人狼はお前だ

さかたいった

垢BANをかけた人狼ゲーム

 小説投稿サイトの『カイタリヨンダリ』で面白い自主企画を見つけた。

 その自主企画のタイトルはこうである。


『人狼ゲーム参加者募集』


『カイタリヨンダリ』の自主企画というのは、ユーザーが自主的に特定の内容に関する執筆作品を集め、そこに興味を持った書き手や読み手たちの集まりだ。あくまで作品を載せることが目的であって、「みんなでゲームやろうぜ」と呼びかける場ではない。運営さんに見つかりしだい削除される可能性のある企画内容だ。

 だがそれゆえにちょっと気になる企画である。一体どんな人間が主催しているのだろうと本文ページに飛んでみた。


『先着五名。指定人数に達した時点で応募を締め切ります』


 これが記述してあった企画内容である。ずいぶんと簡潔な内容だ。運営に見つかる前に逃げ出そうという魂胆だろうか?

 馬鹿らしいと思い、ページから離脱しようとした私だが、企画参加者が既に一人いる。

「えっ?」

 私は企画参加者の箇所に記載されたユーザーネームを見て、驚きの声を上げた。


『ポムポム』


 ポムポムさんといえば、『カイタリヨンダリ』で言わずと知れた超有名作家さんだ。書籍化作品も複数出版されている。自主企画には作品を持ち込まないと参加扱いとならないので、私は企画内の作品が表示されている箇所までスクロールした。間違いない。作品についている★の数が私の作品とは二つもケタが違う。紛れもない本物のポムポムさんだ。私は一気にこの企画に対する興味が湧いた。

 企画ページを再度読み込むと、参加者がさらに二人増えていた。うわっ。『かきこ』さんといえば、素晴らしいファンタジー作品を書いている人気者だ。『260G』さんもランキングでよく名前を目にするぞ。これはいかん。急いで参加しなければ募集が締め切られてしまう。私はすぐさまワークスペースに飛び適当な作品を選んで企画に参加した。

 再び企画ページを開くと、応募者人数が五名に達していた。危ない危ない、もう少しで弾かれるところだ。こんな有名作家さんたちと接する機会を逃す手はない。

 さて、企画に参加してみたはいいが、この後一体どうすればいいのだろう? そう考えていると、通知の印がついていた。『GM』という名のユーザーから私の近況ノートにコメントが届いている。私は早速内容を確認した。


『自主企画にご参加いただきありがとうございます。私のユーザーページの近況ノートのほうへお越しください』


 私は貼ってあったURLからそのページへ飛んだ。


『「一日目」

 ルールは通常の人狼ゲームと同じです。今これを読んでいる人の中に人狼が一人だけ紛れ込んでいます。議論をし、多数決をして、一日目に処刑する人物を決めてください。

 なおこのゲームでは、多数決であったり夜な夜な人狼に殺害される人物は、殺されるかわりに『カイタリヨンダリ』で使用しているアカウントを消去されることになります。

 議論はこの近況ノート下部のコメント欄をご使用ください。ちなみに本日中に多数決で垢BANする人物を決めなかった場合、参加者全員のアカウントが消去されることになりますのでご注意ください。

 では、ゲームを始めましょう』


 ……アカウントが消去される? なんだそれは? 聞いていないぞそんなルール。


かきこ「みなさん初めまして。ってて、垢BANとかってマジですか? 聞いてないですー」


ポムポム「初めまして。たぶん、緊張感を持たせるためのジョークじゃないかな? 一介のユーザーがそんな権限を持っているわけないし」


 おお、さすがポムポムさん。そりゃそうだよな。そうだ、私もコメントを書かないと。ちなみに私は『シまウま』というアカウント名の凡人作家だ。


シまウま「みなさん初めまして。いつもみなさんのご作品を拝見させていただいております。こんな有名作家さんたちとご一緒できるなんてまるで夢のようです」


クク八十一万「おいシまウま、余計なことを喋るな。俺は人狼ゲームをやりにきたんだ」


 うっ、なんだこのクク八十一万とかいう奴。態度悪いな。ちょっとした挨拶をしただけじゃないか。


クク八十一万「俺はもう多数決で誰を選ぶか決まっている。当然「シまウま」だ。理由は簡単。五人の参加者の中で誰のアカウントが消えてほしくないかと考えていったら、そりゃ残るのはこいつしかいない」


 はあ!? なんだこいつ。理不尽にもほどがあるだろ!


かきこ「ちょ、ちょ、ちょい待ち。それは時期尚早っしょ。シまウまさんがいくらこの中でダントツに読まれてない作家さんだからって」


 かきこさん。それ、フォローになってないっス。


ポムポム「僕は逆にクク八十一万さんが怪しいと思うな。シまウまさんに疑いを向けて自分が逃れるつもりじゃないかな」


 あっ、そうか。私たちは人狼ゲームをしているんだ。つまり、この中に人狼が紛れ込んでいる。クク八十一万にむかつきすぎて忘れていた。私は人狼であるという指定を受けていないから、普通の人間役か。他の四人の中に人狼がいる。


クク八十一万「おい260G、あんたはどうなんだ? まだ一言もコメントしてねえけど」


260G「……………………」


 三点リーダーの八連射!? また変なキャラがやってきたぞ。


 その後、しばらくの議論ののち、一日目の多数決が行われた。



クク八十一万:四票


シまウま:一票




『二日目』


 翌日、仕事から帰ってきた私は、『カイタリヨンダリ』を開いて驚愕した。

「クク八十一万のアカウントが無くなってる……」

 クク八十一万は、昨日の多数決で最多票、つまり人狼と疑われて垢BAN対象となった。しかしまさか本当にアカウントが消えているなんて。これは本気のやつなのか?

 私はGMのプロフィールページへ飛んだ。『二日目』というタイトルの近況ノートが作成されている。


『昨日の多数決により、クク八十一万さんのアカウントが消去されました。さらに人狼の襲撃により、ポムポムさんのアカウントも消去され、残るは三人。本日の多数決でゲームの決着がつきます。それではみなさん議論を始めてください』


 えっ? ポムポムさんが消された? まさか?

 私は履歴をくまなく捜索してポムポムさんのページや作品を探した。

 しかし、無い。消えている。本当に。あの超人気作家のアカウントが。


かきこ「嘘、本当に垢BANされちゃったんですか?」


シまウま「みたいですね」


260G「……………………」


 この三人の中に人狼が一人。私は人狼ではないので、かきこさんか260Gさんのどちらか。このまま何もしなければ全員のアカウントが消される。もし多数決で私が選ばれてしまったら、私のアカウントは消える。かきこさんか260Gさんの人狼でないほうを選んでしまった場合も、私は残された人狼に襲撃されて消される。状況はかなりまずい。あまり多くの読者を獲得してはいないとはいえ、仕事合間にコツコツやってきた大切なアカウントなんだ。絶対消されたくない。どうにか生き残らないと。


かきこ「やだ、私消されたくない」


シまウま「自分もです」


260G「……………………」


シまウま「選びましょう。そうするしかありません」


かきこ「そうですね」


シまウま「選ばれても、恨まないでくださいね」


260G「……………………」




260G:二票


シまウま:一票







 おかしい。これはどういうことだ?

 多数決によって260Gさんのアカウントが消された。それはわかる。

 だけどどうして、

 かきこさんのアカウントが消えている?

 多数決で票を受けなかったかきこさんが消されたということは、人狼の襲撃を受けたということだ。だけど残されているのは私一人。そして私は人狼ではない。それなのにどうして?

 私はGMのページへ飛んだ。

『ゲーム結果』という近況ノートが作成されている。


『みなさんご参加ありがとうございました。

 多数決で260Gさん、人狼の襲撃によりかきこさんのアカウントが消去されました。

 さらに、人狼が残り人数の過半数に達したことにより、残されたプレイヤー、シまウまさんのアカウントも消されることになります』


 はあ!? どういうことだ!? 残っているのは私一人なのに、まだ他に人狼が残っているなんて。

 私はコメント欄に書き込みをした。


シまウま「どういうことですか? 残っているのは私一人じゃないですか? どうして私まで消されるんですか? 人狼は誰だったんですか?」


 一分ほど経って、GMのコメントが返ってきた。


GM「私は一日目の近況ノート内で、こう記載しています。

『今これを読んでいる人の中に人狼が一人だけ紛れ込んでいます』

 私は五人の中に人狼がいるとは一言も言っていません。

『今これを読んでいる人の中に』いるのですよ。

 そう、人狼は……」








 今これを読んでいるあなただ。

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