収穫祭
ちょうどその日は収穫を祝う収穫祭の行われる日の数日前の事であった。町長は執務室から収穫祭の準備が行われている庁舎前広場の様子を満足そうな笑顔を浮かべながら、眺めている。
忙しなく動いているたくさんの人々。その全てが自分の思い通りに動いてくれる。誰も自分に逆らえない。
今期で任期が六年目。確固たる地盤で市の権力を握っている。そして、今度の収穫祭において、町長は次の町長選にも立候補する事を宣言しようと思っていた。その為にも、今回の収穫祭は、いつも以上に力を入れている。町長の力を見せつける為にも。
町長は自分の不安要素をあらゆる手を使い潰してきた。自分の地位を脅かそうとする者、または今後、その様な存在になりそうな者を色んな手口て蹴落としてきた。
お陰で今や自分を脅かす存在なんてこの町にはいない。
思わず片方の口角がきゅっと上がる。
と、その時だ。執務室のドアがノックされた。
「誰だ?」
執務室に入ってきたのは、町長の秘書の女であった。秘書は町長に一礼すると側に歩み寄り、収穫祭までの予定を報告した。
特に問題はないようである。
順風満帆。
まさにその言葉通りであった。邪魔はいない。
年に一度のこの収穫祭を成功させる事が、町民……いや町内外へ現町長である自分の権威を知らしめれる機会なのだ。
何も問題もなく日々は過ぎていき、収穫祭当日となった。町中は熱気に溢れかえり、色とりどりの旗や飾りのでとても華やかである。また、メイン会場である庁舎前広場は、色々なバザーや大道芸人達によるパフォーマンスで大賑わいをみせていた。
そんな町の中をボディガード達に守られながら視察している町長。その町長に町民達が笑顔で手を振り、挨拶をする。その挨拶に満面の笑みで応えている町長は、ふと賑わっている通りから外れた小道に視線がいった。
通りの賑わいとは真逆に薄暗く、小汚い小道。その小道の少し奥に、一人の男が座っている事に気がついた。
もとの色が分からないほどに薄汚れ、ぼろぼろになっている洋服に、その袖や裾から出ている痩せこけ、浅黒い肌。一体いつ手入れしたのだろうかと思われる長くぼさぼさの髪。窪んだ
町長はその男に見覚えがあった。たしか、以前は番兵の長だった。しかし、罪人に情けをかけたことにより身分を剥奪され、その後は職を転々としながら、路上生活者へと落ちぶれていった。
町長は小さく舌打ちをすると、そばにいたボディガードの一人に耳打ちをすると、その男から目を離し、また、華やかな表通りを歩き始めた。
この町にあの様な民は要らない。
税金さえ払えないだけではなく、町の品位を落とす脱落者。町長はただ収穫祭の視察だけで歩いているわけではなかった。この様な祭りでは人々は浮かれてしまう。その浮かれた時に、普段は見せないような行動や、言えないような話しをしてしまうものである。それを調べるという理由もある。
念には念を……である。
自分の進む道に対して邪魔になるものは、小指の先程の小石だろうが排除する。それが町長自身の現在の安定した権威を保ってくれる。
そんな町長の元へ、彼の部下である男が慌てた様子で駆け寄ってくるに気がついた。
男は息を整えると町長へと近づき要件を伝えた。
「聖少女が、町長への面会を希望されています」
mihi vindicta: melodiam ちい。 @koyomi-8574
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