こたつの中のすねこすり

加藤伊織

***

 うちには妖怪がいる。

 ――なんて言うと、胡散臭い物を見る目で見られるか、物凄い怖がられるかする。

 だから人には言わないけども、うちには妖怪がいる。


 妖怪すねこすり。

 その名の通り、足の間をすりっとしていくだけの妖怪。雨の日なんかは嫌だけど、別に害はない。

 うちにいるのは、そのすねこすりだ。



「ただいまー」

 高校から帰宅して私が玄関を開けると、玄関マットの上にすねこすりが座って待っていた。

「ただいま、こすりん。いい子だねー」

「オアーン」

 私が喉を撫でると、妖怪は私の手にすり寄りながらゴロゴロと喉を鳴らす。猫みたいでとても可愛い。見た目的にも、ちょっと毛のもっふりした茶トラの猫みたいだ。胴がかなり長いけど。


 妖怪すねこすりは私にとても懐いている。雨の中で弱っていたすねこすりを見つけて拾ってきたのが私だから。必死に温めた犬猫用のミルクを飲ませて、乾いたタオルでくるんで抱きかかえて歩いて、私が育てたから。


「アーン」

 制服から着替えている間にも、すねこすりは足元ですりすりしながら私を誘う。早くこたつへ行こうよ、と。

 寒い時期はすねこすりにとってもこたつは魅力らしい。

 私は宿題を抱えると、すねこすりを従えてリビングへと向かい、妖怪と一緒にこたつに入った。


 足に当たる丸まった妖怪の感触。それはだんだん伸びてきて、あり得ないと思うほど伸びた当たりでこたつから顔だけ出してきた。

 うん、こうしてみると本当に猫みたいだ。


「ねえ、こすりんの三種ワクチンの通知来てたわよ」

 お母さんが郵便受けから出して渡してきたのは、動物病院のお知らせだ。毎年この時期にこすりんは三種ワクチンを打っている。


 猫? 猫じゃないってば。

 妖怪だよ。本当だよ。

 茶トラの毛並みで、胴が長くて、足にすりっとする妖怪。

 だからそれは猫だって? 違う違う。


 うちには妖怪がいます。

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こたつの中のすねこすり 加藤伊織 @rokushou

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