悪夢の痴漢車両
@HasumiChouji
悪夢の痴漢車両
社員寮を出て借りたアパートは、職場まで片道1時間以上だった。
とは言え、最寄り駅が、都内行きの電車の始発駅なので、余程の事が無い限りは座る事が出来た。
例の伝染病騷ぎも終息の気配が見え始め……通勤時間帯の電車にも人が戻りつつ有り……でも、まだ、かつてのような状態には程遠かった。
そして、俺が電車に乗り二〇分ほどが経過した時……。
『
……。
…………。
……………………。
何だ、この車内放送は?
どう云う意味だ?
「やめて、なにすんの? エッチっ‼」
小学校ぐらいの女の子の悲鳴。
「うぎゃぁ」
続いて中年男の苦鳴。
更に何かが倒れる音……。
「あの……この倒れた人……息してません」
そして……慌てふためいた様子の大人の女性の声。
客の目が一斉に……小学生の悲鳴がした方を向く。
「あ……あの……その……。どうなるか……ためしてみようと……その……」
キョドった声を出しているのは……どこかの私立小学校のものらしい制服を着た小学校高学年ぐらいの男子。
ボゴォっ‼
「ぶへっ……」
「ふ……ふざけんじゃねぇぞ……このガキ……。チ○毛も生えてねぇ齢で色気付きやがって‼ 変な真似すんじゃ……うげぇっ‼」
続いて……小学生に蹴りを入れたヤクザ風の男が苦しみ悶えながら床に膝をつき……そして倒れた。
「今度は……誰だ?」
「このお爺さんです」
そう言ったのは……俺から見ればいい齢だけど……その爺さんから見れば娘ぐらいの齢であろう……齢の割には綺麗な女性だった。
より端的かつ下品な言い方をすれば「熟女マニア垂涎」って感じだ。
「い……いや……その……」
「爺ィ、やったのかぁ? 本当にお前かぁっ?」
七〇過ぎらしい痩せぎすの爺さんに向って、絶叫したのは、
「ふざけんな……。その齢で、まだ、枯れてねぇのか? 死んでたのは、俺だったかも知れねぇんだぞ」
五〇男の手が……エロ爺さん (多分) の細い首を掴む。
「す……すいません……わ……わたしがやりました……うげぇ」
「あ……あの……今……殺……」
「正当防衛ですよねッ⁈ 証人は皆さんだッ‼」
どこがだよ?
「では、皆さん、私が今やった事が正当防衛だと云う御認識のようなので……」
いえ、皆さん、完全におかしくなってる人を見て、怯えてるだけだと思います。
「後日、証人になってもらえる方は……名刺か連絡先を頂けますでしょうかッ‼」
な……何だよ……このおっさん……。寝てるフリ。寝てるフリ。
「あの……」
続いて……俺と同じ位の齢の気の弱そうな感じの男の泣きそうな声。
「隣の車両への扉が……開きません……」
「こっちもです……」
その時……電車が止った。
『停止信号を確認しましたので、しばらく停車いたします』
その車内放送があってしばらく後……。
「げふっ……」
俺の隣に座っていた男が……口と鼻から血を吹き出した……。
「おい……また……やった馬鹿が居たのかッ?」
例の五〇男の……妙に落ち着いた感じなので逆に怖さ五〇〇%増しの声。
「待ちなさい。逃げようったって、逃げ場は無いわよ。……あんた達2人のどっちかでしょ⁉」
高校生ぐらいの気の強そうな感じの女の子の声。
「俺じゃねぇ」
「いや、お前だろ」
「もう、両方殺せよ。どっちかが人殺しなのは確実なんだろ?」
若い……大学生ぐらいの男3人が言い争っている。
痴漢容疑者2名と、少し離れた所に居た、同じ位の齢の男1名だ。
「おい……お前……。普段、twitterに『阿呆な女が痴漢だ痴漢だと騒ぐせいで、俺達、男は迷惑してんだよ』とか書いてるクセに……」
「はぁ? 変な事言わないでくれる? そんな事書き込んだ覚えないし、俺、君達とは……たまたま大学の学科と学年が同じだけの、友達でも、何でも無いから……」
「ふ……ふざけんな……」
「やめて、マジで。君達の友達と思われると……俺まで命危ないから。死ぬなら、痴漢同士、仲良く死んで……ぐえええ……」
男の敵は男。それが今の状況だった。
大学生らしい3人は……約3分後には全員、死体と化していた。
寝てるフリ。寝てるフリ。寝てるフリ……。
『お客様に御連絡いたします。次の駅で大規模な人身事故が発生したとの連絡が入りました』
えっ?
『運転再開見込みは……』
早く……再開しろ……こんな電車……次の駅で降りてやる。
『現時点では不明です』
俺が……次の駅まで生きてられるかも……現時点では不明です。
悪夢の痴漢車両 @HasumiChouji
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