双子の直観エッセイ
無月弟(無月蒼)
第1話
KAC三回目のお題は『直観』。
『直感』ではくて『直観』。このお題で、頭を悩ませた人は少なくないと思います。
では『直観』とは何か。
例えば誰かと話をしている時。相手が何か言いかけたとに何を言おうとしているかを、瞬時に察する事はないでしょうか。
それは過去の経験から、この人はこういう事を言おうとしているのだと、『直観』したということなのでしょう。
『直観』というのは案外『直感』以上に、身の回りにありふれているのかもしれません。
特に自分の場合、話しているとよく直観が働く相手がいます。
それは長年連れ添っている、双子の兄。今まで深く考えた事はなかったけれど、思い返してみれば自分達はお互いに直観で相手の考えてることや状況を察している事が多々ありました。
例えば。
「ウヴァおおおおおおおうっ!」
突然隣の部屋から、兄の叫び声が聞こえてきて。瞬間、自分は直観的に思いました。
「どうした? 漫画、『君は春に目を醒ます』を読み返して、キュンキュンしすぎて叫んでいるのか?」
「何でそんなピンポイントに当ててくるんだよ!?」
そりゃあわかりますよ。もう何度も読み返した漫画なのに、読むたびに叫んでいるのですから。
他の漫画を読んで叫ぶ事もありましたけど、この叫び方はこの漫画だと、直観的に思ったのですよね。
付き合いの長い兄弟ですから、こんな感じで察する事だってあるのです。
またある時は、こんな事も。
自分が新しく書く小説の事を、兄に相談した時の話です。
「新作小説で、戦隊ヒーローのパロディを出そうと思うんだ」
「どういうやつだ?」
「『胸キュン戦隊イケメンジャー』。乙女ゲームの攻略対象キャラをイメージした戦隊で、俺様系レッド、クールブルー、王子様イエロー、ショタグリーン……」
「東映に怒られそうな戦隊だな! で、最後の一人、女性メンバーは宝塚ホワイトか?」
「よくわかったな」
「そっちの考えてることなんてお見通しだ」
察することができたのは、イケメン女子と言えば宝塚の男役だと、過去に度々話をしていたのが原因ですね。
過去のデータを瞬時に思い出して、直観的に宝塚だと思ったのでしょう。白という色も、宝塚のイメージは白だと直観で分かったに違いありません。
こんなわけで互いの考えてることを察する事が多いので、テレパシーでも使えるのかなんて言われる事もあるけど、そんなことはありません。
全ては過去の経験や片割れの思考、性格から直観的に察しているだけなのです。
さらに言うとこの直観というのは、狙ってできるわけではないのです。
例えばジェスチャーや短い言葉で相手に何かを伝えるコミュニケーションゲームをやっても、なかなか伝わらなかったりします。
双子なんだから、互いの考えてる事くらい分かるでしょう、なんて思わないでくださいね。
双子は超能力者じゃないのですから、ハードル上げられてもこまりますよ。
直観的は狙わずに、突然やって来ることほとんど。
だけど来た時は間違いないって、自信がある場合が多いですね。
しかし、やはり何事にも例外があります。
去年の春のこと、こんな事がありました。
ある日兄が、スマホを見たまま固まっていたのです。
「何かあったのか?」
「それが、カクヨム運営からメールが来たんだけど」
カクヨム運営からメール?
瞬間、ピコーンと直感しました。これはきっとアレだ。
「著作権に引っかかったんだな。歌の歌詞か、何かの作品のパロディネタをやって、運営に怒られたんだろう」
恥ずかしいことに、自分達兄弟は過去にこの手の事で運営から注意された事があって、今回もそれだろうと思いました。
さて、問題はどの程度の手直しが必要か。注意された箇所だけを直せば良いのなら簡単ですけど、もしかしたら作品を非公開にしなければならないかもしれませんからねえ。そうなると、仕方がないけどへこみますよ。
ところが、兄から返って来た答えは予想外のものでした。
「違うんだ。自分の小説が受賞して、書籍化できるかもしれないって言われてるんだ」
「はあっ⁉」
この時は直観、大ハズレでしたよ。
だって仕方が無いじゃないですか。今までカクヨムで交流がある人ならともかくリアルの知り合いで書籍化経験のある人なんていませんでしたから。受賞した人のリアクションなんて見たことが無いわけです。
これを直観で当てろなんて、いくら双子の兄弟でも無理!
と言うわけで。
双子は互いの事を察するのが得意なんて言われていますけど、過去に経験のない事を察するなんて出来ませんから。
双子は同じDNAを持っているから、意思疎通ができるというわけではありません。
過去の経験から来る、直観によるものです!
双子の直観エッセイ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
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