ミステリーなことが起きないと出られない部屋

黒幕横丁

ミステリーなことが起きないと出られない部屋

 ガシャン。

 その扉は固く閉ざされてしまった。

「くそっ!」

 いきなりその部屋へと押し込まれる俺たち男二人。いくら、扉を開けようともびくともせず、どんどんと壁を叩こうとも助けがくる様子も無かった。

「びくともしない」

 こういうシチュレーションが薄い本とかで見たことがある。扉を開くためには一定の条件を満たす必要があるはずだ、それがきっと扉の近くに書いてあるはずだと俺は扉の上部を見る。すると、そこには、


【ミステリーなことが起きないと出られない部屋】


 と書かれていた。

「なんか思ってたんと違う!」

「わっ。いきなりどうした」

 俺のツッコミに友人がビックリする。

「いや、なんかミステリーなことが起きないとこの扉開かないらしい。難易度半端ないことないか?」

 推理小説のような世界だなんて俺はまるで経験したことないし、そんな斜め上の条件なんて出されたら困るわけである。

 俺たちは一生この部屋に閉じ込められて人生を終えてしまうのか? どうせなら、もっと簡単なお題にしてくれたら……。

「思ったんだけどさ」

 友人が口を開く。

「オレたちが今部屋に閉じ込められているこの状況って、ミステリーによくある“密室”っていうヤツでは?」

 まるで天才的発想を浮かんだかのように友人が呟いた。いやいや、まさかそんな密室状態を簡単に作れただけで、そうそう簡単に扉が開くとか……


 パンパカパーン。


 その時だった。急に軽快な音が部屋に響き渡ったかと思うと、先ほどまでびくともしなかった扉がカチャと音を立てて開いたのだ。その一部始終を見て、俺は口をあんぐりさせていた。

「やった、開いたじゃん! これで出られるぞ」

 喜びながら扉へと進む友人より先に扉へと近づいた俺は、再び扉をカチャリと閉めた。

「おい、何やってんだよ! また閉じ込められたじゃないか!」

 俺の突然の行為に友人が怒って、俺に掴みかかる。

「だっておかしいだろ。ミステリーってもっと難解なものだろ?」

「た、確かに」

 友人もそのことについては納得したらしく、俺に掴みかかっていた手を緩める。

「こんなに簡単にミステリー判定されたら、俺たちがこんな部屋にいきなり運ばれた事だってミステリーに入っちゃうだろ!」


 パンパカパーン。カチャ。


 また扉が開いた。いやいや、流石にミステリーの基準が本当にガバガバすぎる。

「ミステリーってこんな簡単なやつで成立するようなものだっけ?」

「オレ、もうミステリーが分からなくなってきた」

 友人と二人でミステリーの定義について混乱を始める。コレがミステリーのゲシュタルト崩壊である。


 ◇


 ひとつ、分かったことがある。

 ミステリーは難解だと思ったけれども、そうでもなかったのだ。ミステリーは何処にでもあって、いつでも、その気になれば何でもミステリーに化けるのだ。

 そのことが分かったけれども、俺にはまだ分からない事がある。


 俺たちをあの部屋に閉じ込めた犯人は未だつかめていないことだ。

 アレから暫く経つけれども、分かっていないのだ。


 ソレがこの話の最大のミステリーなのかもしれない……。

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