無能《暗殺者》はそれでも万能です。

棚と酢

第1話 エピローグからクビってマジですか?

時刻は老若男女寝静まる丑三つ時。

二つの満月が雲に隠れながら揺らぐ。

ある城の窓から枠から覗く怪しげな影。

そう俺ヒスイ ヒューステリア 帝国暗殺部隊特別処理班班長 その人である。悪趣味な骸骨モチーフの仮面は支給品です。かっこ捕捉。認識阻害のマジックアイテムです。


俺はとある帝国からの指令により急遽お腹と頭と歯の痛みに耐えるウェイバー君の代わりとしてある王国の王女をアイエエエ!?する為にきた暗殺者である。南無三

ヒスイは 目の前で両手を合わせてお辞儀をする。


「てかウェイバー君絶対仮病だよね〜。

今日日小学生だろうがそんな理由で休まないもんね〜。

まぁ仕事は仕事 割り切るしかないか。でも何かと言って久々のこう まともな仕事だもんな〜 普段はもう清掃員ですかってくらいだもんな朝から晩まで帝国内を掃除して排水路に湧く魔物を駆逐してムラサメさんの荒らした現場を文字通りキレイサッパリにして師匠にボコられてメノウに睨まれジークさんとグラムさんに嫌がらせされてはコハクいや王女様には延々と国策について小言を言われムラサメさんに技の的にされ ……んっ おや何故だろうか目から涙が止まらないや。……泣くのはやめよう。こんなついてない日々を終わらす為にもここはおこぼれだけども成果を出して昇進して師匠もムラサメさんもメノウもぎゃふんと言わせてやるんだ!」


ヒスイは強く握りしめて自分に言い聞かせるように喝を入れ中の様子を静かに見据えると王女は既に二人ほどの刺客に攻撃を受けて魔法の膜を張って必死に耐えていた。



「……ふむふむ 王女様はってもうすでに襲撃されていらっしゃる?!アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?って言ってる場合では無い!俺の昇格ぎゃふんと大作戦がぁあ!邪魔されてなるかよ!先にあいつらからやったんぜぃ!!」

ヒスイは窓ガラスを叩き割らんばかりに驚き奮起し窓ガラスを開け放ち王女と下手人との間に躍り出る。


「貴様らぁあ 許さんぞこれは俺のえッ…… 物だぁぁあ 話し中に切りかかって来んのやめようね君よく仲間内で空気読めない奴って言われてるでしょ言われない? いぃや影で絶対言われてるだろこのすっとこどっこいがぁ!」

ヒスイは刺客の凶刃を己が帯刀した黒い小太刀で受け流し刺客に悪態をつく。


刺客二人は静かにお互い頷きコンタクトをとり狙いをヒスイへと絞った。

「うわっと……何々俺から始末する感じですか〜?まぁまぁそうだよねぇ〜邪魔者だしね。用はお互い被ってるけどお互いに引けない時ってあるもんねぇ〜さぁてお手並み拝見といきますか。ドーモヨロシクちゃん。」

ヒスイは黒い小太刀を逆手に持ち笑みを浮かべ低い姿勢を保ち正眼に構える。


刺客達はくぐもった声で血走った眼を浮かべながらヒスイに飛びかかる。

「若造風情がッ!……毒針魔法 ポイズンレインッ!!」

「死に晒せッ!……毒剣魔法 ベノム ラッシュッ!!」

二人の刺客はヒスイを取り囲むように広範囲の魔法を仕掛けながらヒスイににじり寄る。


ヒスイは視線を下に向け静観して佇んでいる。


「ほらほら!どうしたよクソガキ!さっきまでの威勢はよぉ!!今更泣いたって無駄だぜ逆に弟は喜んじまうからよぉなぁコソケよ!げはは。」

刺客は毒針の雨を降らしながら下卑た笑みを浮かべながら静かに歩み寄る。

「そうよぉ!今更漏らしたってよぉ 兄ィはそうゆうのが大好きだからなぁ見せてほしいよなゲソクの兄ィ!ぶはは。」

刺客は剣戟を振るいながら歪んだ笑みを浮かべにじり寄る。


ヒスイは下を向いていたかと思うと静かに天を仰ぐ。


二人の刺客は笑みを深めると

お互いの渾身の技をヒスイへとぶつけた。

「死ねっ!!」

「おっちんじまいなぁ!!」


あわやぶつかるとその時ヒスイは笑みを浮かべ二言呟き

「《透過》からの《倍化》!」

刺客二人が放った魔法はヒスイをすり抜け己の又は相方の魔法が増加し直撃した。


「ぐっ……がぁぁお、弟よ何故ッ!?ぐがぁあ身体がッ 身体がッ灼けるように熱い ぐおぉ……」

刺客の男一人は地面に焼け爛れた様に毒の剣戟をくらいもんどりうって転がった。


「うぎぁあぁ!!痛いッ 熱いッ 痛いッ 兄ィぃ! 身体がッ 身体がッ 痛いよぉぉ!! 」

刺客の男は見るも無惨に焼け爛れ 毒針の雨をもろに受けたのだろう 兄だろう刺客に手を伸ばし芋虫の様に這いつくばる。


「……うっし。やべぇちょっとマジ死ぬかと思ったわ。本当ギリギリだったわいや〜ちょっとちびっちゃったかもなぁ〜。てか大分グロい事になってんなぁ〜なかなかやばたにえん。」

ヒスイは滝みたいな冷や汗を拭いながら自分をひっしと抱きしめ生への喜びを感じ刺客二人の魔法の末路にガタガタと歯を鳴らす。


「とりあえずまぁ可愛そうだから少し治してやるか〜 《気絶》×2《治癒》×2《拘束》×2まぁまぁ こんなもんかな?」

ヒスイは二人の意識を刈り取り爛れた皮膚を治療し縄で縛って置いた。


「さぁて……全然忍んでないけど本務を全うしますかねぇ〜 お姫様は何処かなっと!!…とッ?!」

ヒスイは刺客二人を転がすとターゲットである王女に向き直ると固まってしまった。

いつの間にやらすぐ後ろまで歩み寄られていた。


そのあまりの可憐さに。

その儚げな顔に。

そして青く澄んだ宝石の様な瞳に。

思わず吸い込まれてしまいそうな淡いルージュの唇に。

強く抱き留めたら折れてしまいそうな華奢な身体に。

不思議そうに此方を見ながら首を傾げる。

ヒスイは頭からつま先までまるで雷に打たれたかの様に衝撃が走った。


「……えぇ 好き やばッ語呂力かなりヤバいけどなんて言ったら分からないけどすっごい好みだわ もう任務なんかどうでもいいッ! 今すぐ王国に亡命したい!もう国民として推したい申し隊したい。語呂力やばんなるクイナ。」

ヒスイは爛々と輝かせて悶え苦しむ様に転げ回る。


すると

静かに王女は口を開く。

「貴方は何方ですか? 私はラピス一応王女です。 ごめんなさいね 私生まれながらに目が不自由でして魔力感知でしか見ることが出来ないから城の護衛の方の魔力では無かったので少し気になりまして。ですが本当に危ない所を助けていただいてありがとうございます。」

王女 ラピスは憂いの表情からヒスイを真っ直ぐに捉えると花が華やぐ様な笑みを浮かべる。


ヒスイはふたたびの雷を受けたかの様に自然と跪いて伏していた。

「いえ!め、滅相もございません!俺いや私の様な影に生きる者が王女様の様な方のお力に微力でもなれたのなら深くありがたき幸せ。」

ヒスイは帝国式なれど伏して構えた。


ラピスは慌てた様に己が綺麗なお召し物を汚れるのもいと合わず屈み。

ヒスイの手を両手で掴み握りしめる。

「いえ!貴方の様な影ながら護って頂いている方々がいらっしゃるから私達が国民や家族を守ることが出来るのです!そんな日陰物みたいにご自身を汚さないで下さい!貴方はとっても澄んだ魔力で私を照らし出して下さる勇気あるお方ですよ 本当の本当にお救い下さりありがとうございました。」


ラピスは涙を浮かべながらヒスイを抱え込む様に抱きしめ背中をさすった。

いつの間にやらヒスイは自然と嗚咽しながら涙を流していた。


其れからぽつりぽつりと自分が何者で何をしに来たかとゆう事いままで帝国で冷遇されてきた事をヒスイはラピスに告げ謝罪をしたが謝るなとラピスに怒られ尚も謝ると不機嫌にしヒスイが罰悪そうにするとラピスが吹き出すといって時を過ごしていった。


ヒスイはすくりと立ち上がり一礼をした。

「いと慈悲お方ラピス様 我が罪科を許していただいた 貴女様の広き御心遣いに感謝致します。」


ラピスはむすりとしながらジトりとヒスイを睨むと。

「だかぁら!その丁寧な口調をやめてほしいって言ってるじゃないですか…直らないのですね。はぁ。ふふ。」


ヒスイは伏した顔を上げるとラピスに釣られたかの様に吹き出す。

「ふふ…すみませんね。ですが一応礼儀ですので そろそろ俺も国に帰らないと行けませんので てっかあんな派手な騒動があったのに誰も来ないんですね?意外と手薄?」


ラピスは笑みを浮かべながら名残り惜しむ様にヒスイの顔へと手を滑らせる。

ラピスの滑らかな柔い手がヒスイの輪郭を惜しむ様に触れる。

「……いいえ。私が緑障壁魔法ウォールオブバンブーで騎士様を何人が足止めしてるからまだ来ないだけよ。そろそろ騎士団長クラスの方がいらっしゃるから足止めも無理ね。逃げられなくたってしまうからそろそろお別れね。」


泣き出しそうなラピスの頭をひと撫でするとヒスイはにこやかに笑う。

「ありがとうラピス……いつかまた何処かで会えたらその時は貴女に忠誠を誓おうこの矮小なる影 貴女様の刃になりましょう。受け取ってくれますか?我が心を。」

ヒスイは己が黒い小太刀をラピスに献上する様に差し出す。


「こ、これがポロポーズとゆうやつですかごにょごにょ……ごほんごほん はい 私 ラピス アジェット ロクサイトは汝が心を頂戴し汝再び逢い見える時に 忠誠を誓い合うと約束致します。」

ラピスは火がついたかの様に真っ赤になりながらも高らかに祝詞をあげる様に宣言した。


ヒスイは涙が出そうになるのを堪えて伏して感謝を述べ静かに闇夜に消えていった。



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その後

帝国に帰ったヒスイは帝国暗殺部隊特別処理班副隊長(バーコードハゲ)に事の顛末を話した。


「ですので、王国の王女様はめっちゃいい方なんでもう暗殺とかはしないで欲しいんですよお願いしますよ。」


副隊長はにこにこと笑いながら。


「うん お前クビな。明日から帝国から出てっていいぞ。てか今出てけ!この無能がッ!」


バーコード隊長激おこである。

ヒスイ ヒューステリア

元帝国暗殺部隊特別処理班班長 

国任の失敗により現時刻を以て解雇処分と致す。

異議申し立てがあるなら死をもって贖うものとす。



デットオアアライブってマジですか?

帝国の門は固く閉ざされた。












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