私ノ村で行わレル不思議な行事を紹介シます

いずも

第1話 見つかってはいけない宝物

 私の村では毎年おかしなことが起こる、とある行事が行われています。


 簡単に言えば、宝探しです。


 子どもが宝物を隠して、大人がそれを見つける。

 たったそれだけ。


 当日の朝に子どもたちがそれぞれ隠し終えたら役目はおしまい。

 次は大人の出番です。


 昼前から宝探しは始まり、丸一日かけて宝物を探します。

 もう日が暮れるような時間になって、ようやく行事はおしまいです。



 身もふたもない事を言ってしまいますが、これは「お遊び」です。


 だから子どもも見つけられないような変なところには宝物を隠しません。

 大人は見つけても見て見ぬ振りをします。


 つまりこれは「神様を楽しませる儀式」なんです。


 すぐに終わってしまっては神様を楽しませられない。

 一日で終わらなければ神様は飽きてしまう。

 だから一日の終わりに全部のお宝を見つけ出せた、ということにします。


 そして最後に大人から子どもにお菓子を配ってこの儀式は終了です。


 ……と、ここまでなら昔ながらの風習としてよくある話だと思います。

 不思議と銘打つ所以はこれからお話します。



 実は神様は村人に混じってこの遊びを楽しんでいます。

 ある年は子ども、またある年は大人になったりとバラバラです。


 最後にお菓子を配ると言いましたが、ここで不可思議な現象が起きます。

 お菓子は大人から子どもに手渡されるのですが、毎年絶対に数が合わないのです。


 もしも神様が大人に混じっていたなら、お菓子が余ります。

 もしも神様が子どもに混じっていたなら、お菓子は――ぴったりです。


 神様はお菓子をもらいません。

 だって、もらえなかった子が可愛そうですから。


 ただ、子どもの数が想定より増えているので本来なら足りないはずなのに、です。


 村の人もいつものことなので気にしていません。

 神様が楽しんでいるのならそれでいい、とのことです。



 これは一年間の村の繁栄を願う儀式です。

 昔から行われてきた、ちょっと不思議な宝探しのお話でした。



 ------



「君は本当に神様が村人に混じっていると思うかい?」

「どうだろ。神様なんて、いないと思います」

「そうか。それもまた、一つの答えだ」

 知らない大人でした。


「『宝探し』の、何が元になったかなんて知らない方が幸せだ」

?」


「別の村ではその風習が色濃く残っているよ。ようはだよ」

「隠れるのは、子どもたち?」

「そう。探すのは大人。一人の大人が一人の子どもを探すのさ」

「ただの遊びじゃないの?」


「人柱――つまり『生贄』さ。神様は参加しない。のさ」

 乾いた笑いを浮かべながら、その人は続けます。


「大人が多ければ最後まで見つけられなかった人に神様が乗り移る」

「じゃあ、子どもの場合は?」

「最初に見つかった子に神様が乗り移る」


「神様が乗り移ると、どうなりますか」

「簡単だ。になる」


 という言葉の意味はわかりません。

 でも、どうなるのかはわかっています。


「それが贄となる。毎年一人を神様に差し出して、村の豊穣を願うのさ」

「どうして神様は、そんなことをするんでしょう」


 その人は耳まで裂けそうなくらいに大きく口を開けて笑って言いました。


「楽しいからさ。人間を見るのが、人間と遊ぶのが。人間の残忍さが好きだから」

「じゃあ、やっぱり神様はいませんね」

「おや、どうしてそう思ったんだい」

「だって、そんなことを繰り返していたら誰もいなくなってしまうから」



「そう、だから神様は降臨しなくなった。乗り移らなくなった」

「それでもは無くならなかった」

「そう、なぜだかわかるかい?」

「……いいえ」


「簡単。何もしなくても勝手に最後の一人を白痴に仕立てるようになったのさ」

「人間は、残酷ですね」

「ああ、人間は実に飽きないね。神様を楽しませるのが得意みたいだ」



 その人は態度を変えることなく、でも声を低くして言いました。


「さて、そろそろ君の宝物について教えてもらおうか」

「……」


「その宝物、ここに埋める気? それじゃ見つからないよ」

「だって、見つけられなければその人に神様が乗り移るんでしょう」

「さっきまで神様はいないって言ってたじゃないか。白痴になる、だろう」


「宝物。大切な友達、だった」

「だった?」

「去年、神様が乗り移った」



「さっき言ったこと、覚えているかい。子どもに神様が乗り移る条件」

「最初に見つかった子に神様が乗り移る」



「そう、最初に見つかった子に神様が乗り移る」

 知らない大人が、その言葉を繰り返しました。



「死体遺棄の現行犯、及び殺人事件の重要参考人として来てもらおうか。神様?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私ノ村で行わレル不思議な行事を紹介シます いずも @tizumo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ