『第六感を持つ男』(KAC20213:直観)

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『第六感を持つ男』

 ——突然だけど、お前は第六感だいろっかんってやつを信じるか?


 バカ、ちげえよ。なんだよ大局観たいきょくかんって……俺が言ってるのは第六感だよ、第六感! 知らないか?


 ほら、よくあるだろ? スパイ映画とかで主人公がホテルの部屋で休んでるときにさ、妙な胸騒ぎを感じて警戒していたら、見事に敵の奇襲きしゅうを阻止できたとかいう……アレだよ。


 あ〜そうそう、そんな感じ。いわゆる直観ちょっかんってヤツだな。


 ああ、もちろんわかってるよ。映画でのああいうのは物語を盛り上げるための演出で、ご都合主義満載なモノだってことは。


 だから俺が言いたいのはそういうことじゃないんだ。それが現実に存在すると思うかってことなんだよ。


 どうだ、リョウ? お前はそういうの存在すると思うか?


 いやまあ、なんでそんなことをくのかってというとだなァ……どうやら俺にはソレがそなわっているみたいなんだ。


 ちょ! 笑うなって! こっちは真剣なんだよ! 親友のお前にだから言ってんだぜ!


 いやいや、ぜってぇ思い込みなんかじゃないんだって! 俺だってなんどもそう思ったけど、もうそれじゃ説明がつかないんだよ!


 ……え、証明?


 あ、いや、それは無理だよ……俺だっていつソレを感じるかはわからねえんだからさ。ホント急に感じるときがあるってだけで……。


 そう……なんとなく、こう、危ない感じがするときがあるんだ。頭の奥がざわざわっとした感覚になるっていうか……さっきまで行こうとしてたところに、急に行きたくなくなることがあって……それで後になって、その場所で事故とか事件とかが起こってたってのが、よくあるんだよ……。


 なぁ信じてくれって、リョウ。マジな話なんだ。


 ……んなこと言われてもしょうがないだろ……証拠が残るようなモンでもねえし……俺にはお前に信じてもらうしかないんだよ……。


 あっ、そっか。そりゃそうだよな。具体的な話もせずに信じろってほうがどうかしてるな。わりィ、なんか俺、焦ってたみたいだ。


 よし、でもそれなら色々あるぜ。小学校のときには毎日のように遊んでいた公園に車が突っ込んできたり、中学ンときには受験の時に乗る予定だったバスが事故ったとか……俺が嫌な予感を覚えて遊ぶのをやめたり、乗り物を変えたりした時に限ってそんなことが起きたんだよ。


 だろ? それに、最近でいうと去年にもあったんだ。


 ほら、お前も覚えてるだろ? 去年の暮れに◯◯県の温泉宿で起こった事故のこと。何人か死傷者が出たらしくて、結構ながくニュースでやってたしさ。


 そう。で、じつは俺さ……あの日あそこに行く予定だったんだよ、家族旅行でな。


 ホントだって。なんならあとで姉ちゃんにでも確認してくれていいからさ。


 とにかく、俺ンはその事故当日あそこに行くはずだったんだよ。けどその日の朝、俺、なんとなく感じたんだよ……嫌な感じってヤツを。


 ああ、俺にみょうな直観があるってことは家族も知ってたからさ、変えてもらったんだ。行き先を違うところにしたわけ。もともと温泉に入りにいくだけで日帰りの予定だったからな。


 それで家に帰ったらあのニュースだろ? ホント、今でも家族には冗談まじりに言われるよ。ケンタ大明神だいみょうじんさまさまだってな。まぁ無事だったからこその軽口かるくちなんだろうけどさ。


 ……いやだからァ、俺も何度も言うけど偶然なんかじゃねェんだって! よく言うだろ? 一度だけなら偶然でも、それが二度三度も続くと必然になるって。


 頼むぜ、リョウ……俺はお前に聞いてもらうために、わざわざこんなトコまで来てもらったんだからさ……。


 ホントいうと、俺、怖くなってきたんだよ。この第六感みたいな力にさ。


 どうしてって……いいか、リョウ……これって裏を返せば、俺はもう死んでいたかもしれねえってことなんだぜ?


 考えてもみろよ。もし俺があの日、あの温泉宿の事故が起こった日にを覚えてなかったらどうなってたよ。それだけじゃねえ、中学ンときのバス事故だって、俺が乗ってたらどうなってたかわからない。


 ほんのちょっと選択を間違っただけで、俺は死んでいたかもしれないんだ……そう思ったら、なんか怖くなって、誰かに……ん、ちょっと待て。いま何か聞こえなかったか?


 そ、そうだよな……こんなトコに誰か来るわけないねえよな……。気のせい、だよな。


 ははっ、ま、まあとにかくだ。俺はお前に聞いてもらいたかったんだよ。俺たちってさ、思ったよりも運に左右されて生きてるんだってことをな。


 ……お、おい……今の音、リョウにも聞こえた、よな?


 もしかして、誰か来たのかな? こんな山奥にある廃墟はいきょに?


 え、なんだって……逃亡犯? なんだよ、それ。


 ああ、それは知ってるよ。何人なんにんも通り魔的に殺した男で、護送中に警官の銃を奪って逃げたとかいうヤバいヤツだろ……?


 え、そいつがこの町にいるかもしれないっていうのか? お、おい……冗談はやめろよ、それは流石にシャレになってないって。


 そ、そうだな……続きはどっか他の場所で話せばいいしな。はは、考えてみれば、こんなオバケでも出そうな場所で話すようなことじゃなかったな。普通に喫茶店にでもしとけばよかったな、わるいリョウ。


 そ、そうだよなァ! 俺には第六感があるしな……いまはなんも感じねえし、危険なことなんか、うん、起こるはずねえよ……。


 ——ちょ、アンタ、だ、誰だよ! 


 なっマジかよ……。


 やめろってリョウ。下手に刺激するとなにしでかすかわかんねえぞ。相手は拳銃を持ってんだ……ここは穏便おんびんに話すしかねえって……。


 お、おいっ、アンタ! か、勘弁してくれよ! 俺たちアンタのこと通報したり、誰かに言ったりなんかしない! だから見逃してくれって! 頼むよ!


 ……う、嘘だろ……り、リョウ……お、おい起きろよ、リョウ、リョウ! な、なんでだよ……なんてことすんだよ! てめェ!


 くっ、この、やろうッ!


 や、やめ——


 ……。

 …………。

 ………………。


 ………………。


 ………………。


 ………………。


 ——突然だけど、お前は第六感ってやつを信じるか?


 バカ、ちげえよ。なんだよ大局観って……俺が言ってるのは第六感だよ、第六感! 知らないか?


 ほら、よくあるだろ? スパイ映画とかで主人公がホテルの部屋で休んでるときにさ、妙な胸騒ぎを感じて警戒していたら、見事に敵の奇襲を阻止できたとかいう……アレだよ。


 あ〜そうそう、そんな感じ。いわゆる直観ってヤツだな。


 ああ、もちろんわかってるよ。映画でのああいうのは物語を盛り上げるための演出で、ご都合主義満載なモノだってことは。


 だから俺が言いたいのはそういうことじゃないんだ。それが現実に存在すると思うかってことなんだ…………っていうのをきょうお前に聞いてもらおうと思ったんだけど……んーわりィ、やっぱやめようか、この話。


 いやホント悪いな。こんなトコまで連れてきておいて。なんか急にめんどくさくなっちまった。


 あん? たくっ……しょうがねえなァ、わかったわかった。おごってやるよ! ま、今回は俺が悪いしな。


 よし、じゃあすぐに行こうぜ。ちんたらしてたら売り切れるかもしれねえしさ。


 いや、ホントいうと、なんかさっきから嫌な感じがするんだよ、ここにいるとさ。頭の奥がキュッと締め付けられるような感覚っていうか……ざわざわと危険な感じがするっていうか……。


 ははっ、ああ、そうかもな。


 第六感なのかもな。



(完)

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