当たる音が心地よく響く。マグカップいっぱいに入ったミルクティーを溢さないように一挙手一投足に神経を使った姉が食卓の席についた。
「生き返るー」
表面の液体をズズズと飲み込む姉。目一杯に伸ばしていた足が向かいの席の姉の長い足に触れた。
「あ、ごめん」
「全然。それより理央、バイト先の先輩に貰ったクッキーがあるから一緒に食べよ」
姉が鞄の中から取り出したのは洋菓子店で売られているクッキーだった。小さな袋に十数個入ったクッキーが食べて欲しそうにこちらを見ている、気がした。封を開けると甘いバニラビーンズの香りが立ち込めた。
「ありがとう」
どうぞと差し出された袋の口から手を入れて一つを自分の口に持っていく。サクッとした食感と舌の上に広がる優しい甘さ、そしてアクセントになる僅かな塩味。齧った跡からクッキーの欠片が零れ落ちて、制服のブレザーに付いた。その事に気づかないほどに満ち足りた幸福を感じて、口角が上がった。
「これ美味しい……えっ。美味しいよね?」
「あ、うん。すごく美味しいよ」
どうやら今の姉の発言は私の反応を期待していたらしい。私がすぐに返事をしなかったから「私、味音痴じゃないよね」と慌て出す姉に思わず笑みが零れた。
「これ当たりだなー。今度どこで買ったか聞こうっと」
私も姉も大の甘党で、甘いものには目がない。クッキーは一袋だけだとあっという間になくなってしまいそうだ。また買ってきてくれるだろうかと楽しみにして、もう半分を口の中に入れた。
「今日は帰ってきてから何してたの?」
「……進路希望調査の紙の前で硬直してた」
思えば学校から帰ってきてから何もしていない。ファイルからプリントを取り出してボールペンを握りしめて、悩んでいるふりをしていただけだ。
最初は真剣に考えていた。けれど、考えれば考えるほどに分からなくなって、脳の中を何周も回っているうちに日は落ちていた。
「進路かー。そっか、理央もそんな時期か」
姉はふぅー、と息を吹きかけてまたミルクティーを口にした。しみじみと自分の高校時代を思い出しているのだろう、なんとも言い難い表情に変わった。
「難しいよね。理央は行きたい学部とか夢とかある?」
ぱっちり二重の姉の大きな瞳に私が映る。先生から尋ねられると体が強張って言いようのない恐怖に襲われる質問が、姉の口から飛び出してくるとなんだか肩の力が抜けるのだから不思議だ。
ない、と即答するのはなんだか恥ずかしくて、一呼吸を置くように二個目のクッキーを手に取った。
「……まだ分かんなくて」
「そっか」
姉も二つ目に手を伸ばし、訪れた沈黙の中に二人の咀嚼音が満ちていく。
「お姉ちゃんはなんで今の大学を選んだの?」
「うーん、深い理由はないよ。自分がいける大学で一番偏差値の高いところをなんとなく選んだだけかな? あとは理央の選択肢が狭まらないように国公立にはしたけど」
意外だった。昔から成績優秀だった姉は大学も第一志望校に前期で一発合格した。高校生のときからしっかりと将来の目標を立てて、それに沿って進路を決めていたのだと思っていた。
受験期に毎日何時間も勉強する姿を見ていたから、夢のために頑張っているのだと思い込んでいたのに。姉も、高校生の頃は実は私と同じように悩んでいたのだろうか。
けれど「なんとなく」で選んだ大学らしいのに、ただ一つある理由が私を想ってのことだというのが素直に嬉しい。
「そうなんだ」
「うん。今はあれか、『三年の零学期だ』って脅されてるんでしょ? あれまじうざかったなぁ」
「三年の零学期」という言葉は姉の口から出てきても関係なく、体が拒絶反応を起こして発疹が出そうになる。むず痒くなりそうな体を静めようと飲んだミルクティーは、あんなに甘かったはずなのに味がしなかった。
「二年の三学期だろ、って心の中で思って、先生の話が終わったらトイレで悪口大会してたな」
懐かしそうに言う姉にびっくりして、知らぬ間に俯いていた顔が勢いよく上がる。
「悪口大会って?」
私が尋ねると、姉の口から出てくるのは罵詈雑言の数々。永遠に続きそうな言葉たちを耳に入れながら、胸のつかえがすっと取れていくような気がした。
きっと毎日溜めていたストレスが、私の代弁をしてくれているような姉の言葉に消えていく。共感するように首を縦にぶんぶんと振ると、姉はそれを見ながら一言発した。
「あっ、でも理央はそんなことしちゃだめだよ」
一度女の副担任に見つかって散々怒られたことがあるのだと、眉をしかめながら言う姉を見ていたらなんだか笑えてきてしまった。
「うん」
変なツボにはまって、爆笑の渦の中にいる私が笑いを堪えながらなんとか頷くと、私の反応につられたのか姉も笑い出した。
二人とも顔を真っ赤にさせて、腹筋を押さえて笑っている。あははという豪快な笑い声が家中に響き渡った。
さっきまで一人ぼっちで陰っていた家が明るさを取り戻したようだ。なんとか心を落ち着かせて飲んだミルクティーも味を取り戻していた。
「でもさ、先生はそうやって発破かけてくるけど分からないよね。自分が何がしたいか何に向いてるのかって。たった十七年しか生きてないのに、この先八十年を決めろって言われてもねぇ」
私なんかまだ模索中だよ、と大学生活一年目があと数ヶ月で終わりそうになっている姉が呟いた。これは独り言だろうか、それともなにか反応したほうがいいのだろうか。分からずに放置していると、姉が続けて言葉を紡ぎ出した。
「なんとなくで決めた大学だけどさ、本当に今楽しくて学生生活を謳歌してるって感じるよ。ここでならやりたいことが見つけられそうだなって感じもするし」
姉の言葉は本当だ。大学に行きだしてから、姉は前にも増して生き生きとし出した。今も姉の周りには光の粒子が飛び出しているような気がするくらいに。
「うん」
「だからこんなこと言っちゃ怒られるのかもしれないけど、分からないなら分からないなりに頑張ればいいんだよ。きっと」
分からないなりに頑張る。姉の言葉を反芻して噛み砕こうとしても、理解できるようなできないような。
「分からないなりに?」
「うん。夢とか目標とかは一回置いといて、何か一つ頑張れることを探すの。知ってる? 志望動機は不純なら不純なほど頑張れるものだよ」
「不純って?」
「ちなみに私はね、偏差値の高い大学に行けば行くほど頭のいい彼氏をゲットできるから、それ目標に頑張ってたよ」
二人だけしかいないのに、内緒話をするように顔を近づけて囁いた姉の顔は魅惑的で、私もどうしてかドキッとしてしまった。そのとき真っ先に浮かんだのは、つい先日姉が母と私だけに紹介してくれた彼氏だった。
ハンサムで礼儀がしっかりしていて、始終にこにこと笑っている好青年という印象だったけれど、そうか、あの人も高学歴だ。
「そんな理由でもいいのかな」
「いいのいいの、って断言するにはなんだか理央を悪い道に引き込んでしまってそうで怖いけど」
責任は負いたくないのか、私から目を背けてクッキーを食べ始めた姉。完璧な姉、という私の中の理想像が崩れ始める音がした。
「なんか、意外だな」
「何が?」
「お姉ちゃんっていつも頭良くて優秀で非の打ち所がない人だと思ってたから」
「えっ、誰よそれ。私より理央の方が真面目で素直で性格も曲がってなくていい子だよ。私なんて何回友達とトラブったことがあるか」
私のようにストレスを溜め込んでしまわずに、言いたいことははっきりと口に出す性分の姉は友達と何度も喧嘩になったことがあるらしい。それに、そういえば通信簿の成績は姉よりも私の方が良いのだと、いつだったか母に聞いたことがあった気がする。
「そうかな?」
「そうだよ。だからまあ私のさっきのアドバイスも、こんなんで受かっちゃった人もいるんだなーくらいに思って反面教師にして頑張ってくれたらいいなって思うよ」
「分かった。ありがとうお姉ちゃん」
「うわ、私の妹が超可愛い」
姉は私の満面の笑みにやられたようで、私の頭を撫で始めた。姉の細くて大きい手から温かさが伝わってくる。
昔から、姉はよく私の頭を撫でてくれた。賞を取ったとき、苦手なことを克服したとき、学校で嬉しいことがあったとき、真っ先に報告するのはいつも姉だった。私が一生懸命に話すのをうんうんと全部聞いてくれたあとで、わしゃわしゃと髪をぐちゃぐちゃにするほど撫でるのだ。
だから今も昔を彷彿させるように髪の毛はかき回されてしまった。
「もう」
「へへ、ごめん」
全然反省してない様子の姉。その姿は昔と全く変わっていなくて安らかな気持ちになった。
姉はスーパースターじゃなくて、人間味のあるちょっとおてんばで変な姉だった。ずっと遠く遥か先を歩いていて、点のように見えていた姉の姿が急に近づいてきた。いつも追いかけていた大きな背中はすぐそばにあった。私の歩む暗い道、一寸先には姉がいた。
「進路、ちょっと分かったかもしれない」
「本当? 良かったね」
ぐちゃぐちゃにされたセミロングの髪の毛を手櫛で整えたあと、カップに残っていたキャラメル色の液体を全て飲みほした。
「書いてくる」
「うん、そうしな」
姉の声に背中を押された。座っていた木製の椅子から元気良く立ち上がると、その勢いのまま階段を駆け上がった。さっきと同じように響く重い音がクッキーを食べたことを責めてくるけれど、それさえもちっぽけな問題のように思えた。軽やかなステップで自分の部屋まで移動して、真っ暗な室内に明かりを灯した。
リビングと比べれば肌寒いはずの部屋も、ミルクティーと笑ったことによってほかほかの体には関係ない。
最近片付けたばかりの整頓された室内で、机上の白い用紙が存在を主張している。さっきまで座っていた椅子にもう一度腰掛けて、進路希望調査に真っ向から向き合った。闇を吸い込んで黒く染まりかけていた紙も、これから何色にも染まることのできる白に戻っている。
机の端で落ちかけていたボールペンを手に取って、紙の上を走らせていく。本来の仕事ができる喜びからか、さっきのように反発して指から落ちることもない。
第一志望の欄に書いたのは、姉と同じ大学、同じ学部。私の今の学力ではE判定しか出ないような格上の相手。だけど、また姉の背中を追いかけたくなった。姉の日常を輝かせるキャンパスを、学校を知ってみたくなった。
これはスタートだ。そんな適当な理由で決めるなと、先生には怒られるかもしれない。だけど、適当であって適当でない理由が確かにそこにはあって、絶対に諦めずに頑張れる気がする。
一寸先にいた姉に導かれる先に現れた細々とした光が、私の道を照らしてくれる。その一歩目を今、踏み出した。
初めて自分の意思を持って書いた文字たちはいつもの弱々しい字とは違って、迫力があった。そんな文字たちを眺めているうちに、今日は英単語でも覚えようかと本棚から単語帳を取り出した。
ほとんど使われていないそれは新品同様に綺麗だが、ボロボロになって厚みを帯びてくる未来もそう遠くはないだろう。
三年の零学期が確かに今、始まろうとしていた。
三年生零学期 朝田さやか @asada-sayaka
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