第42話 妹、内職に励む

 運ばれてきた材料となるアイテム達。今回は煙玉を改造していくことになるので、真琴はまず煙玉を一つ手に取り、残りの三つと魔鋼網を床に並べた。


武器防具改造リメイク


 心の中でいいのだが、やはり気分から唱えることを選んだ真琴は前回よりも小さな声で呟く。スキルであることを知られないようにという配慮からだ。


「お、あったあった」


 湊の予想通り、現れた候補の中には「捕獲玉」というものが存在していた。煙玉四つを使って作成できるのは「捕獲玉・大」だ。湊がある程度大きさが変えられるだろうと予想した通り、煙玉の個数で調節は可能だった。

 一つ作成した真琴は部屋外、扉の前に立ってくれているセルジオを呼び、出来上がったそれを手渡す。


「これか」

「ん。確認した感じ衝撃で開くみたいから、投げたあと魔法とかで攻撃するのが確実かな。弓だと大変そうだし」

「小さい方も作れるか?」

「ほい。ついでに中もあげる」


 煙玉二つが小、三つが中。それぞれ作って手渡せば、確認したセルジオは立ち上がった。


「検証してくる。俺が戻るまでは作らなくていい」

「あいあいさ」

「作らなくていいとはいったが、正確には作るな・・・だからな?」

「それくらいわかってるよー。トントンと大人しく寝てる」

「……まあ、ここならいいか」

「プギプギ」


 任せろと鳴いたトントンの頭を撫で、セルジオは心配そうな視線を一度投げてから部屋を出る。トントンとの仲は旅の間にだいぶん近まり、撫でられた彼は嬉しそうにもう一度鳴いた。


   ***


 セルジオが帰ってきたのは、部屋を出てから約三時間後だった。

 最初は遊んでいた真琴とトントンも部屋の中で暇を潰すには限界があり、しばらくすれば予告通り寝息を立て始めた。帰ってきたセルジオは寝息を立てる二人を見つけ、ため息を吐きつつも仕方ないかと肩を揺する。


「作成個数が決まった」

「あ、おかえり。いくつ?」

「大が八○○。小と中が三○○だが……できそうか?」

「寝る時間プリーズ」

「できそうだな」

「まあ今回は頑張るよ。終わったらしばらく休もうってお姉とも話してるし」


 追加された材料を手にし、真琴はよだれがついていないか確認してから手を動かしはじめる。要求された量を作るにあたって、スキル名を言うことが非効率なのはわかっているので今回からは無言でだ。


「数は数えるの面倒だから、申し訳ないけど数えて……あ」

「それぐらいなら問題ないが、どうした?」

「大変だ、セルっち」

「いやだからお前。その呼び方をいい加減改めろと——」


 積み上げられた材料の前で開いた武器防具改造リメイクの選択画面。作成可能な「捕獲玉」の横に表示された、作成個数の文字。

 恐る恐る、現時点で作れる最大量を選択した真琴。即座に完成した大量の捕獲玉がセルジオの足元まで転がり、二人と一頭は息を飲む。


「湊に報告は」

「即チャットします!」

「よし。完成品は俺が少しずつ持っていく。飯もここまで運んでくるから、いやだろうが真琴はしばらくここから出るな」

「うー……わかった」

「墓穴を掘らない自信があるなら構わんが」

「掘った穴に入る自信しかない」

「だろうな」


 完全なるアウトドア派の真琴には辛いが、進んで穴を掘って自ら埋まりにいく彼女を野放しにするわけにはいかない。そしてそれは本人にも自覚があるのか、トントンを撫でながら諦めたように頷いた。

 できることはないトントンは、慰めようと鼻先を真琴に押し付ける。ちょっとだけ笑ってくれた真琴に、彼は嬉しそうに小さく鳴いた。


「王国騎士団が先かそれともファウストが先かはわからんが、偵察の範囲にどちらかが入り次第すぐ出せるようにする。必要な物もできる限り用意するからそれで」

「うん。わかってる。ありがとセルジオ」


 ルイスハルトを助けてくれた真琴達にできる限り不自由な思いはさせたくない。その想いはしっかりと伝わっていて、屈んでいるセルジオの膝を軽く叩いた真琴は困ったように笑った。


「さっきも言ったけど、今回はあたしが言い出したことでもあるしね」

「……すまん」

「気にするなってのも微妙か。ならさ、かっこいい槍頂戴。それ改造しながらずっと使うから」


 気にするなと言い続けても結局気にしてしまうだろうと、最終的に真琴は物をいただくことにした。スッキリしたいならその分いいものを選べばいいし、贈るだけで納得できるならそれでもいい。その辺の匙加減はセルジオの自由だ。

 意味を理解したセルジオは少しだけ固まってから咳払いをし、小さく頷く。


「わかった。それ相応の物を用意しよう」

「ついでに美味しいお肉があっても嬉しい」

「プギィ!」

「要求が増えたな」


 僕も欲しい。と元気よく鳴いたトントンの頭を撫でて、「それくらいならお安い御用だ」とセルジオは笑った。だいぶん肩の荷は降りたようだ。


「さてと、それじゃあお姉と連絡取りつつ引きこもりますかね」

「王宮の情報は適宜俺にも伝えてもらえるか?」

「もち。お姉も多分その方がいいって言うと思うし」


 残りの材料が手に入り次第持ってくることを告げて、今後のことをある程度話し合うとセルジオは部屋を出る。やることがなくなった真琴は、客間だからかあらかじめ設置されていたベッドまで移動すると寝そべった。

 トントンはベッドには乗れないので、床だ。


「なにして遊ぼっか、トントン」

「プギプギ」


 頭をベッドに乗せ、鼻を鳴らすトントンを撫でる。相変わらず真琴に彼の言葉はわからなかったが、楽しそうな雰囲気はなんとなく感じ取った。

 しばらくそうやって触れ合っていた二人はやがて、どちらからともなく寝息を立て始めたのだった。

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姉妹のフリーダム冒険譚——異世界で自由を謳歌する—— 緋雨 @Ame0126

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