第41話 目指せ、無血解決

 一週間とかからずターレスに到着した真琴は、カサグランド辺境伯であるシリウスとその息子カイル、そしてカサグランド家が所用する騎士団の団長アレクサンドとセルジオ達が行っている話し合いに参加していた。

 だが、話が難しかったので一時退散。廊下に出ると、湊へと連絡を取った。


「真琴にしては忘れずに報告できてえらいね」

「うむ! 一言余計だと思うけどありがと」


 道中で判明した武器防具改造リメイクスキルについて姉に報告した真琴は、思い出したようにもう一度口を開く。


「あ、それでさお姉」

「ん?」

「どう? 敵よりファウストのが早くこれそう?」

「いや。絶対に無理だね。こういうのは手順とか手続きとか面倒なのが多いから……なんかあった?」


 難しい内容ではあったが、真琴はできる限り話を聞いていた。自分の頭で解決策は見つけられなかったが力にはなりたい、ならば、せっかく連絡を取ったのだから姉に相談しようと考えたのである。

 ちなみに湊もルイスハルトを守りながらで忙しいはずなのだが、全く忙しそうに見えなかったため真琴はすっかり忘れている。


「やっぱさ、王国騎士団は殺して制圧とかできないんだって」

「いやそもそも真琴にそれさせたら私この作戦降りるから」

「あ、うん。うちも人殺しはしたくないけどそうじゃなくて」

「無力化する方法が浮かばないと」

「そうそうそれ」


 国直属の王国騎士団と辺境伯領の騎士団という所属の違いはあるが、グリティア人族の国の騎士であることは同じ。宰相と国王の暴走でシリウス達は一切悪くないのだが、鎮圧するためだとしてもここで相手を殺してしまえば王都に済む人々の心象はどうしても悪くなる。

 何より、同じ国の騎士同士で争うなど愚の骨頂だ。


「セルジオにはもう武器防具改造リメイク見せちゃったって言ったよね」

「言ったー」

「OK。なら、真琴は捕獲アイテムを作ろう。詳しい話はセルジオに送っておくから、彼に聞いて動いて」

「それならみんな死なない?」

「上手く行けばね。大丈夫、私らがついてる」

「うん!」


 捕獲アイテムという言葉から、戦わずして無力化できるものだろうことは真琴にもわかった。全てがうまくいくわけではないが、確率は少なからず上がったはず。

 何より姉がついていると力強く言ってくれたのだ。これ以上に信じられるものなどないだろう。


「たのもーう」

「……真琴。お前はもう少し時と場合を選んでだな」


 バーンという効果音をつけて入ってきた真琴に、セルジオが頭を抱え、シリウス達の厳しい視線が突き刺さる。しかし彼女は物ともせず、意志の強い声を発した。


「セルジオは、お姉からの連絡を確認してからみんなに説明よろ。おじちゃんとカイル……アレクさん、さん? は、セルジオから詳しく聞いたあと行動を決めて欲しい」

「アレクサンドな。あーまぁ、アレクでいい」

「ごめん! アレクね!」

「それは、湊からの指示か?」

「うん。実力はほら、知ってるっしょ?」


 アレクサンドの名前を覚えられていなかった真琴は、最後に歯を見せて自信ありげに笑った。その姿に毒気を抜かれたのか、厳しい顔をしていたシリウスが唇を緩める。


「結果を見ずに認めるわけにはいかんが、王国騎士団到着までには多少猶予があるはずだ。私達もまだ議論は続けるが、可能性があるなら同時にやったほうがいいだろう」

「ありがとう、おじちゃん」

「お前達もそれでいいな」

「俺は決定に従うまでですよ」

「僕も構いません。何より、あの湊のアイデアなら見てみたいですし」


 シリウスが湊のアイデアも進めていいと許可を出し、ほんの少し差した光に和らいだ部屋の空気。そんな中、黙ってチャットを確認していたセルジオが「なるほど」と小さな声を出した。


「把握出来ただろうか?」

「はい。ひとまず現物を作成してみようと思いますので、材料調達をお手伝いいただいても?」

「構わない。それに関してはカイル、お前に一任しようと思うが……できるか」

「はい。任せてください、父上」


 内容を説明するにもまずは無力化できるアイテムが必要だと言ったセルジオは、製法は湊と真琴の情報であり開示できないと続ける。本当に役立つものであれば秘匿する理由も頷けるため、シリウスは作業場として領主館の一室を提供した。

 確実とは言えないが、宿やギルドよりは人が侵入できる可能性は圧倒に低いからだ。


「では、私は真琴とアイテムの作成をします。カイル様、材料をメモしましたので、ひとまず今集められる数をお願いできますか」

「……材料はこれでいいのかい?」


 メモに書かれていたのは煙玉が二つから四つ、そして魔物を捕獲するための魔鋼網まこうあみを一つだけだ。これで、捕獲用アイテムを一つ作ることができる。ただ、まだ真琴のスキルで確認したわけではないためできるかもしれない・・・・・・だけであり、メモにもその旨はきちんと記されていた。

 管理者に真琴のスキル詳細も確認していた湊の予想なのでほぼ間違いはないのだが、言えないので念のための保険だ。セルジオはそれを理解した上で、万一材料が違った場合の対処方法を考えつつ口を開く。


「今はそれだけで大丈夫です。一つ出来次第持って参りますので検証を行い、実用性が確認できましたら必要数を算出したいのですが」

「わかった。この街にあるものをすぐに届けさせる」


 材料は、先ほど提供された領主の一室に届けられる。

 シリウスとアレクサンドはここに残り、他の案について会議を続行。その他の面々は、各々の役割のために散っていった。

 眠っていた真琴はセルジオに叩き起こされ、シリウスの配慮により領主に入ることを許されたトントンと共に作業部屋へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る