毎日、自分をダメにしていくなんて耐えられない

ちびまるフォイ

手を付けちゃいけないパラメータ

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ダウンするパラメータを振り分けてください。

残り:4pt


・運動能力:120pt

・思考能力:80pt

・身体外見:114pt

・回復能力:161pt

・  精神:138pt

            10950

------------------


目を開けて最初に見たのはなぞの表示だった。

視界の中央にステータスのような表示が見える。


ステータスに向けて指をなぞると数値が移動する。


------------------

ダウンするパラメータを振り分けてください。

残り:0pt


・運動能力:116pt[-4pt]

・思考能力:80pt

・身体外見:114pt

・回復能力:161pt

・  精神:138pt

            13505

------------------


ポイントを使い切ったときにボタンが表示され、OKを押すとステータスの表示は消えた。


「いったいなんだったんだ……」


ゲームのしすぎで疲れていたのだろうと思った。

それが勘違いでないことは日々の生活ですぐに気づいた。


「お……おかしいな……いつもはこんな階段……すぐに昇れるのに……!」


ちょっと歩いただけで息切れをしてしまい、しまいには座り込んでしまう。

体力の衰えを感じたがこんなに急激な変化が起きるなんておかしい。


心当たりはあのステータスだった。


「もしかして運動能力を下げたから……」


その翌日にもあの表示は出てきた。


-------

ダウンするパラメータを振り分けてください。

残り:4pt

-------


「アップはしないのかよ!」


昨日は運動能力に全部振り分けてしまったことを後悔していたので、

昨日のぶんを取り消しをできないかとリセットを探したがどこにもない。


「今日の4ptはどこに振り分けよう……」


運動能力や思考能力が減るのは避けたいので、

用途がよくわからない「回復能力」と「精神」にそれぞれ2ptずつ振り分けた。


振り分けたあとで昨日のような劇的な体の変化は感じない。


「下げるパラメータは回復能力と精神がよさそうだな」


それからしばらくは他のパラメータには目もくれず、回復能力と精神を減少させるパラメータの受け皿にした。

変化に気づいたのは古くからの友達から指摘を受けたときだった。


「……なんかお前、キレやすくなったよな」


「はあ? そんなことねぇよ!」


「さっきだって、横断歩道で前を歩く人が遅かったらキレて

 自転車にベル鳴らされたらキレて、飲み物が熱くて店員にキレてただろう」


「怒るのは当然だ!! 俺はなにも悪くない!!!」


「どうしたんだよ。前はそんなに怒らなかっただろう?」


怒りを抑える薬を処方してもらってやっと落ち着いて、

そこでやっと自分がキレやすくなっていることを自覚した。


「前はこんな薬なんて必要なかったのに。心のブレーキがきかなくなってる気がする……」


自覚してからは自制心も意識的にもって生活したものの、

発散する場所をうしなったストレスが今度は自分の体に牙をむいた。


いったん体調を崩すや、また元気になるまでものすごい時間がかかる。


「前はこんなの寝ればすぐ治ったのに……ゲホゲホ!」


精神は心を制御する力で、回復能力は病気や怪我の回復能力なのだろう。

勝手に不要だと思いこんでいたがどちらも簡単に減少させてはいけない能力だった。


すでに弱っているというのに、減少パラメータの表示は毎日表示された。

それどころか振り分ける量も日に日に増している。


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ダウンするパラメータを振り分けてください。

残り:6pt

・運動能力:116pt

・思考能力:80pt

・身体外見:97pt

・回復能力:65pt

・  精神:78pt

            10873

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運動能力を減らせば日常生活が危うくなる。

思考能力を減らせば仕事に影響が出る。

身体外見を減らせば外見年齢が一気に老ける。

回復能力を減らせば病気は治りづらくなり

精神を減らせば心に余裕がなくなってしまう。


「これ以上どのパラメータを減らせっていうんだよ……」


どのパラメータも大事で減らしたくはない。

ふと、すみっこにある5桁の大きな数字に目がいった。


試しに指でなぞってみると減少ポイントを振り分けることができた。


------------------

ダウンするパラメータを振り分けてください。

残り:0pt

・運動能力:116pt

・思考能力:80pt

・身体外見:97pt

・回復能力:65pt

・  精神:78pt

          10867[-6pt]

------------------


「……これも減少できたんだ」


そのままOKを押して自分の体の変化を確かめた。

体にはなんら変化が起きない。


運動能力も思考能力も、見た目も、回復能力も精神も減少していない。

それは時間が経っても変わらなかった。


「最初からこっちの数字に割り振っておけばよかったな、もったいないことした!」


パッと見ではこれが減少できるパラメータ候補には見えないので気づかずにスルーしてしまうのも無理はない。

裏技のようではあるが体の衰えから解放されたので結果オーライ。


「これでしばらくは体の減少を感じなくて済む!! 今のうちに遊びまくろう!」


いつか5桁の数字を使い切って減少パラメータが自分の体の方に差し掛かる前に、今できる幸せを味わい尽くそうと思った。

毎日を楽しく過ごしているとあっという間に時間は過ぎた。


------------------

ダウンするパラメータを振り分けてください。

残り:9pt

・運動能力:116pt

・思考能力:80pt

・身体外見:97pt

・回復能力:65pt

・  精神:78pt

          10

------------------


「あんなに数字があったのになぁ……」


------------------

ダウンするパラメータを振り分けてください。

残り:0pt

・運動能力:116pt

・思考能力:80pt

・身体外見:97pt

・回復能力:65pt

・  精神:78pt

          1[-9pt]

------------------


「明日はついにパラメータ減少に手をつけなくちゃいけないのか……」


明日の減少パラメータの振り分け方に悩んでいると、

予約していた健康診断の時間になったので病院へ向かった。


病院では自分と同じ年齢の人がたくさん待っていた。


自分はその中で一番見た目が若々しく、運動能力に優れ、思考能力にも若さがあり

病気もせずに大人っぽい心の余裕がある。


「ふふ、みんなバカなパラメータ割り振りをしているんだな」


心の中で勝ち誇っていると自分の診断の順番がやってきた。

医者は聴診器をあてて検査をしていると、ふうと深呼吸してから話し始めた。


「驚かないでくださいね。大事な話があります」


「え……なにか大きな病気が見つかったんですか!?」


「いいえ、病気はありませんでした。ただ……」

「ただ?」


「私自身、原因も治療法もわからずに困惑しているのですが……なんといいますか」


「はっきり言ってくださいよ! そっちのほうが怖い!」


医者は言葉を選びながら答えた。



「あなたの余命は……もって、あと1日でしょう」



「先生、笑えない冗談ですよ。こんなに元気で頭も若々しくて、

 そのうえ回復能力もこんなに維持しているのに余命だけ1日だなんてありえない」


「私もまったく不思議なんです。あなたはこんなにも若々しいのに、

 体の内側はすでに老衰の死にかけなんです。こんなの見たことありません」


医者の真剣な表情が冗談でないことを何よりも証明していた。


「こんな状態になるなんて異常です。なにか心当たりはないんですか?」


「急に余命1日なんて言われても心当たりなんてあるわけないでしょう!」



次の日、もうパラメータの振り分けは行われなかった。



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ダウンするパラメータを振り分けてください。

残り:10pt

・運動能力:116pt

・思考能力:80pt

・身体外見:97pt

・回復能力:65pt

・  精神:78pt

          0

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余命パラメータは自然と0になった。

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